9月19日 富士宮焼きそば

 日がな一日、夫婦でダラダラと過ごした。

 夫が有給休暇をとっていたので、我が家の連休は今日までなのである。


 昼間には、冷凍庫にあった富士宮焼きそばを作った。

 富士宮焼きそばとは、静岡県富士宮市のご当地グルメで、B級グルメのコンテスト初代王者としても知られる。その特徴は、具に入れる肉かす、そしてやたらとコシのある麺である。恐ろしくモチモチとしているのだ。一般的な麺を製造する際には蒸した後に茹でるところを、富士宮では茹でずに急冷したあと油でコーティングすることで、水分が少なく仕上がるのだという。これはまだ冷蔵技術が乏しかった頃、麺を日持ちさせる為に編み出された製法らしい。

 まず熱した油で細かく切った肉かすを炒め、油に香りを移していく。そこへざく切りにしたキャベツを強火で炒め合わせ、火が通ったら端に寄せ、空いたところへ麺を入れる。少量の水を麺に回し掛け、ほぐしながら蒸すことしばし。好みの固さになったらソースを絡め、水分を飛ばしながら全体を焼く。皿に持ったら削り粉をたっぷりとかけ、紅生姜を乗せる。これで出来上がりである。

 やはりこの、歯応えがしっかりとある麺が良い。辛口のさらりとしたウスターソースがよく絡み、こんがりとした肉かすの香ばしさがたまらない。その旨味を存分に吸ったキャベツもうまい。ここにイワシの削り粉がまた奥行きを加え、後味は紅生姜でさっぱりと。B級グルメはこうでなくては、といった美味しさである。


 その後は色々と連絡をしたり、夫がゲームをするのを眺めたり、東京の美味しい店・気になる店のリストからおすすめを挙げたりなどした。

 山陰の店はもちろんだが、東京の店についても、私は日頃からチェックをしている。といっても、東京に住んでいた頃からフォローしているアカウントの情報や、グーグルが知らせてくれるニュースなどから収集しているだけなのだが。

 まだ私の精神が青かった頃、お気に入りの店は秘密にしていた。私だけの場所にしたかった。しかしそんなことをしている内に、お気に入りの店がひっそりと無くなってしまうことが何度もあった。東京はただでさえ店の入れ替わりが激しい。お気に入りだからといって、私一人が毎日利用できるわけがない。だから好きな店ほど、広く知られるべきなのだ。多くの人に愛されてこそ、店は続いていく。かつての私はそれが全くわかっていなかった。

 今日のように、友人知人からおすすめの店を尋ねられることは、今では私の喜びの一つである。私の舌を信用してくれている証でもあるし、改めて調べてみることで新しい情報を得ることもできるからである。そして東京に戻ればまた新しい店を開拓する為にも、私は日々のリサーチを欠かさないのだ。


 そろそろこちらは涼しくなってくるというが、本当だろうか。

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