第11話 大作戦

 私は界ヒナタはすごくネガティブだ、それもものすごく。

 それを証明する出来事が今日、起こった。


 それは、スターランドから帰った翌日の朝。クローゼットを開けると、とあるものが目に入った。


 学校の制服。私の通う……いや通っていたクロカミ西中学の制服だ。

 いつもならクローゼットを開けてジャージに着替えるだけだけど、今日は違った。


 昨日スターランドに遊びに来ていた。同じ学校の生徒たちの学生服を見たせいだろうか。


「なんで、私、学校に行けてないんだろう……?」


 せっかく中学に入れたのにとか、なんで私はいじめに立ち向かえないんだろうとか。

 そんな思いが、涙が溢れ始めてしまった。

 ボロボロと、流れる涙を私は止められずにいた。

 クローゼットの前で私はうずくまる。情けない。

 情けない、情けない。


 ──ピンポーン。


 チャイムが鳴る。私は、重い体を立ち上がらせ、涙を拭いて、家の中にあるインターフォンの前に出た。


 インターフォンから聞き覚えのある声がする。


「やぁ! おはようなのである!」


「……おはよう」


「界さん、朝ごはん食べたであるか?」


「食べてない……」


 私がそう答えると、声の主ジンドーは、「それはよかった!」と嬉しそうに言った。


「朝ごはん買ってきたのである!」


 ─────────────


 おにぎりと、パスタサラダ、コンビニエンスストアで買ってきたのであろうそれらが、私の目の前の食卓に並んでいる。

 おにぎりは梅の入ったやつでパスタサラダは明太子味のパスタにレタスが入っている。



 目の前にいるジンドーは私と同じそれらを高速で食している。私もぼちぼちとおにぎりとサラダを食べ始めた。


 朝ご飯なんて、あまり食べないから新鮮に感じる。というか、誰かと食べるのも久しぶりだった。


 私の父と母はただいま別居中だ。だから今は母の家にいる。

 その母も今や、仕事が娘だと言わんばかりだった。

 私よりも仕事を優先しお金だけ残して仕事に行く、家に帰ってくることは少ない。


 だからだろうか、私は悪魔と食事していると言うのになんだか、いつもより寂しくはない。

 いつのまにか、私は朝泣いていたことも忘れ、ジンドーの買ってきたご飯を食べていた。


 ご飯を食べ終わったあと、ジンドーは言った。


「ごちそうさま!! いやーシャバのメシは美味しいのであるな!」


「そう?」


「そうである! 吾輩の故郷、奈落なんかでは……いやそれよりも! 作戦を立てるのである!」


「作戦?」


 そう! とジンドーはテーブルから身を乗り出した。


「界さん! 学校に行きたいのであろう!」


「う、うん」 


「ならば! いくべきである!」


「それは、そうなんだけど……」


 それができれば苦労はしない。


「もちろん、そう簡単にはいかないのである!」


 ジンドーはそう言って。バサリとどこからともなく紙を取り出した。

 そして私の目の前にそれを掲げて見せる。

 神にはこう書いてあった。


 ──学校大作戦。


 なんだそれは、と言いたかったが。言う前にジンドーさその紙を──。


「アァァイ!」


 と言って、真っ二つに裂いた。


「裂くんだ……」


 そのまま懐に破れた紙をしまうとジンドーは神妙なか顔で私をみると言った。


「さて、ではどうやって学校に行くかそれを話し合うためにきたのである」


「あ、そうなんだ」


 ただご飯を届けにきてくれたわけじゃないのかと思う私に対してジンドーは、話を続けた。


「では、まず吾輩から提案をさせていただくのである! ズバリ、今、界さんが学校に行けない理由はいじめなのである!」


「うん」


「だから、吾輩は! 転校をお奨めするのである!」


 そう言って、ジンドーはバサリとまたどこからともなく、なんらかのパンフレットを取り出し、テーブルに置いてあったおにぎりの包装紙や、パスタサラダの容器を捨てつつ。

 パンフレットをテーブルの上に置く。


「たとえば、この中学とかどうなのであるか? ハジメ中とか」


 どうやら進学のための保護者向けのパンフレットを持ってきてくれたようだ。


「ジンドー……これ……探してきてくれたの?」


「うむ! ざっと10個ぐらい候補を昨日探してきたのである!」


 ありがたい、でも、どうしよう実は私は転校をしたくない理由があるのだ。


「ごめん、ジンドー」


「なんであるか?」


「私どうしても、転校はできない」


「無論! それでも大丈夫なのである! が、どうしてなのであるか? いじめるような嫌な奴がいるところ、やめたほうがいいのである」


 ジンドーの言うことには一理ある、でも私は。


「実は、私、好きな人がいるの……」


「……なんだ! そう言うことであるか!」


「その! 須藤アキラ先輩っていう人でね。その……初めて会った時から……一目惚れで……」


 彼に、須藤先輩に会った日のこと今でも覚えている。先輩は野球部で。広いグランドで、野球に一つのことに打ち込む姿がすごく素敵だった。


 そしてそれだけで、先輩との思い出で何よりも、印象的なのは先生に頼まれてプリントを運んでいた時のことだった。


 プリントを私の不注意で落とした時、通りがかった先輩が一緒に拾ってくれたのだ。

 その時、須藤先輩が、優しい人なのだと実感できて益々好きになった。

 些細なことかもしれないでも、私は人生で初めて誰かを好きになるという感情を持つことができた。


「私ね……自分の初恋を……諦めたくないの、だからごめん」


 勝手なことだと思っている。本当なら須藤先輩のことなんて諦めて、すぐにでも転校した方がジンドーにとっても良いに決まってる。


「……謝る必要なんてないのである! 好きな人がいるのに、転校なんて吾輩だって嫌なのであるよ!」


「ジンドー……」


「だから! 作戦変更である!」


 ジンドーは再びどこからともなく紙を取り出して私に見せつけた。

 その紙にはこう書かれていた。


 ──学校突撃大作戦。


「これで行こう界さん」


「いや、どうやって?」


 どうやら復学の道は長そうだ。

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