9月24日 『ピエールマルコリーニ』のダックワーズ

 近頃、母の夢をよくみる。

 親子で旅行していたり、実家で過ごしていたり、祖母と私が喧嘩していたり。夢の中の母は自分の足で歩き回るし、以前と変わらぬ声と表情でよく喋る。夢の中の私はそれを当然のように見ながらも、「なんだ、何とも無かったんじゃないか」とどこかで考えている。あまりに現実と区別がつかない夢もあって、目覚めるとその気分を引きずってしまう。それから徐々に実情を思い出すのだ。ぐらりと足を踏み外すような感覚に襲われるのは、辛いものがある。


 今日はそんな朝だった。

 夫は朝からオーケストラのイベントで出かけていて、私は一人静かに伏せっていた。

 昨夜、ちょうど日記を書いた後くらいから夫は職場の緊急対応に追われることになり、土曜だというのに夕飯も食いはぐれ、日付が変わってからようやく帰ってきた。あわや今日のオーケストラのイベントもキャンセルする羽目になるところだったが、それはなんとか免れたようである。話を聞いてみると完全に巻き込まれた形なので、実に可哀想である。無事にオーケストラのイベントには参加できたのだが、その足でまた職場に向かっていった。


 帰宅した夫と共に近場で適当な夕飯を食べ、その食後にまた珈琲を淹れた。今日の私たちには、ゆっくり珈琲を飲む時間が必要だと思ったのだ。

 東京で買った、『ピエールマルコリーニ』の「ダックワーズ」を開けた。これは羽田空港限定の商品で、帰りの便が遅れたのを待つ間ぶらついていて見つけたのだった。

 現在、日本でよく見られる「ダックワーズ」の形は、実は比較的最近に日本でアレンジされたものである。元となった「ダコワーズ」というフランス菓子は、アーモンド風味のメレンゲを焼いて主にホールケーキなどの土台などに使っているらしい。それをフランスで働いていた日本人パティシエが和菓子の最中もなかの形や食感を参考に考案し、名前も日本人に発音しやすいように「ダックワーズ」としたのが全国に広まったのだという。だから多くが小判形で、餡のようにクリームが挟んであるのだ。

『ピエールマルコリーニ』といえば、香り高く洗練されたチョコレート。今回の「ダックワーズ」にもそのこだわりがしっかりと表れている。

 ダックワーズ生地に使われているのはアーモンドではなくヘーゼルナッツ。この独特の香ばしさが、挟まれたビターなチョコレートクリームによく合う。コク深く、上品な甘さ。始めにはサックリとして、口溶けはホロホロと儚い。そして際立つ、チョコレートの風味の良さ。流石の味である。無理やり荷物に詰め込んで良かった。


 なんだか明日からも少し慌ただしそうである。山陰の秋を楽しむ時間はあるだろうか。

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