第1話 転校生がやって来た(前日譚)

 ぼくの名前は工藤瞬くどうしゅん

 今年で九才の小学三年生。


 ぼくの家はお金持ちだ。

 そのしょうこにぼくは毎月、三千円もおこづかいをもらっている。

 お姉ちゃんのお下がりだけど、テレビゲームもあるし、半年に一回は家族そろって温泉にでかける。


 お姉ちゃんは昔はやさしかったけど、最近はこわい。

 剣道をはじめてから、やたらと声が大きくなったし、前はかれんな女の子って感じだったのに、さいきんはゴリラみたいに見えるときがある。


 ぼくがイタズラをすると頭をなぐられるんだけど、そのパワーもどんどん強くなっていって、さいきんは脳しんとう起こしそうなくらいに強いパンチでなぐられる。


 まったく、困ったもんだよお姉ちゃん。



 夏休みが終わって、ぼくのクラスに転校生がやってきた。身長はぼくより低いけど、顔はイケメンだ。さっそく、クラスの女の子の人気者になった。西崎くんはイケメンだけど、カッコつけない。とうしんだい、ってやつだ。男のぼくからみてもそれがカッコイイ。


 サッカーや野球やバスケット、色んなスポーツで西崎くんはかつやくした。うらやましい。ぼくは身長は西崎くんよりもあったけど、運動しんけいは全然ダメなんだ。


 でも、西崎くんはぼくの友だちになってくれた。西崎くんは友だちのあかしに大事にしているパケモンカードのレアなやつをぼくにくれた。ぼくはそれがとても、うれしかったから、お返しをしようと思ってぼくの自宅に遊びに来てもらうことにした。


「西崎くん、ここがぼくの家だよ」

「うぉー、一軒家じゃん、すげえな」

「そうだよ、ぼくの家は金持ちなんだ」

「瞬、それはあんまり人前で言わない方がいいぞ」


 ぼくは西崎くんをお姉ちゃんに紹介した。


「転校生の西崎くんだよ」

「はじめまして、西崎くん? 弟と仲良くしてあげてね」


 西崎くんは顔を真っ赤にしていた。お姉ちゃんのゴリラっぽさがこわかったんだと思う。ゴリラににらまれるのはだれだってこわいもんね。


「あの、お名前は?」

「西崎くんって変だねー、ぼくのお姉ちゃんなんだから、お姉ちゃんも工藤だよ」


 違う、そうじゃなくて……と西崎くんは首を横に振った。


「工藤栞です、しおり」

「に、西崎拓真です、たくまです」

「たくまくんかー、カッコイイ名前だねー」


 西崎くんはさらに顔を真っ赤にした。変なの。


 ぼくたちはお姉ちゃんに別れをつげて、ぼくの部屋に向かった。ぼくの宝物のひとつを西崎くんにわたさなきゃいけない。


 友だちのあかしだ。

 ぼくは部屋の宝物ボックスの中から、プロ野球チップカードとJリーグチップカードを探しだして、それを西崎くんに手わたした。


 二枚もいらないよー、という西崎くんはけんきょな男だ。その男らしさにぼくはさらに宝物のえっち本をプレゼントしようとしたけど、それはいらないとあっさり断られた。


 西崎くんは帰る前に、「おれのことはたくまって呼んでくれよな」と言ったので、ぼくは西崎くんをたくまと呼ぶことにした。


 たくまは、お姉ちゃんのことを色々聞いてきた。好きな食べ物やたんじょうび、好きなアニメとか。

 ゴリラの対しょ法ってやつは知っていて損はないものな。まったく、すげえやつだよ、たくまは。


「たくまくん、また遊びに来てね」とお姉ちゃんに言われたたくまの顔はまた真っ赤になっていた。


 外に出ると空も真っ赤になっていた。

 夕焼けの中へ、たくまはスキップしながら消えていった。


 ぼくのプレゼントがよっぽどうれしかったんだな。

 かわいいやつだぜ、たくま。






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