第7話 涙ぐんで
目の前に現れたら、セーラ服の美少女に私は、あんぐりと口を開けたまま、立ち尽くした。
なぜ、とか、誰、などの疑問系が頭の中で吹き荒れる。
しかし、そんな私の気にせず目の前の美少女はニコリと笑った。
「大丈夫なのである?」
ああ、この口調はジンドーだ。私は一瞬で理解した。まさかここまで、声も性別も何もかも変わるとは思わなかった。
「ジンドー! なんで急に女の子になってるの!!」
私は思わず突っ込んだ。自分でもよくわからないツッコミだったが、それ以上によくわからないことが、目の前で起こっているのだからしょうがない。
「いやなに! 流石に、男と二人で遊園地に来ると言うのは、気まずかったかなと! その点! この姿なら! 気安いのではないかな! と思ったのである!」
いや、それにしてもなんで急に……。
あ、もしかして。
「私がカップルのことを見てたからそう思ったの?」
「違うのであるか?」
確かにカップルや親子連れを見てネガティブな感情を発露しまくっていた私だがそうか、ジンドーは気遣ってくれたのだ。
なんだかむず痒い、気持ちをしたまま私は思わず、俯いてしまう。
なんだか私、情けないな、こんなにジンドーは見ず知らずの私のことを気遣ってくれるのに、私は自分のことだけだ。
パチンと、私は頬を叩く。
「え、どうしたのである?」
「ジンドー!」
「は、はい!」
「今日はた、楽しもう!!」
「……! もちろんである!!」
私はジンドーに袖を引かれて連れて行かれる。騒がしい遊園地のど真ん中へ。
─────────────
「まずはジェットコースターからなのである!」
──きゃああああ!!
一般大衆の叫び声を背にジンドーはそう言った。
叫びと人を乗せたジェットコースターはジンドーの後ろでレールに沿ってグルリと円を描いて一周する。
これに乗るのか……。
「ジンドーあの私、絶叫系初めて……」
「ではいくのである!」
「え、ちょっと待って!!」
やばい絶叫系なんて、絶対にやばい、早く断らなくちゃ!
と思っていたのにも関わらず、
「楽しそうであるなぁ!」
と言うジンドーの顔に私は負けた。
そして──。
「うわ、うわぁぁぁぁぁぁ!!」
「あはははははは!!」
絶叫する私と、喜ぶジンドー。
いや、洒落にならない!
すごく速い! 怖い!
私は思わずジンドーの手を握りしめた。
少しでも安心するためだ。
この時初めて私は、ジンドーが女の子の姿で良かったと思った。お陰で手を握ったとしてもなんか恥ずかしくない。
最後のジェットコースター景色はよく覚えていない。
「はぁ! はぁ!」
終わった……私はジェットコースターの出口に出た瞬間両膝に両手をつき、少し屈む
「だ、大丈夫であるか? ごめん吾輩、はしゃぎすぎたかも……」
初めての絶叫系ジェットコースターは私にとってかなりの衝撃を与えた。
何事も体験しなければわからない、百聞は一見にしかず、と言うが。
確かにわかったことがある。
結構、楽しかった。
一人じゃ無理だけど、ジンドーとならいけそうだ。
心配そうに、私の顔色を伺う。
そんなジンドーに私は告げた。
「ねぇ、ジンドー、もう一回行かない?」
その言葉にジンドーは八重歯と目を輝かせた。
「うん! である!」
この日私は、絶叫系の楽しさを初めて知った。
─────────────
やがて日も暮れて、退場者もポツポツとで始めた頃、私はジンドーと観覧車に乗っていた。
「おお、高いのである!」
「ジンドーは空が飛べるのに、感動するものなの?」
「するのである! やはり自分の力で高い場所に行くのと、それ以外の力で行くのは違う気がするであるからな!!」
「そう言うものなんだ」
でも、少しわかる気がする。確かに自分の力で移動しない分、なんというか周りをみる余裕が出る気がする。
だから観覧車ったら楽しいのかな。
でも、そんな余裕が私に余計なことを気づかせた。
ふと、周りを見渡すと、遊園地の園内に見知った制服を見つけた。
あ、うちの中学だ。
──ガタリ
思わず私は身を隠す。そっか今日は半日授業の日、遊びにきたのだ、彼女らは制服のまま。
「……どうしたのである?」
「うちの生徒がいた……」
「……そっか」
私のことをいじめてる人だとは限らない。でも、学校に行っていない人間と言う認識を私は持たれている。
そんな人間がこんな遊園地でバッタリと会ったらどうなるだろか。
珍しがられる、それか、何か言われるかもしれない。
学校で噂されるかも……。
「今日は半日授業があるんだった、なんで忘れてたんだろう、スターランドとうちの中学、近いのに……」
自分でもわかる、表情が落ち込んでいくのが、だからこそジンドーは、言った。
「……大丈夫、いじめる人はここにはいないよ」
普段とは違う口調の彼に、いや、今は女の子姿だが、それもあいまって私は、少し涙ぐんでしまった。
「あの、ありがとう……今日は……本当に……」
あ、だめだ、そういえば、私こんなふうに人と遊ぶのも、気を遣われるの久しぶりだ、だからなのかな、私は……。
こんなにも、泣いてしまうのか。
「大丈夫……大丈夫だから……これハンカチ」
ジンドーが手渡してくれたハンカチは安心する匂いがした。
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