11月13日 ポルチーニ茸のリゾット、ロティサリーチキン

 昨夜は中高を共に過ごした友人と、積もる話に花を咲かせた。山陰の愚痴をさらけ出したり、近況を報告しあったり。歳を重ねて話題が変わってきたところも、変わらないところもある。

 広島の食事情はさっぱりわからないので、この夜は友人に任せきりだった。一軒目には隠れ家イタリアンで、美しくて美味しい料理を堪能した。こういう店は島根には無い。さっぱり無い。臭みのない白レバーのパテにバゲット、ジューシーな豚トロとキノコの旨味たっぷりのカルトッチョ、コク深くとろける柔らかさの和牛タンの赤ワイン煮込み。尽きない話をしながらも、その一つ一つに舌鼓をうつ。しみじみと美味しい。そしてリーズナブル。コスパが良過ぎる。

 最も気に入ったのは、ポルチーニ茸のリゾット。ポルチーニ茸の風味をたっぷりと楽しめるアルデンテのリゾットは、チーズのコクも加わってもはや無敵。その香りの芳醇なことといったら。そこそこ美味しいパスタの店はあっても、リゾットがちゃんと美味しい店は貴重である。本当に良い店を選んでもらった。

 二軒目は女子会らしく夜カフェへ。東京に比べれば広島も夜は早いのだが、山陰の比ではない。「NYバスクチーズケーキ」は、上はこんがりと焦げて香ばしいのに中はとろりとして、珈琲ともよく合い、これも大変美味しかった。

 遅くまで付き合ってくれた友人たちには本当に感謝である。次はいつになるやらわからないが、また楽しくテーブルを囲みたいものである。

 夫は夫で宴会を楽しんだようで、何より。


 明けて本日。

 老舗喫茶店のモーニングから始まり、夫は職場関係の挨拶へ、私はそこから一人ぷらぷらと街中を散歩した。

 音を立てて行き交う路面電車、通称「市電」。その姿も懐かしく、ただ歩いているだけでも感慨深い。店の入れ替わりはかなりあるが、風景は大きく変わらない。両親と、友人と、何度となく歩いたアーケードの「本通り」。ゴールデンレトリバーの大きなぬいぐるみを買ってもらった店は無くなったが、ランドセルを選んだ店はまだ残っていた。休日には賑わう場所だが、流石に月曜の朝は静かで、それが一層ノスタルジーを掻き立てる。

 広島で最も大きな百貨店『広島そごう』は、私が住んでいた頃から増改築を繰り返していたが、遂に新館が無くなったらしい。百貨店はやはりどこも厳しいようである。それでも、久方ぶりのデパ地下にはやはり心が踊る。自宅用にも知人用にも、しこたま土産を買い込んだ。バラ売り菓子が豊富なのもありがたい。食べるのが楽しみである。


 夫と再び合流して、今度は商工センターの方へ向かった。良く行っていた商業施設『アルパーク』もかなり様変わりしたと聞く。百貨店『天満屋』が撤退したのはいつ頃だったか。幼い頃には、両親が買い物する間、本屋で立ち読みしながら待つことが多かった場所である。今日はそれを通り過ぎて、新しくできた『レクト』へ行く。昨夜、友人から教えてもらったのである。

 聞いていたとおり、洒落た雰囲気の店が並ぶ。壁を抜いて店から店へ回遊しやすい構造になっており、都会的である。センスの良い雑貨やインテリアはつい手に取りたくなるし、スターバックスコーヒーのくっついた『蔦屋書店』はもはや懐かしい。友人との会話でつい「私は今オシャレに飢えている」などと口走って笑われたが、オシャレな空気を存分に吸うことができて満足である。

 昼には『レクト』の広いフードコートで、ロティサリーチキンのプレートを食べた。フードコートにロティサリーチキン、オシャレである。島根にロティサリーチキンを出す店が果たしてあるのか、大変疑わしいところである。

 ロティサリーチキンとは何かというと、串に刺して回転させながら炙り焼きにする「ロティール」というフレンチの技法で、調味液でマリネした丸鶏を焼いたものである。低温でじっくりと、余分な脂を落としながら焼いた鶏肉は、外はパリっと香ばしく、中はジューシーに仕上がるのだ。多くの場合、専用のロティサリーオーブンを使用する。

 数年ぶりに食べるロティサリーチキンは、フードコートとは思えない美味しさだった。国産の雛鳥は柔らかくジューシーで、10種類以上のスパイスやハーブ、フランス産の塩でマリネされた肉が香り良く、味わい深い。ロティサリーチキンの特徴である、旨味が凝縮されパリっとした皮の美味しさはまた格別である。すこぶる食べづらいが、どうにかして食べ尽くした。


 その後はゆっくりと、島根へと戻った。

 山陰に近づいてくると途端に雲が低く厚くなり、雨が降ってくるのだから苦笑してしまう。温泉に立ち寄ってから帰ることができるのは良いところではあるのだが。


 もはや両親の住む家も無いが、広島はやはり私の故郷なのだと、今回改めて感じた。街並みはもちろん、瀬戸内の海や島も、私の心を形づくっている。日本海や宍道湖とはやはり違う。空の色も違う。山陽と山陰には、大きな大きな隔たりがある。それを再確認した旅だった。

 山陰の暮らしをなんとか、乗りきらなくては。

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