第18話 クレナイ様

「出来ること?」


「うん、赤い着物の女の子は私の好きな人を殺すって言! ……多分、須藤先輩も巻きこまれることになる……! だから私もできる事をやって分担していかなきゃ!」


 そう力強く、私は主張した。

 するとジンドーはうーんと、唸りそして言った。


「そうであるなぁ、出来るなら、一緒に図書館でもいかないであるか?」


「図書館?」


「うむ」


 ジンドーは、頷く。


「あの神様の情報が欲しいのである、もしかしたらここの地に住まう土着神という可能性もなきにしもあらず。なのである」


「なるほどそれで図書館ね……」


「そうである、というか界さんは何か、聞いたりしたことないであるか? なんか小学校の授業とかでそういうの地域の歴史的なので聞いたことあるのではないか?」


 小学校、私にとっては馴染みの薄い言葉だった。


「ごめん、私、実は小学校ほとんど行けてないの、ちょっと病弱でね」


「……そっか、なんかごめん」


「うわぁ! 急にシリアスにならないでよ!」


 悪い事を聞いたと思ったのか少しジンドーは申し訳なさそうだった、少し面白い。

 気を取り直して私達は、再び計画を立てた。

 目指すはクロカミ市の市立図書館である。

 移動はジンドーに任せ、二人がかりで、休日を使い尽くして図書館を調べることに決めたのだ。


 全ては、私の……自分の幸せのためだ。


 ─────────────


 二日後、学校の休日の日に無事、私達は市立の図書館に来ることができた。今日の気温は、もうすぐ夏ということもあってか少し暑い。半袖で来てよかった。


 それにしても、二日間、無事、学校にも行けて、休日外出できるようになった、というのは引きこもりだった私にしては随分と目覚ましい成長のような気がする。


 今まで散々、化物に追い回されたり捕まったりしたおかげか、精神的に成長した。つまり学校に行く程度のことでストレスを感じなく無くなったのだろうか?


 いや、というより。


 チラリと隣を見る、夏日一歩手前だというのに、黒尽くめの学生服と帽子、プラスで黒ストールなんていう暑苦しい格好のぽっちゃり悪魔、ジンドー。


 このジンドーの存在がやはり大きい。彼のお陰で、私は学校に行けるようになったのだ。


 なにから何まで、彼に頼り切りの今まで、私はそれから卒業したいと思う。

 少なくとも今だけは、ジンドーと一緒になにかやりたい。

 役立たずでいたくはないのだ。


「さて、無事ついたのであるな!」


 ジンドーは相変わらず、あっけらかんとしている。


「そういえば休みに入るまでの間も今も、全然何にも動きがなかったね」


「そりゃあそうなのである」


 ジンドーは腰に手を当てて得意がそうに言った。


「分霊を破壊したということは、この地域一帯、しばらくの間、活動が制限されるということであるからな」


「え、じゃあ! 今は誰にも襲われないってこと?!」


 ジンドーは頷いた。


「そうなのである、でもあくまでも新しい分霊が送られたり、再生されたりすれば意味はなあのである。でもそれまでの間、刺客の化物も来ないはずなのである」


「よかった、じゃあしばらくの間、須藤先輩とかが襲われることはないってことね」


「すまんなのである、すっかり説明を忘れてたのである!」


 すまんて、じゃあこの二日間ビクビクしていたのは一体なんだったのか、まあいいか。


「なんか、安心した……。とりあえず図書館にいこっか」


「うむ!」


 私達二人は、そうやって日に晒される屋外から、快適な図書館内に入って行った。


 図書館内は少しばかりの空調が効いているのか、涼しい。快適だ、思わず目的も忘れて休みそう。

 でも目的を忘れちゃいけない、私は気を取り直してジンドーと目当ての本を探すことにした。


 歴史、そして地域学から、何気ない、お伽噺なんかまで。

 ついにはクロカミ市の観光案内なんかまで、手を出して情報を収集していった。


 していったと言ってもほとんど無駄な知識ばかりだ、赤い着物の少女に関しては全く持って情報がない、それどころか、どんどん別のマイナーな神様が死ぬほど出てくる始末だった。


 ジンドーの方も難航しているようで。頭を抱えながら数冊の本を読んでいる。


 やがて集中力も根気も枯れ果ててきたころ。とある班が一冊目に入った。


 ─ー大和関東地方民話集


 大和の民話かこれなら何か手がかりがあるのではないだろうか。

 なんて本当は気分転換に読みたいだけだった。

 いままで小難しい本に目を通してきたからお伽噺でも、いいから何か息抜きついでに情報があればいい程度の気持ちだった。


 何気なく、本の真ん中目次を見てみる。どうやら県ごとに民話をまとめてくれているみたいだ。

 カライ県、サトシマ県と目を滑られさて適当に見ていくうちに見つけた、シジマ県、私の今いるクロカミ市が属する県だ。


 私は早速開いてみる。すると、最初はほとんどたわいもない聞いたことのあるようなお伽噺ばかりがあった。巨大なナマズが洪水の時助けてくれたとか、神様の使徒である、巨大なムカデがこの地に災いを、とか。


 どこか壮大だが関係なさそうな話ばかり、目が滑っていく、そんな時だった。

 不思議とその単語が目に止まった。


       クレナイ様

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