11月14日 『くにひろ屋』の洋酒ケーキ

 一日のほとんどを寝ていた。

 僅かに起きている時間に、どうにか洗濯をした。基本的に曇天の山陰では、乾燥機付きの洗濯機が役に立つ。私が洗濯物を干すのが嫌い過ぎて導入したものだが、ここに来て本当に助かっている。


 夕飯はミールキットが届いたので、なんとか作った。頭がぼんやりしていたのでどうにも時間はかかったが、美味しかったので良いのだ。


 インターネット上では、デザインフェスタで売られた菓子について燃え上がっていた。口に入るものはとにかく衛生面に気をつけなければならないので、件の人が批判されるのは当然である。だがしかし、過去に作ったと見られるブランデーケーキ(ウイスキー使用)について、「ウイスキーなんてお菓子に使わない」「酒にどっぷり浸すんじゃなくて刷毛で塗るもの」などという文言は、無知を披露しているだけである。香り付けにウイスキーを使う菓子はあるし、焼いた菓子を酒シロップにざぶんと浸ける作り方も存在する。あまりに視野が狭く、調べればわかることを調べずに声高に批判をするのは、実に嘆かわしいことである。

 などということを考えていると、酒がじゅんわりと染み込んだ美味しいケーキが、無性に食べたくなった。そしてなんと、ちょうど良いことに、昨日広島で買ってきたばかりなのだ。


 広島県府中市、上下町じょうげまちにある老舗洋菓子店『くにひろ屋』。その看板商品、というか、現在はそれに絞って作られている菓子が「洋酒ケーキ」である。

 そのルーツは昭和三十六年、フランスの焼き菓子「サバラン」をベースに、田舎の人にも受け入れられやすいようカステラにラム酒とブランデーのシロップをたっぷり浸すケーキが誕生した。世羅産の新鮮な高原たまごを使ったふわふわのカステラを、国内でもあまり流通していない希少なラム酒と二種類のブランデーをブレンドしたシロップに、一つ一つ手作業で漬け込んだもの。広島県内では広く食べられていて、「ちょっと良いおやつ」として家でよく食べていた。昨日も『広島そごう』のデパ地下で見つけて、懐かしさもあり、是非食べなくてはと思ったのだ。そしてまた、夫にもこの思い出の味を食べてほしい。

 シロップがたっぷり染み込んでいるため、アルミの袋で個包装されているケーキ。開ければふわりと甘い香りが漂い、食欲をそそる。少し触れただけでシロップがじゅわりと滲む。この食感がたまらないのだ。カステラの上から、フォークで少しずつ食べ進めるのが良い。口に含めばラム酒とブランデーの合わさった、複雑で芳醇な風味が口いっぱいに広がる。素朴で懐かしいタイプの菓子らしく、甘さはしっかりとあるので、是非とも珈琲を合わせたい。シロップの重さで、カステラの下部はとりわけシロップを吸っている。滲み出る洋酒を舌で転がすように食べれば、幸福感に包まれること間違い無しである。


 今食べてもやはり、『くにひろ屋』の「洋酒ケーキ」は美味しい。夫も気に入ってくれたようで何よりである。

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