第8話 黒
観覧車の中で私はハンカチを使って涙を拭う。
ジンドーはそんな私を何も言わずに、ただ見守ってくれていた。
だからだろうか、私は話し始めた。
そんな気がなかったのに、無意識に誰かに話したかったのだろうと思う。
なんで私が、学校に行かなくなったかを。
最初はなんともなかった、ただのクラスの一員として、受け入れられていた。
普通の学級、普通のクラスメート。まさしく平凡を絵に描いたようなそんな社会だったと思う。
いやそう思っていたのは私だけだったのかもしれない。だって亀裂が入ったのは、些細なことだった。
「ねぇ界さんってさあ、調子乗ってるよね」
何故か、突然面と向かって明田さんという、クラスの中心人物にそう言われた、私はただ固まった。
どうしてそんなことを言われるかわからなかったからだ。
でもそこから、何かが変わった。ある日上履きを隠された。机の中に虫の死骸を入れられた。
「界さんってさあパパ活してるって本当?w」
ありもしない噂も流された。
私は、耐えられなかった。
冬休み入る前の後期ついに私は、学校に行かなくなった。行けなくなったの間違いか。
学校側はなにもしてくれない。
担任の田中先生は、とにかく、いじめなんてないってことにしたかったらしい。
それどころか、先生は言った。
「頑張れ! 界、この程度で、諦めちゃ、社会じゃ通用しない人間になるぞ!」
何を言っているか分からなかった。
その時、わかった、私を助けてくれる人はどこにもいないんだって。
─────────────
「お父さんとお母さんは?」
「いるけど、いないよ、二人とも忙しいっていうか、別居中で、二人とも仕事が家族なの」
そっか、とジンドーはつぶやく。
「こんなこと気休めかもしれないけど」
そしてニコリと笑って言った。
「また、僕と一緒に、遊園地遊びに行かない? 今度は遠いところに行こう」
「……うん」
そして、私は気づいてしまった
「ジンドー、僕っていうんだね」
「あ、いや! 吾輩!」
「もう遅いよ! アハハ!」
今日はジンドーがいてくれて良かった、少しだけ心が軽くなった気がする。
私は改めて言う。
「ありがとうね、ジンドー」
感謝の言葉を。
「ジンドーがいてくれて良かった」
「気にするな! なのである! 吾輩は、君を笑顔にして涙の雨を止めるためにいる! だから界さんが喜んでくれることは吾輩の目的成就にもつながるのである!」
「そういえば、そうだったね」
「そうなのである、だから君が笑うと、吾輩も嬉しい!」
そう言う、ジンドーはにこやかに笑った。
そっか、私が笑えばジンドーも嬉しいのか。それは少し気が楽だし、良かったと思える。
私、何にもジンドーに返せてない気がしていたから。
だからそれがジンドーの気遣いだとしても、私は安心してしまった。
「ねぇ、ジンドー」
「何であるか?」
だからだろうか、私はジンドーにこんなお願いをしてしまった。
「私、また学校に行けるようになりたい、だから、一緒に協力してくれる?」
無茶難題、自分でもそう思った、それはいじめを解決してほしいと言っているのと同じだ。
でも、ジンドーはすぐに頷いた。
「もちろんである!」
一点の曇りもなく、そう言った彼に私はただ感謝するしかなかった。
─────────────
「いやぁ! 楽しかったであるな!!」
私たちは観覧車から出た、ジンドーの言う通り楽しかった。多分私の人生で一番楽しい、観覧車だっただろう。
日はもう暮れつつあり、ポツポツ他の来場者も退園を始めている。
「じゃあそろそろ帰るのであるか!」
「うん……」
「名残惜しいであるか?」
「ば、バレた?」
「バレバレ! なのである!」
目の前のセーラ服の美少女は八重歯を輝かせながら言う。時折、本当にジンドーだと言うことを忘れるから、すごいものだ。
「ねぇそういえば、ジンドーって本当に色々な姿に変身できるんだね」
「もちろん! 性別から、種族まで、自由に変えられるのであるぞ!」
へぇーと感心する私は、改めて彼が人間ではないのだと理解した。
もうそんなことで、驚かない自分もなんだか麻痺してる気がするが。
「さあ、今日は帰って……あ! よかったらご飯とか一緒に──」
と言いかけた、ジンドーはピタリと止まる。
「どうしたのジンドー?」
「界さん、動かないで」
「え、なんで?」
「いいから!」
「は、はい!」
私は、ジンドーの大声で驚いて硬直する。
するとジンドーは言った。
「界さん、やられた。結界を張られた」
「それってどう言う……」
そこまで言って私は気がついた。人が、周りに人がいない。
「な、なんで」
思わず、周りを見渡す私に、ジンドーは言う。
「だめだ! 界さん」
でも遅かった。
「
私はそれを見てしまった。
黒いソイツに。
それはは、まさしく全身が黒く、まるで全身が影でできているかのような人型の何かだった。目や口は確認できないその不気味な姿に私は恐怖を覚える。
私が、自分を見たことを確認したソイツはニヤリと笑って白い歯を剥き出しにした。まるで三日月のようなその歯は異形感をより引き立たせ、黒い化物の恐ろしさを際立たせてもいる。
化物は呟く。
「おいで」
私は浮遊感と共に、暗闇に飲み込まれた。
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