10月19日 キノコたっぷりビーフストロガノフ

 満腹と疲労と酔いでぽわーっとしてしまっているが、なんとか日記を書く。


 天気の良いのは今日の昼ごろまで。次第に立ち込める雲は「そろそろ恋しかったでしょう?」とでも言うように空を覆う。私の体調はより下降する。そうしてやはり、雨が降る。

 こんな状態ではあったが、今日作るものは決めていて、冷凍の牛肉もチルド室で解凍してしまっていた。安売りになっていた大山生クリームも買ってある。夫が職場でもらってきてしまった大きなタマネギの存在も私を悩ませていた。そして何度でも言うが、私はキノコが好物である。そんな時に見つけたレシピが、「キノコのビーフストロガノフ」だった。

 まずは飴色タマネギを作らねばならない。家庭用に手早く仕上げるにはいくつかコツがある。一つは、繊維を断つ方向に極薄切りにすること。私は不器用極まりないのでスライサーを使う。もう一つは、それを予め冷凍しておくか、もしくはレンジで透き通るまで温めるかして、細胞を破壊すること。私はもっぱらレンジを使っている。そして最後に、油分をよく絡めたら鍋底に広げ、蓋をしてしばらく動かさないこと。飴色というのは結局メイラード反応なので、色付く程度に焼き目をつける必要があるのだ。タマネギには結構水分があるので、蒸し焼きしている分にはそうそう焦げないものである。ここからは焦らず、鍋底にこびりついた旨味を水分と油分でこそげ落としながらタマネギにまとわせ、どろどろのペースト状になるまで炒めていく。こうすることで、火にかける時間はだいたい半分くらいになる。それでもまぁ、十五分ほどはタマネギとじっくり対峙しなくてはならないが。

 さて、ここからが本格的なレシピである。白ワインをタマネギに馴染ませてから煮詰め、しっかりと水分を飛ばす。こうすることで、旨味が凝縮するのだという。それをまた水でのばして煮込む。

 フライパンでは具材にざっと火を通す。たっぷりのキノコをほぐしておいて、フライパンに広げて塩を振り、オリーブオイルで両面を焼きつける。牛肉も同様にして、タマネギを煮込んだ鍋へ投入。フライパンにこびりついた旨味も水でこそげ落として鍋に混ぜこむ。これを数分煮込み、最後に生クリームを加えて軽く煮たら、出来上がりである。

 

 ごはんにたっぷりとかけていただく。見た目にもかなり具沢山である。飴色タマネギのコク深い風味、こんがりとしたキノコと牛肉の旨味、それをダイレクトに感じる美味しさである。苦労が報われた。クリームの他は白ワインと塩だけの味付けなのが潔く、しかし実にうまい。食べ応えはしっかりとあるのだが、味わいがまろやかで優しい分、いくらでもたべられてしまいそうである。

 これはもうなんだかお酒を飲みたくなってしまって、飲んだ。今夜はこれ以上何もできない。


「食べるときは一瞬だし、音楽は録音が残るけど食事って残せないよね」と、夫がそのようなことを言った。美味しかったらしい。作った甲斐があった。

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