いつか、君に恋をする

奇跡いのる

プロローグ

 工藤栞くどうしおりにとって、それは生まれて初めての告白だった。


「ねえ、おれと付き合ってよ」


 栞は目の前の少年を見下ろした。


「なんの冗談?」


 冗談じゃねえし、と少年は栞を見上げる。


 栞は今年の春、高校生になった。

 中学時代は剣道部に入っていて、三年間厳しい練習に耐え抜いた。剣道は嫌いじゃなかったけれど、汗臭い防具は嫌いだったし、痛いし、辛い。友達と遊ぶ機会もあまりなく、メイクをすると顧問に怒鳴られた。女の子らしい生活とは無縁の日々だった。


 だから高校生になった栞は帰宅部として、いずれ彼氏を作って、青春を謳歌するのだと決意をしていた。


 男の子からの愛の告白、それは確かに中学時代に栞が憧れていたイベントのひとつだった。カッコイイ男の子に告白されて、ちょっとくらい焦らして、最終的にOKして恋人同士になるんだ。



「ねー、たくま、それなんの冗談?」

「だから、冗談じゃねえし。付き合うの、付き合わないの?」



 積極的な男の子も嫌いじゃない。少しくらいガサツな方が男らしくていいじゃん、とも思ったことはある。



 でも、栞は戸惑っていた。

 思っていたものとは違う。こんな告白、想像もしていなかった。


「たくまくん、お姉さんをからかったら駄目だよ」

「からかってねーよ、お前のこと好きなんだ」


 栞の正面に身長140センチの男の子がいる。

 高校生の栞よりも10センチ以上は低い。


「チビのくせにませてんな」

「身長なんてすぐに追いつくし」

「そもそも、たくまなんて恋愛対象じゃないし」

「年下だからってバカにすんな」


 西崎拓真にしざきたくまは、目の前の栞を見上げて、ため息をこぼす。


「おれは栞が好きなんだ、付き合ってくれ」

「いや、さすがにムリだし」

「無理じゃねーよ、年の差なんて気にすんなよ」

「いや、さすがにない、絶対にない、ありえない」


 栞は拓真を見下ろしながら、ため息をこぼす。

 確かに、拓真はイケメンの部類に入るだろう。今はどちらかと言えば可愛い系の顔だが、将来的にはイケメンと呼ばれるだろう顔立ちをしている。これが同い年かひとつくらい歳下なら交際を考えなくもなかった。


「周りの目なんか気にすんな、おれを好きになれよ」

「ごめん、たくま、あんたのことはそんな風には見れんのだ」


 ――しかし、なんて生意気なやつなんだ。言葉遣いがまるでなってない。剣道部でみっちりとしごかれた私には考えられない生意気さだ。


「おれは栞を愛してる。一生守っていく」


 栞は拓真を見下ろす。確かに、中学時代に私が憧れていた告白を再現してくれている。でも、それはあんたに言われたい訳じゃないんだ。


「無理だよ。流石に小学四年生は……」


 西崎拓真、小学四年生。

 彼こそ、栞に生まれて初めての告白をした男の子だった。

















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