10月21日 豚バラと牛すじのモーブーカレーと、プリン、タタンのクレープ、仁多米おむすび

 おかしな天気である。

 今日は朝早くから雨がざあざあと喧しく降り、その中を夫は出かけて行った。アマチュアオーケストラの演奏会で弾くため、隠岐に呼ばれているという。この天気で船は無事に出るのだろうか。そして予定通りに帰ってこられるのだろうか。

 隠岐というのは、島根半島の北方約五十キロに位置する群島で、住民の住む四つの島と、他の約百八十の小島からなる諸島である。色々と取り沙汰されることもある竹島も、この中に含まれる。島根の美保関にある七類港か、鳥取の境港からのフェリー以外に渡る手段はない。「島内にハンバーガーを売る店が無いからハンバーガーの入った自動販売機を有志が設置した」というようなことがニュースになるような、小さな小さな島である。「金も女もなんにもない」と言う意味の『キンニャモニャ』という民謡が受け継がれていたりする土地である。

 船の時間も便数も限られているので、今日は隠岐に泊まり、明日演奏をして帰ってくるらしい。私は隠岐に行ったことが無い。当初はこれを機に私も隠岐に聴きに行こうかと思っていたが、住民の住む四島全てを併せても、オーケストラ団員を泊める宿すらも足りるか危ういとのことだったので留守番である。


 夫を送り出してから二度寝して、昼前になると雨は止んでいた。

 どうなるかと思っていたが、自転車で出かけてもなんとか大丈夫そうである。今日は食道楽の日に決めた。いつもでは?と思われるかもしれないが、土曜に一人だから食べられるものを尽く食べてやろうと思ったのだ。

 厚い黒雲と青空が混じる不思議な空模様。乾きかけた道路に水たまりがしっかり残っている。それを避けつつたどり着いたのは、一軒のカレー屋。

 ここは元々、東京でアパレル業の傍らカレー屋を営んでいたオーナー夫婦が、コロナ禍を機に、奥様の実家のある松江市へ移住して開いたという店である。東京にあった頃のカレー屋は認識はしていたのだが、行く機会の無いまま私が島根に来てしまった。それからなんと同じ年の秋ごろ、松江市に移転してきたのである。これはもはや運命。

 秋限定の一皿は残念ながら既に売り切れていたのだが、「豚バラと牛すじのモーブーカレー」、「スパイス香るキーマカレー」のあいがけは注文することができた。鮮やかな黄色をしたサフランライスの壁に遮られた二つのカレー。香りよいカスメリティもたっぷりと振りかけられ、キーマカレーには卵黄も乗り、見た目にも美しい。「モーブーカレー」の方は、豚バラも牛すじも柔らかく、少し和風な出汁も感じるような旨味をたっぷり感じられる。優しい甘みがあり、非常に美味しい。定番の「キーマカレー」も勿論美味しい。こちらはその名の通り香り高いスパイスが効いているが、尖った辛さは無く、卵黄をとろりと崩せばよりマイルドになる。こちらも豚と牛の二種類の挽き肉を使っていて、風味豊かである。何度か来ているが、変わらず美味しい。

 そして今日は、土日限定のプリンも注文した。これまで平日にしか行ったことが無かったので、これを食べるのは初めてである。スプーンをぷるんと跳ね返す、弾力のあるタイプ。一口含めば、みっしりと濃厚な卵の風味と優しい甘さが、カレーの後にとても良い。生クリームはほんのりとラムの香り。これはかなり好みのプリンである。食べて良かった。


 その後は、数軒隣のパティスリーへ。ここは私が島根県内で最も美味しいと思う店で、東京の店にも決して引けを取らない店である。そのパティスリーが、土曜日限定で焼きたてのクレープを出しているのだ。ずっと狙ってはいたのだが、遂に今日ありついた。

 いくつかメニューはあったが、注文したのは秋らしい「タタン」。レジ横で待つことしばし、渡されたクレープが温かいのが嬉しい。スプーンでまず、キャラメルジェラートを一口。これがやはり、実に美味しい。バニラビーンズもしっかりと入った甘い香りと、ほろ苦いキャラメルの味。クリーミーで濃厚だが決してしつこくない。クレープの表はもっちり、裏がサクサクとしているのがこれもまた好みである。小麦とバターをしっかりと感じる味わい。タルトタタンのようにキャラメリゼされた林檎は甘酸っぱさも残る。そこになめらかなカスタードクリームとキャラメルクリーム。流石パティスリー、と感動する美味しさだった。


 その後は今日の夕飯にしようと、おむすび専門店に立ち寄った。美味しい仁多米を使ったおむすびにはたくさんの種類があり、目移りする。結局「牛しぐれ煮」「鮭ハラス」「ちりめん山椒」を選んだ。

 初めて行ったので知らなかったが、注文してから作ってくれるスタイルで、受け取ったおむすびはホカホカとしている。夜に食べようと思っていたが、これは温かいうちに食べなければなるまい。

 というわけで、帰宅後すぐに「鮭ハラス」を食べた。おそろしく旨い。やはり仁多米はふっくらとして味わい深い。美味しい米である。そこにヒマラヤ岩塩が効き、有明の海苔、そして少し炙った鮭ハラス。美味しいに決まっているのだ。

 さすがに三つすぐには食べられなかったので、「ちりめん山椒」は冷めてから食べた。すこしひんやりとしたおむすびは、甘みのある岩塩の風味が際立ち、これはこれでしっかり美味しい。ちりめん山椒が米に合うのは勿論である。


 と、いうのを映画『ロンドンゾンビ紀行』を同時視聴してから必死に打ち込んでいた。ギリギリである。そして食べ過ぎである。

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