1月8日 あごだし豆乳鍋

 昨夜遅くからも雪が降り、底冷えする休日。

 今日は各地で成人式が行われていたようである。島根県の成人式の対象者は、調査を始めた1984年以降で最少人数を更新したとか。なんともはや。


 自分の成人式の日には確か、朝から雪が降っていた。寝ぼけ眼で美容院へ行き、伸ばした髪を結い上げて、紐に帯にとぎゅうぎゅう締められ、晴れ着に袖を通した。

 それは元々、祖母の振り袖だった。心を受け継ぐ、などという綺麗な話では無い。当時から祖母と私は、相性が良いとはお世辞にも言えない関係だった。だがしかし、服飾を学んでいたこともある祖母のセンスは確かだった。

 美しい紅型びんがただった。黒地に青い鳥や朱の花が色鮮やかに染め抜かれて、その琉球らしい模様が目を引いた。母の着物もおそらく上等なものだったが、淡い橙色の着物は、残念ながら私の肌には合わなかった。

 私の着丈に合わせて直してもらった黒振り袖は、初めから私のものだったようにぴったりで、この時ばかりは祖母に感謝した。けれどもそんな浮かれ気分も最初のうちだけで、足袋に草履を履いただけの足が冷えに冷えて、指先の感覚が無くなるまでそう時間はかからなかった。首にはもふもふとしたグレーの狐の毛皮を巻いて、それに顔を埋めてみても、空いた首筋が寒かった。

 成人式の内容は、正直ほとんど記憶にない。何やら記念品を渡されたが、「もっと他にあっただろうに」と思ったことだけほんのり覚えている。

 やはりこの日は、旧友と会う方がメインイベントだったけれど、だだっ広いグラウンドに学校名の書かれた看板がざっと立っているだけで、そこから母校を探すのもまた大変だった。中高の同級生とは二年ぶりの再会を素直に喜んだ。ただ、私はその輪からすっと離れて、一人寒空のグラウンドをさまよった。私は中学受験をしていた。小学校卒業当時はまだ、子供までが携帯電話を一人一台持つような時代では無かった。だからこの機を逃せば、小学校卒業以来会っていない友人たちにはもう会えない気がした。

 果たして、地元の公立中学校の看板は見つかった。ほとんどが見知らぬ顔だった。私がわからなかっただけかもしれない。私は寒くて、心細くて、見渡しながらまばたきばかりしていた。ようやく面影のある女子の顔を見つけ、わーっと声をかける。幸い、相手も私を覚えてくれていて、ひと通り「久しぶりー」と言葉を交わす。

 懐かしかった。楽しかった。けれどそれ以上に居心地が悪かった。だってこの学校に、私はいない。私の気にし過ぎだったかもしれない。しかし私たちが会わない時間が長過ぎたのは確かだった。

 もっと探せば、もっと知り合いを見つけられたかもしれない。それでも私は、そそくさとその場を離れた。私には意気地が無かった。切り替えも早くは無かった。居たたまれなさを引き摺って、私は早々にそのグラウンドを後にした。

 私にとっての成人式は、そんな灰色の思い出である。



 夕飯はまた鍋をした。

 今日は「あごだし豆乳鍋」である。たっぷりの白菜と、鶏モモ肉、のどぐろつみれ、そして様々なキノコ。あっさりと優しいが旨味もしみじみと感じられる、美味しい鍋だった。

 体調を考えれば、こっちを昨日食べるべきだったかもしれないのだが、白菜よりもキャベツの方が下準備が楽なのだ。ざく切りにしてからざっと洗うだけで良い。

 白菜もそうなのでは、と思われるかもしれないが、鍋の白菜の場合、柔らかい葉と、肉厚な芯を、完全に分けてから切るようにしている。芯は火が通りやすいようにそぎ切りに、葉はざく切りにして、ザルにあげておく。これを一枚ずつやると結構手間なのだが、それで美味しくなるのだから仕方ない。面倒なことは面倒に思いつつ、美味しくなるのならその手間を惜しみたくない、そんな心持ちなのである。

 今日もこのひと手間で、芯はトロトロに、葉はシャキッと美味しく食べた。

 〆はパッケージの通りにリゾットにしてみたが、これが実に良かった。私がキノコ好きなので、舞茸、椎茸、シメジ、エノキと盛りだくさんに入れた旨味が溶け、あっさりめの豆乳出汁も煮詰まり、チーズのコクもちょうど良い。このリゾットのための鍋だったとも言える味わいだった。


 今週はまた寒いらしい。体調を崩さないようにしたいが、気候も容赦してほしいものである。

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