8月5日 鰻丼

 コロナ禍の飲食店離れに伴い、島根県では「プレミアム飲食券」という、お得な金券を発行していた。ローソンで発券できるのも便利なのでそこそこの頻度で利用していたのだが、七月末でついに販売が終了し、利用期限も間もなくである。

 この機を逃すともう行かない気がしたので、大根島だいこんしまの鰻を食べに行くことにした。


 東は日本海と、西は宍道湖と繋がる、海水と淡水の混じる汽水湖・中海なかうみ。そこに浮かぶ小さな火山島が大根島だいこんしまである。大根島という名だが、特産品は牡丹と高麗人参。名前の由来は諸説あるが、出雲風土記によると「たこ」らしい。一羽の大鷲が出雲にいた蛸を捕らえ、飛んできてこの島に止まったことから「蜛蝫たこ島」となり、それが時を経て「たく島」「だいこ島」「だいこん島」と変わっていく中で、「大根島」の当て字があてはめられたのだという。


 さて、中海および宍道湖は先に述べた通り汽水湖の為、季節ごとに様々な魚介類が採れる。その代表的なもの、スズキ、モロゲエビ、ウナギ、アマサギ(ワカサギ)、シラウオ、コイ、シジミ(ヤマトシジミ、の七つを並べて「宍道湖しんじこ七珍しっちん」と呼ぶ。

 その影響もあってか、県内には鰻店がぽつぽつとあり、大根島には地元で有名な『山美世やまみせ』という老舗があるのだ。

 ニホンウナギが絶滅の危機にあることは、私も知っている。その数がきちんと戻るようにと、ここ数年は食べていない。しかし地のもの、名物だと言うならば、この土地にいるうちに一度は食べておこうと思ったのである。


 既に土用の丑の日を過ぎ、暑いこの時期は旬でもない。しかし店内は大いに賑わっていた。

 鰻丼に小鉢などが付いた膳を注文した。

 よく晴れた空と中海を眺めながらじっくりと待ち、膳がやってきた。

 まずは鰻の素焼きが乗ったサラダ。こんがりと焼かれた鰻の身はドレッシングをかけた野菜とも不思議と合う。今の時期の、あっさりとした鰻なのもあるかもしれない。

 メインの鰻丼。蒸さずに焼いた関西風の蒲焼きは皮目はパリッとして身まで香ばしく、タレの香りが良い。非常に素直な味わいで、脂がくどくないのが私にはちょうど良かった。

 合間に大根の酢の物と、内蔵の煮付けをつまむ。臭みは一切無く、山椒がぴりりと効いていてうまい。

 椀はシジミの吸い物。出汁の旨味を直に感じるような、シンプルな美味しさが、鰻の合間に良い塩梅である。

 そして藻塩と山葵醤油で味わう鰻の素焼きで〆る。この店の場合かもしれないが、蒲焼きよりもこちらの方が好きかもしれない。藻塩のまろやかな塩気も、山陰の甘めの醤油も、ふっくらとした素焼きの鰻に大変よく合う。

 実に美味しい鰻だった。この味がこの先も末永く、誰もが味わえることを祈る。またしばらくは鰻絶ちである。


 さて、現在は一時帰宅中。

 夕方からまた出かけなければならないのだが、おそらくその後に日記を書くのは間に合わないと思われるので、いつもより早いがひとまずここまで。

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