10月11日 月見ハットメルツ 香ばしベーコン

 今日はほぼほぼ寝込んでいた。窓の外すら見ていない。

 原因はまぁなんとなくわかっているので、一時的なものであろう。


 良いことが無いわけではなかった。

 今住んでいる地域の役員を逃げ切ることに成功したのである。

 住民の持ち回りで務める役員なので、順番で回って来そうなものだが、ここでは「デジタルあみだくじ」で決めている。私は「デジタルあみだくじ」なるものの存在すら知らなかった。QRコードを読み取るとあみだくじのページに飛び、早いもの順でくじを選び、期日になると結果を見ることができる、というものである。なるほど、便利。そして私はこれまでのくじで全てを引いているのだった。

 さてこの度、残り半期分の役員の抽選があったわけだが、私はまたを引いた。結果を見た瞬間、思わず力強いガッツポーズをしてしまった。声も出た。これで私は、役員を一度もやらずに山陰を去ることになるわけである。面倒が無いに越したことはない。一安心である。


 今日の夕飯はひとり飯なのだが、家のストックにはあまりそそられず、ほとんど寝ていたにも関わらずそこそこに空腹だった。デリバリー系サイトをぐるぐるスクロールして、なんとなく決めたのが『ピザハット』の「月見ハットメルツ 香ばしベーコン」である。

「ハットメルツ」というメニューを注文するのも初めてだったが、これはどうも、クリスピーなピザ生地で具を挟んで焼き、二種のディップソースをつけて食べるものらしい。ボックスにはフライドポテトも入っており、一人用にちょうど良さそうなセットである。通常メニューではディップソースがトマトソースとワカモレソースということで、どこかタコスのようだが、期間限定の月見メニューでは明太子ソースとハニーマスタードソースになっている。

 とりあえず何もつけずに一口食べてみる。サクサクのクリスピー生地に、たっぷりのモッツァレラチーズ、ごろごろとスティック状のベーコン、とろりと絡む卵黄風ソース。まず間違いの無い組み合わせである。シンプルなので食べやすく、宅配ピザにありがちなクドさもない。これだけだと少し食べ飽きるかもしれない。そこでディップソースである。ハニーマスタードソースとの相性は言うまでもなく、一気にジャンク感が増す。そのままだと気配が薄いベーコンもぐっと引き立ってくる。明太子ソースは逆にベーコンの存在を消してしまう旨さとインパクトがあるが、その分モッツァレラチーズとの絡みが良く、やみつきになるタイプの味わい。結構思い切りよくディップしたがソースはたっぷりとあって、ポテトをディップしても美味しい。期間限定なのが惜しい組み合わせだと思う。


 ピザハットのフライドポテトを、恐らく初めて食べたと思うのだが、なんだか似たポテトを知っている気がした。やや太めのスティック状で、ところどころに皮が残してある。恐らくはレンジ調理なのでしんなりしていて、不味いわけでは無いがベストではない。

 先ほどそれをぼんやり思い出した。高校の売店のフライドポテトである。こちらはちゃんと揚げて作ってあるはずなのだが、すぐに透明な惣菜パックに詰めて蓋をしてしまうので、昼に食べる頃にはしんなりしているのだ。それでも当時はあれが好きでよく買っていた。午前の休憩時間に行くとまだ温かいポテトが並んでいるのを買って、小腹が空くとそれをこっそりつまんだりした。パックの蓋はホッチキスで止められているのだが、それを破らないように横の隙間から指を突っ込むのである。はしたないがそれが美味しくて、周りも結構やっていた。

 母校の食堂や売店は当時既に古びていて、今はもう改装されたと聞いた。あのフライドポテトはまだあるのだろうか。私のような、はしたない少女を生み続けていてほしいと、ついどこかで思ってしまう。

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