6月15日 牛肉の小松菜ソースがけ

 今日も雨は降ったり止んだり、ときどき雷。

 その合間を縫って、どうにか買い物に出かけた。ここ数日の中では比較的、体調は良い方である。

 いつまた降りだすかわからないので、少し急いで自転車を漕いでいると、目の前をててて、と横切る影が一つ。

 おお、まさか、あなたこそは、ネコチャン。

 私はそうっとブレーキをかけた。それに気付いた猫さまはくるりと私を振り返る。猫さまと私は、そのとき確かに目が合った。痩せてほっそりとした体には、白地に明るい茶色と灰色の柄が入り、長い尻尾がゆらゆらと揺れていた。逆三角形の顔が小さくて、ピンと立った耳が大きく見える。オリーブ色の瞳はツンとした眼差しで、それがふいに逸らされたかと思うと、空き地に停められた車の下に消えていってしまった。

 ああ、ネコチャン。ここにネコチャンがいたなんて。

 私はその幸福を噛み締めた。

 私は結構、だいぶ、かなり、猫という存在が好きである。地球上で最も可愛い生きものは猫であると思っている程度には好きである。けれども飼ったことはない。動物のアレルギーは無いはずだが、昔も今も、ペット不可の物件にばかり住んでいる。家までついて来ようとした子猫を、断腸の思いで振り切ったこともある。だから街なかの猫さまの姿を目にするのが本当に至福の瞬間なのだが、ここに越してきてからさっぱり見かけることが無かった。この近所には野良猫は存在しないのだろうと、そうに違いないと思っていた。人のいる街にこそ猫が住むのだ、当たり前のことである。そう自分に言い聞かせて諦めていたのだが。

 この地に来て一年と少し、今日初めて、猫さまに会うことができた。

 ありがとう、心からありがとう。ネコチャンは私の希望の光。なんとかここで生きていける。


 そんな素晴らしい出会いのあった今日、夕飯は牛肉の小松菜ソースがけ。

 昨夜から解凍しておいた、熊本あか牛の切り落としを使う。ふるさと納税の返礼品である。これを贅沢に300g、下味をしっかり付けて色が変わるまでさっと炒める。

 これにかけるソースは、小松菜を粗みじんに切ってから塩もみし、刻んだにんにくとレモン汁、オリーブオイルと混ぜ合わせたもの。こう蒸し暑いと、極力火を使わないレシピがありがたい。

 このシンプルな組み合わせが、ちょっと良い肉を使うのにちょうど良い。

 熊本あか牛はしっかりと噛みごたえがあるが筋張った固さではなく、噛むほどに和牛らしい旨味を感じる。サシの脂もさらりとして食べやすく、小松菜にレモンの効いたソースが爽やか。早くもバテ気味な体でもごはんが進む一品である。


 あか牛を食べると顎が疲れるのが難点だが、やはり美味しい。明日は最後の300gを使い切る予定である。最後まで美味しく食べるとしよう。

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