11月15日 ヤッサ饅頭と、焼き餅咲ちゃん

 溜まった家事を少しずつ消化する日。

 しかしまぁ、先週末から急に冷え込んだものである。まだエアコンをつけるのは我慢しているのだが、寝床は既に真冬仕様。ルームウェアはフリース。裏起毛のルームシューズを履き、着る毛布に首まで埋まり、ハンドウォーマーも装着したフル装備である。今からこんなに寒がって、本格的な冬を乗り越えられるのだろうか。不安になってくる。


 夕飯はまた、ミールキットで。今回は『DEAN & DELUCA』の監修で、なんとも洒落た、自宅では再現の難しい「マサラチキン」のプレートだった。鶏モモ肉に焼き目をつけるように焼き、スパイスやタンドリーソースでほうれん草とともに煮込み、仕上げにヨーグルトを加える。それをサフランライスと共に食べるのだ。ほどよい辛さとスパイスの香り、ヨーグルトのまろやかな酸味で、ごはんの進む刺激的な味わい。食べ終わる頃には少し汗ばむほど、体が温まった。


 食後には、買い込んだお菓子をまた少し開けた。

 本日はまず、三原みはら銘菓「ヤッサ饅頭」を。そのルーツは広島県三原市に今も残る「ヤッサ踊り」である。戦国時代、小早川隆景が備後三原城を築城したのだが、その落成を祝って、人々が「ヤッサ、ヤッサ」の掛け声で踊ったのが始まりと伝えられている。この「ヤッサ踊り」が大好きだった菓子屋の主人が、これに因んだお菓子を、と考案したのがこの「ヤッサ饅頭」だそうである。

 これがなかなか、個性的な見た目をしている。手のひらにころりと転がる小ぶりな饅頭だが、その皮は極薄く艷やかで、粒餡の濃い色が透ける。上面にはこんがりと焼き目が付き、その中央はぎゅっと押しつぶしたように凹み、そこだけ満月のように丸く黄金色をしている。“浴衣の片肌を脱いで踊る人々の姿を、饅頭の薄皮から覗く艶やかなつぶあんに見立てた”という話も粋な、非常にしっとりとした饅頭である。北海道産小豆の粒餡は風味豊かで、ほどよい甘さ。香ばしい薄皮によく合う。久しぶりに食べたが、実に美味しい。


 煎茶を淹れたことだし、と、もう一つ開けてしまう。私が楽しみで仕方なかった、『にしき堂』の「焼き餅咲ちゃん」である。

 私はこれが大好物で、正直に言えばもみじ饅頭よりも好きである。もっちりとした生地で餡を包んだ広島の銘菓といえば、同じく『にしき堂』の「生もみじ」、 『やまだ屋』の「桐葉菓」があるが、私の中では「焼き餅咲ちゃん」がそのトップに君臨している。そして何を隠そう、「焼き餅咲ちゃん」こそが「生もみじ」の原点なのである。

 そもそも「咲ちゃん」とは誰かというと、1996年に行われた広島国体のキャラクターである。この時のスローガン「いのちいっぱい、咲きんさい!」をイメージして作られたキャラクターで、頭には広島の県花・県木である紅葉の葉をあしらい、体操のようなポーズを取りながらにっこり笑っているのが愛らしい。まだ「ゆるキャラ」などという言葉も無かった頃である。

 確かその国体当時から「焼き餅咲ちゃん」は販売されていたのだが、コロナ禍の影響で販売休止、二年前のリニューアルを経て、現在は秋季限定で販売されるようになっていた。今回はかなりちょうど良いタイミングだったと言える。

 ぷっくりと丸い饅頭には「咲ちゃん」の顔が大きく刻印されている。その特徴はなんといってもそのモチモチの生地である。「生もみじ」「桐葉菓」以上に弾力があり、コク深く、甘みのある生地。地産地消のために広島県産小豆を使った粒餡はそれに合わせてさっぱりめだが、味わい深い。

 食べながら「これ!これよ!」と思わず声をあげてしまう美味しさと、懐かしさ。今年食べることができて本当に良かった。


 溜め込んだお菓子はまだ色々とある。楽しみがつづくのは良いことである。

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