9月9日 小嶋ルミ式ホットケーキ

 今日はそこそこ晴れていたらしい。

 らしい、というのはこの目でしっかりと見たわけではないからで、つまりどこにも出かけなかったのである。

 正直に書こう。ゴロゴロしていた。

 夫婦でひたすら、のんべんだらりと過ごしていた。日中はほぼ寝ていたと言っても良い。昨日なんとなく酒を飲んだせいなのか、日頃の疲れなのか、わからないがとにかく寝転がってぬくぬくしていた。無為である。


 昨夜は予定通り、映画『エコール』を観た。私は十年ぶりくらい、二度目の鑑賞である。これだけ間が空くと、細かいところはほとんど忘れていた。

 明確なストーリーは無く、森の中の学校で暮らす少女たちの意味ありげな出来事が、意味ありげなアングルで、至極美しく映されていく。ただそれだけの映画、とも言える。だから、私はわりと好きな映画だが、その好きな理由を具体的に挙げるのはなかなか難しい。一つ確かに言えるのは、「少女が少女の姿として」描かれていることに好感を持っている、ということである。

 私はこの作品を観るとき、「かつて少女だった」者として観てしまう。幼い頃には裸になることも、どこかへ飛び出して行くことも、怖くも何ともなかった。スカートの翻るのが何故いけないかって、男子や大人がうるさいからだった。自分よりも小さな子を前にすれば、母や姉のように振る舞うのが当たり前で、それでも自分は少女だった。そうしてやってくる初潮。体から心まで変えてしまうそれ。少女としての“価値”を自覚する頃。───そんなありのままの「少女」がスクリーンの中にあるのが、私は好きだ。

 ともすれば少女に母性や神性を背負わせがちな創作の世界。私はそれを目にすると鬼になってしまう。「少女は少女でいさせろ!」と叫んでしまう。いわゆる“地雷”である。この作品は徹底して少女がありのままに生きている。そこが良い。

 万人に勧められる映画ではないが、原題が『イノセンス』なことも含めて、個人的には好きな作品である。


 さて、ひたすらゴロゴロしていたからといって、腹は減るものである。今日は小嶋ルミ女史のレシピでホットケーキを作った。ホットケーキの登場頻度が高過ぎる気はしないでもないが、好物なので仕方ない。

 小嶋ルミ氏といえば、女性パティシエの草分け的存在で、東京の武蔵小金井にあるパティスリー『オーブンミトン』は、見た目は素朴ながら何を食べても格別に美味しく、よく食べていた。

 その小嶋ルミ氏がとあるテレビ番組で極上のホットケーキを作ると言うので、録画してしっかり見ていたのだ。これがなかなか、ユニークかつ科学的なのだ。もとより、お菓子作りというのはとても科学的なものなのだが。

 最も特徴的なのは、混ぜ過ぎないこと。具体的には、卵液と粉類を合わせたら、泡立て器を垂直に持って左右に十五回ずつ回すだけである。こうすることで、最小限の量に抑えたベーキングパウダーの働きを最大限に活かすことができるのだ。

 そしてフライパンで焼くときには、蓋をして弱めの中火で蒸し焼きに。膨らんだ生地の全体へ均一に熱を通す為である。

 こうして焼いたホットケーキは、これまで私が家で焼いたホットケーキの中でも一番の膨らみ。外はさっくり、中はふわふわ。バターをしっかり馴染ませた上からメープルシロップをかければ、極上の仕上がりである。表面の香ばしさとふかふかの食感は上等な焼き菓子のようで、これが“ケーキ”なのだと改めて思い出させてくれる。生地の甘みも強過ぎないので、焼いたベーコンも合わせてみた。素晴らしい組み合わせである。ベーコンの塩気とメープルシロップの風味豊かな甘みは、驚くほど相性が良いのだ。

 これはもう、家で焼くホットケーキの理想形と言って良い。ミックス粉はもういらない。ありがとう小嶋ルミ氏。これからもついていこうと思う。


 明日は夫が出かけてしまうし、またゴロゴロしてしまいそうではある。天気がまた下り坂のようだし。

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