第17話 一件落着?

 赤い着物の女の子は、完全に消え去った、いやジンドーにかき消されたと言った方が正しい。

 私はその光景をただ見ていることしかできなかった。

 間を置いて、私はようやく恐怖から口が解放される。


「こ、殺しちゃったの?」


 私の質問にジンドーは首を振った。


「いや、あれは分霊と呼ばれるものである」


「分霊?」


「強大な神は、時として、自身の分身を作り出し、人と関わったり、人を苦しめたりするのである」


「苦しめ……?」


「人間に有効的な神ばかりではないと言うことである、さっきの神のように、人に害をなす者もいると言うことなのである」


「じゃ、じゃあ、あの子はやっぱり……神……なの?」


「その通りである」


 そんな神に喧嘩を売ったのか、ジンドーは。

 怖くはないのだろうか。


「さて、帰ろう!」


 あっけらかんとそう言うジンドーは頼もしく見えたが、根本的なことは何も解決していない、あの赤い着物の女の子はジンドー曰く神様みたいだけど、何でそんなすごい存在が私を、贄なんかに選んだのかわからない。


 そうだ、そもそも私は普通の人間で……。


「界さん? 大丈夫なのであるか?」


「大丈夫じゃないかも……」


「とりあえず、一旦うちに帰るのである! 痛いところはないであるか?」


「だ、大丈夫!」


 すると、ジンドーは私をお姫様みたいに抱える。相変わらず恥ずかしかったが、今までの恐怖の分、安心できた。

 なんだか急に眠気まで、襲ってくる始末で……。


 ああ、だめだ眠い……瞼が重い……寝ちゃう……。



 ─────────────



 またあの夢だ……。

 何故か私はそう思った。

 浅瀬の水辺の上に立つ赤の鳥居、その鳥居を目の前に私は裸足のまま立っている。


 水平線から登る朝日がどうしようもなく綺麗で、日の光が鳥居を彩っているその風景がとても幻想的だ。


 ─ーチャリン


 鈴の音、私は動けなくなる。

 怖いから動けないのか、それとも、金縛りに合っているのか、わからない。


 それでもやはり私は振り向けない、後ろから近づいてくる鈴の音に恐怖を抱くことしかできない。


 冷たい手が私の首に触れる。


「なんで、わたしのところに来てくれないの?」


 なんのこと?


「わたしに、食べられてよ」


 いやだ。


「でないと、死んじゃうよ」


 何の話?


「貴女の好きな人が」


 ─────────────


「お、目が覚めたであるか」


 私は空にいた、正確にはジンドーが運んでくれているんだ、お姫様抱っこで。


 相変わらず恥ずかしかったが、今はそんなこと気にしている場合ではなかった。


 今回は覚えているあの夢の内容を。


「ジンドー、変な夢を見たの、多分、あの赤い着物の女の子の……」


「……詳しく、聞かせてくれるであるか?」


 私は頷いた、そして家についた私たちは、早速リビングの食卓に着き、情報を共有しあう。

 私が贄と呼ばれていること、それは昼か昔に決まっていたことであること、何らかの方法で私が生贄になる事をを回避していたこと。


 そして夢のこと。


「……贄」


 ジンドーは短くそう呟いた。リビングの食卓に着いたままジンドーは考え込む。


「厄介であるな、それは」


「そうやっぱり……」


 ジンドーの重々しい表情に私はことの重大さを改めて感じとる。


「何が厄介なのか、それは君が捧げられる存在であると言うことである」


 ジンドーは、重々しく喋り始める。


「神と人が交わした約束には、強い力が発生する。その約束が、果たされなければ、例えば地域に災いをもたらしたり、約束をした個人に報復したりもする」


「それって、じゃあ!」


「そうである、今回の神は君を約束を反故にした、生贄と見ている。君がその報復の対象に選ばれたのである」


 そんな、力が抜ける、眩暈がする。じゃあ私は、いつ受けたかもからない約束のために命を狙われるのか。


 せっかく学校に行けたばかりなのに、何で、私ばかり……。


「大丈夫!! 吾輩が何とかするのである」


 落ち込んでいる私を見兼ねてか、ジンドーは元気付けるためにそういってくれた。少しホッとする。

 彼がいてくれてよかったと思うと同時に、いくらジンドーでも本当に大丈夫なのだろうか、とか、そんな事を考えてしまう。


「ありがとうジンドー」


 いくら不安になっていても、しょうがないのは確かだ。理屈ではそうわかっている、でもなかなか受け入れ難い情報ばかりのせいで、不安は増大していくばかり。


「ジンドー、私達は何をするべきかな?」


「そうであるな……まずは君の笑顔のためにも学校作戦は続けなくてはならない」


「うん」


「そして、例の赤い着物の神についても調べねばならんのである、もちろん警戒も依然よりも強化せねばならんのであるからして……」


 ジンドーは考える、唸り、俯くそして、考えに考えを重ねたとでも言わんばかりに、ガバリと顔を上げ宣言した。


「まぁ、全部やればいいのである」


 シンプルな言葉に私はガクリとずっこけそうになった。


「そんな?! ジンドー大丈夫なの?! そんな……作戦? ジンドーが倒れちゃう!」


「吾輩に過労はないのである!」


「で、でも」


「心配はいらんのである! 界さんだってやっと学校に行けるようになったのであるからな! 学校の、青春生活を大事にするべきである!」


 やっと学校に行けるようになった、それは確かに、そうだ、たった一日だけでも行けるようになったのだ。

 でも、いいのだろうか私は何もしなくても……。


「ねぇ、ジンドー……私に出来ることはない?」


 私は初めてジンドーにそう聞いた。

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