11月8日 ふわふわたまごと大葉のサンド、サイゼリヤ

 空は晴れ。しかし目が覚めたときから、どうにも頭がくらくらとする。持病の発作の手前という感じがある。

 しかし昨夜、映画の席を取ってしまっていたので。

 いつもよりゆっくりと身支度をして、えっちらおっちらと出雲へ行く。


 普通列車の数が少ないため、やむを得ず特急に乗った。バスとの接続もすこぶる悪い。これでノーマイカー運動を呼びかけようというのだから、ちゃんちゃらおかしい話である。

 平日昼間の特急は、自由席もがらがらに空いている。とりあえず座ろうと車両の奥まで歩こうとすると、その通路にでん、と立つ高齢女性がいた。前まで行くとすんなり避けてくれる。不思議に思いながら私が席に座り、電車が動きだしても、その女性はどういうわけか立ったままである。体幹を鍛えようとでもいうのだろうか。

 特急の車掌は、毎度律儀に車窓に映る宍道湖を案内する。「全国で七番目の大きさで、海水の入り混じった汽水湖です。たくさんの魚介類が生息しており……」もはや見飽きた水面は、今日もそこそこに濁っている。ぼんやりそちらに目をやってからふと視線を前に戻すと、通路に立っていた女性はすとんと座っていた。いったい何だったのか。謎である。


 どうもちょうど良い時間のバスが無いようで、出雲市駅から映画館まで三十分ほど歩くことになった。晴れていたのでまだどうにかなる。頭はやはり、ふわふわとするが。気圧がおかしいらしい。

 駅からの道は平たく真っ直ぐに伸び、この辺りは新しく切り開いた土地なのだろうなとぼんやり思う。これが大社のあたりになると、道はうねるし高低差もかなりある。

 道のりのちょうど半ば辺りに気になっていたカフェがあったので、ランチに立ち寄ることにした。店の名は『オトナキチコーヒー』。ワークスペースとレンタルスペース、そしてカフェスペースと三通りの使い方のできる、まさに大人の基地のような場所である。

 注文したのはパニーニを使った「ふわふわたまごと大葉のサンド」のプリンとドリンクのセット。ここの売りの一つがプリンと聞いていたのでこれは食べておきたかった。

 ほどなくして、パニーニとプリンと珈琲がトレーに乗ってやってきた。温かいパニーニに、粒マスタードとマヨネーズが混ぜられたふわふわのたまごサラダ。敷かれた大葉の下には、ケチャップ系のソースが塗られている。これが実に美味しい。パニーニは全粒粉が使われていて、外はさっくり中はふかふかとして香ばしく、噛むほどに味わい深い。これにまろやかなたまごサラダと爽やかな大葉が、意外なほど合う。これにしかない味わいのバランスがある。食べてみて良かった。

 一方、評判のプリンは、良くも悪くも大変普通だった。シルバーの脚付き皿に乗ったプリンは高さがあり、缶詰めのさくらんぼが乗ったレトロな姿。その見た目通りの、固めで懐かしいプリンである。たっぷりと食べられるのが良い。

『大社珈琲』の豆を使ったホットコーヒーは、非常に握りやすい持ち手のカップにたっぷりと入って、味も好みだった。

 少しゆっくりし過ぎて、映画館には早足で向かうことになってしまったが仕方ない。


 本日の一本目は、『ゴジラ-1.0』。折角なので大きなスクリーンで観ようと思って来たのだが、うん、なるほど、という感じだった。予算の大きな邦画そのままの作りである。特に驚きは無い。

 これでもかと丁寧に積み上げて、全てを台詞にして、もうここしかない、というところにオトす映画である。しっかりゴジラ映画ではあった。これでもかと王道の人間ドラマがあった。悪い映画では無いが、特に何も残らない作品である。

 主演の神木隆之介は前半の演技がどうも他作品より振るわず残念だった。安藤サクラと青木崇高が非常に良かったと思う。

 伊福部音楽の使い方は好きだったが、今作オリジナル音楽はやや過剰に感じた。ドラマの雰囲気を大げさにし過ぎというか、「ここはこういう場面だよ!!!」と主張し過ぎというか。

 このわかりやす過ぎる感じが、しかしゴジラの入門編としては良いのかもしれない。ただしゴジ泣きはしなかった。


 さて、本命はゴジラではない。『映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ』である。

 すみっコぐらしの映画は毎度、私を浄化してくれる。インターネット上で話題になった第一作を劇場に観に行き、私は目玉が溶けるほどに泣いた。決して子供だましなどではない、けれど子供にも大人にもじんわりと沁みるドラマがそこにあった。すみっコたちはどこまでも優しく、温かく、それが大人になってしまった私の心を解きほぐしてしまうのだ。

 第二作も良かったのだが、個人的には第一作ほど心をわしゃわしゃにされはしなかった。脚本家が変わっていた。だが今回の第三作で、第一作を手がけた『ヨーロッパ企画』の角田貴志が戻ってきたのである。私は否応なく期待した。

 その期待を、この作品は超えてきた。いま思い出してまた目が潤んでしまうほどに。私は劇場で嗚咽をこらえるのに必死だった。今日が平日で、私の座る列に他に人がいなくて心底良かったと思った。そしてこの作品を映画館で観ることにして正解だったとも。すみっコたちの愛らしさはそれだけで癒されるし、映画らしいスペクタクルなシーンもある。そしてやはり、優しい。優しすぎる。でも決してそれが眩しいわけではなくじんわりと温かいのが、すみっコの良さであると、私は思う。

 ゴジラでは開かなかった涙線がすっかり緩んでしまった。是非とも、騙されたと思って、多くの人が本作を映画館で観てほしいと願う。


 泣き腫らして真っ赤な目のまま、迎えに来てくれた夫と合流した。夕飯をどうしようかと相談して、五、六年ぶりに『サイゼリヤ』に行った。

 そう、『サイゼリヤ』が昨年末、山陰にできたのである。学生時代に散々行ったサイゼリヤに、結婚して以降はもはや行った覚えがない。久しぶり過ぎて、メニューやオーダー方法が変わったのを知ってはいたが、改めて驚いた。

 定番のエスカルゴ、香ばしいラム肉のアロスティチーニ、バッファローモッツァレラがたっぷりのピザ。久しぶりに食べると美味しいものである。そしてやたら安い。

 今回楽しみにしていたのは、私が行っていた頃から一新されたデザートである。私は常々、サイゼのティラミスが「ティラミスアイス」であることが不満だった。カタラーナがアイスになるのはまだわかる、しかしティラミスはふんわり柔らかくてなんぼである。

 というわけでイタリア直輸入だという「イタリアンプリン」と「ティラミスクラシコ」の盛り合わせを頼んだ。ティラミスはきちんとふんわり食感で、エスプレッソの風味が無いのは残念だがマスカルポーネもしっかり感じる。イタリアンプリンは、イタリアの砂糖の風味なのか独特の甘さがあり、日本ではなかなか味わえないプリンになっていて美味しい。好みは分かれそうだが私は好きである。

 たまにはサイゼリヤで豪遊するのも良い。


 今日は色々と満喫したが、やはり一日中頭はくらくらしていた。明日は大人しくしていようと思う。

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