8月10日 出雲そば

 頭痛と目眩で一日中伏せっていた。

 台風の影響はおそろしい。この辺りを吹く風はただでさえ強いのに、激しさを増して窓を戸をガタガタと鳴らす。頭痛薬を飲んでしまえば痛みは収まるが、目眩と眠気にやられていた。


 そんな今日は、夫が仕事で飯南町いいなんちょうに行っていたらしい。

 飯南町は広島との県境、中国山地の脊梁部に位置し、町内の約九割を山林や原野が占め、ほぼ農業で成り立っている町である。

 この飯南町にある人気の蕎麦屋『一福』で、夫が蕎麦を買ってきてくれたので、今夜はそれを茹でることにする。

 出雲そばの特徴は、なんといっても挽き方にある。

 殻をむいた蕎麦の実を挽くと実の中心に近い部分から砕けていくのだが、一般的な蕎麦の場合、その最も白っぽい粉を一番粉、胚芽や甘皮を含んで黒っぽくなるほどに二番粉、三番粉と選別をしていく。出雲そばについてはその選別を行わず、甘皮までまるごと挽いていく「挽きぐるみ」「一本挽き」と呼ばれる製粉方法を使っている。その為に色も香りも濃く、栄養価も高くなるのだ。

 生そばをたっぷりの湯に泳がせ、流水で洗ってから氷水で締める。この氷水をつくるのに、かなりの氷を使うことになってしまった。

 ぷるりと艷やかで、黒々とした蕎麦。付属のつゆをつけて啜ればその強い香りがぐんと鼻を抜けていく。皮ごと挽いた蕎麦は特有のざらつきとむっちりとしたコシがあり、噛むほどに味わい深い。出汁の効いたそばつゆは、やはり山陰の醤油を使っているのだろう、濃厚で甘い。出雲そばによく合う。ワサビや海苔を薬味にして、海老天なども添えて、あっという間に平らげてしまった。あまり食欲の無い日だと思っていたが、やはり蕎麦は好きだ。


 三連休が始まることを、すっかり忘れていた。とりあえず体調を戻したい。

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