第9話 暗闇の中で
ジンドーは内心焦っていた。
「やはり目視することで、発動するタイプか!」
界ヒナタが目の前で黒い人影に一瞬で飲み込まれてしまったからである。それに加え。飲み込まれる瞬間さえジンドーの目には捉えられなかった。
──僕のせいだ! 僕がもっと早く、気づいていれば!
ジンドーは悔やんだ。
しかし彼女の気配はまだ目の前の化物から感じる、つまり生きていると言うことだ、しかしどうやって倒すかはまだ、対策が練られていない。
もし不用意に攻撃すれば体内に、いる界ヒナタにも攻撃が及ぶ可能性がある。だからこそ考えなければいけない。
だが恐らくそんな時間を時間も相手はくれないだろう。
「そこの貴様、何を目的に彼女を攫うか!」
「……」
時間を稼ぐ目的で、ジンドーは尋ねるが。化物は黙っているままだ。
「教えてくれるわけがないか……ならば!」
ジンドーの体が光を纏った。すると体型や性別は少女のものよりも男性のものへ、服もセーラ服から、黒づくめ男子学生服の上下に黒のストールを合わせたものへと変化する。
そして背中からは、まるで星のような光の点が散りばめられた、漆黒の翼を背中から生やした。
ジンドーの戦闘形態とも呼べるその姿は、確実に敵を撃滅せんとする、彼の意志の体現でもあった。
化物は、そのジンドーの姿を見るや否や、ボコボコと自らの泡立たせるように、体を変形させる。
右腕は、歪に巨大化し、両足はその右腕を支えるためなのか、より右腕と同等に肥大化していた。
やる気だ、化物もまたジンドーを倒すために最適な体に変化させていたのだ。
「おまえ ころしたな? わたしのなかまを」
唐突に黒い人影は、そう言った。
「ころして やりたいところだが おまえをころせとは いわれなかった」
「誰に言われた」
「さあ? だれだったか」
「小賢しいな、化物」
ジンドーは、足に力を込める。
幸い周りに人はいない。これは恐らくこの化物が作り出した、結界のせいだとジンドーは考えていた。
恐らく、人を隔絶する異空間のようなものだ。
つまりここは、遊園地スターランドに似た別の空間、異界のようなものだ。
──逆に好都合だ、ここなら人の目を気にせず、本気を出せる。
そして、この結界を作り出せる目の前の化物は、その応用で、ヒナタをどこかに匿ったのだ。ジンドーはそこまで推察し一つの賭けに出た。
「ここで、貴様を倒せばあの子は戻ってくるのだろう」
「ためしてみるがいい かのじょを ころすきがあるればな」
ヘラヘラと三日月の歯を見せて笑う化物、その言葉はブラフか、それとも、真実なのか。
だが確かめる方法などもはや一つしか、ジンドーは思いつかなかった。
ジンドーは大地を蹴った。そして、翼を羽ばたかせ。さらに推進力をプラスさせ残像を残しながら黒い人影に肉薄していく。
「天涙!!」
ジンドーは愛刀の名を呼ぶ、すると、何もない彼の手元にどこからともなく水のような雫が落ちる。その雫は何もない空間に水面のような波紋を発生させた。
そしてその波紋の中心部からどこからともなく刀がその姿を表した。
ジンドーはその刀を波紋から抜き放ち右手に持つと、刃を振り黒い人影に向かって振り下ろした。
人影の化物はその一撃を肥大化した右手で受け止める。
「きさま ほんとうに おんなを ころすきか?」
化物の言葉にジンドーは答えない。
それどころかジンドーは刀を引き、二撃目を人影の首に向かって振り下ろす。空気を裂く、明らかに殺意の乗った刃は常人の目には追えないほどのスピードで、化物の首に向かっていく。
だが、その二撃目が人影の化物に届くことはなかった。
二撃目が到達する前に刃はピタリと止まった。
ニヤリと笑う人影の化物。
理由は明白だった。触手のように伸びた化物の左腕がジンドーの腹を貫いていたのだ。
「おわりだ こぞう」
「が、は!」
痛みがジンドーを襲う。愛刀の天涙がからんと地面に落ちた。
だが、同時にジンドーは笑った。
「油断したな、化物」
ジンドーは右手で化物の首を掴んだ。
「なにを!」
化物は驚きの声をあげるが、もはやジンドーの目的は叶った。
「ここまで来れば、探せる! 最初から貴様を殺す気はない!!」
必要だったのは、この化物が油断をする瞬間だった。勝ちを確信する瞬間。
その時でなければ、確実には化物の体には触れなかった。そして、真の目的を隠し通したままでいることも難しかっただろう。
「界さん! 今助ける!」
─────────────
暗闇の中で、私は目を覚ます。
暗いどこだろうここは。
そうだ私は、化物に飲み込まれて……それで……。
──界さん!
ジンドー?
私を呼んでる?
──界さん! 返事をしてくれ!!
私は……。
私はここだよジンドー。
─────────────
「はなせぇぇ!!」
肥大化した、右腕で化物はジンドーを殴りつけるだが、ジンドーは手を首から離さない。
──右腕を肥大化させたのを見るに右腕には界さんはいない、恐らくこの化物が唯一、変化させていないのは胴体だ! 胴体の近くに界さんに通じる何かがあるはずなんだ!
それは実質、賭けに近かった。
だが、この目の前の怪異に対してジンドーは無知である以上、こんな方法しか取れない。
「はなせといっている!」
化物の殴打は続くその度に、ジンドーはその衝撃と、痛みに耐えていた。
頭から血が出ようとも骨が軋もうとも、決してジンドーは、手を離さなかった。
そして、ついに、その時はやってきた。
──私は、ここだよ、ジンドー。
「見つけた!」
ジンドーは瞬間的に、化物の首から右手を離し、そして──。
「界さん! 手を掴め!」
そう叫びながら、化物の腹にジンドーの右手が突き刺さる。
「ごがぁぁ!!」
苦悶の声を上げる化物。
そして、ジンドーは思い切り右手を引き抜いた。
ずるりと化物の腹から出てきたのは、ジンドー右手だけではなかった。
ヒナタだ、化物の見た目の大きさでは決して入らないであろう、腹からヒナタが引き摺り出された。
痛みなら悶え苦しむ、化物からジンドーは気絶しているヒナタを抱え距離をとる。
「ぐっ、がぁ! かえせ かえせ! かえせ!!」
悶える化物は、叫びながらもしかし、痛みに耐えきれないのか追撃はできないようだ。
「嫌だね」
ジンドーは左手でヒナタ支えつつ右手を化物の近くに落ちている愛刀の天涙にかざす。すると天涙はまるで意志を持つかのように、空を飛びジンドーの手に収まった。
「さらばだ化物」
ジンドーは縦一直線に、刀を振り下ろした。斬撃は空を切り、そして──。
「なに──」
同時に、ジンドーの目の前にいる人影の化物を縦に真っ二つに引き裂いた。
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