第6話 ゴーゴー! スターランド!

 ──チャリン、チャリン、チャリン。


 鈴の音がする。ここはどこだ、私は周りを見渡した。水面の上、いや限りなく浅い水辺の上に私は立っていた。

 そして、まず目につくのはその浅い水辺の上に立つ鳥居だった。

 なんだここは、周りには誰もいない。ここにきた記憶もない。

 私はどうしてここにいる?


 ──チャリン、チャリン、チャリン。


 鈴の音がする。鈴の音が近づいてくる。

 後ろからやってくる。

 私は振り向こうとした、だが先程まで辺りを見回せていたはずの私の体はピクリとも動こうともしなかった。


 完全なる金縛りに私の体はなっていたのだ。


 ──チャリン。


 近づいてくる。


 ──チャリン。


 鈴が──。


 ──チャリン。


 逃げなきゃ。


 ──ヒタリ。と冷たい手が私の肩を掴んだ。


「待ってるね」


 その言葉を耳元で囁かれた時、私の意識は再び消えた。


 ─────────────


 ガバリと、私はベッドから飛び起きる。息はなぜが荒く、汗もじっとりとかいている。

 ひどく怖い夢を見た気がする。


 内容は覚えていない。でも怖いと言う感情は残っているのだから間違いない。


 あの後、路地裏で怪我の手当てをしてもらった後、ジンドーに送ってもらって家まで送ってもらった私は、風呂に入った後、すぐに寝てしまった。


「そうだ今何時!?」


 そうだ、そうだったジンドーと遊ぶ約束をしていたじゃないか、たしか別れ際に約束した時間は──。


 ──ピンポーン。


 チャイムがなるどうやら今がその時間らしい。



 ─────────────


「あーはっはっ! 別に気にしないのであるそれくらい!!」


 玄関のチャイム越しにジンドーは笑う。


「本当ごめん! 準備までしばらく時間かかるから! 待ってて!!」


 急いで、髪を整えて、服を選んで……早く!早く!


 そして、数分後。家の扉を開けた。


 するとそこには昨日知り合ったばかりの太っちょの自称悪魔が。


「ごめんお待たせ!」


「いや全然! おはよう!!」


 うっ、元気がいい。急いできたのと寝起きな私は少しばかり、テンションが低い。

 まったくなぜこの悪魔は、こんなに元気なのか。しかも私のせいで待たせたのにジンドーは全く気にしていない様子だ。


「それじゃあ! 遊びに行くのである!」


 ジンドーは歩き出す、そしてそんなテンションに引っ張られるように私も、ジンドーの後をついていく。


 ここではっきりしておかなければならないことがある。


 これは決してデートなどではないと言うことだ、まだ私は生きることに肯定的な立場ではない、かと言って死にたいわけでもない。


 そう、これはあくまで恩返しというか、なんというか、命を仮にも助けてもらったから、その……断りきれなかっただけなのだ。


 本当なら、不登校児である私は、今すぐにも家に帰りたい。


 そんな私を知ってか知らずかジンドーは楽しそうだ。

 私の荒れた心は例えどんなところに行こうとも──。


「今日は遊園地に行くのである!」


「えっ!!」


 じゃない! 思わず喜びそうになった気持ちを必死に抑える。そんな遠いところに行くなんてとても疲れそ──。


「では飛んでいくのである!」


 ─────────────


 遊園地に一瞬できてしまった。


 ジンドーは要領よくイケメンモード(正式な名称は不明だが羽を生やすといつもそうなるため、こう呼ぶ)になって私を、またお姫様抱っこでクロカミ市の有名な遊園地、スターランドに連れてきた。


 正直恥ずかしいからお姫様抱っこはやめてほしかったが、スターランドの名前にまた私は負けた。


 もちろん、ジンドーは細心の注意を払い人目を避けて飛んでいた。彼曰く、人の目線や気配などがわかるためそれほど人目を避けて飛ぶことは難しくないのだと言う。


 結果無事、私の目の前には、でかい金平糖みたいな被り物をしたスターランドの人型マスコットキャラクター、星男くんがいる。


「ではまず最初はどこにいきたいであるか? ここの広場からならどこへでも行けるのである!」


 遊園地に来る頃にはぽっちゃりモードになっていたジンドーはそう聞く。


 やばいウキウキしてきた。

 でもそれと同じくらい、この親子連れやカップルが多くいる。この場所は、なんだか私は場違いな気がしてくる。


「どうしたのである?」


 少し落ち込む私を気してくれたジンドーだったが、だめだ私の方は少しばかりのネガティブな思考が止まらない。


 服もちゃんとジャージではなく、気合いを入れて母と一緒に選んだフリルのついた可愛らしい白の長袖と青いスカートを選んできた。


 なのに、なんだか私は浮いてしまっているような……。


「あ、そうか」


 するとジンドーは突然、そう呟き出し何かを思い起こしたかのように。走り出す。


「ちょっと待っててくれである!」


 そう言って、ジンドーは男女共用のトイレに駆け込んだ。

 広場に残された私は、思わずキョトンとして立ち尽くす。

 一体何をジンドーは思ったのだろう。


 すると、すぐさま男女共用トイレが開く。

 ああ、ジンドーお手洗い終わったんだ、なんて私は思って、トイレから出てくる人物に目をやった。


 度肝を抜かれた。だってトイレから出てきたのは。


「お待たせー♡」


 セーラ服を見に纏った黒髪長髪、美少女だったからである。


「いや誰ェェェェ!!」


 スターランドに私の場違いな叫びが響き渡った。

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