6月13日 100時間カレー

 昨夜の雨はひどかった。

 深夜に雨音が聞こえだした思ったら、機関銃のような轟音になり、それがおさまったり、またひどくなったりを繰り返す。

 それでもまぁ寝るか、という段になって、やたら体が火照るなぁと思うと、発熱していた。といっても微熱の範囲ではあるが。冷凍庫から氷枕を引っ張り出し、そのひんやりと心地よい感覚に身を委ねてどうにか眠りについた。はずなのだが。


 なんとも嫌な夢を見た。

 夢の中の私はなんらかの編集の仕事をしていて、取引先のある女と揉めていた。黒く長い髪の、暗い顔をしたその女は、私の制作物(ポスターのようなもの)を前にぼそりと「ダメ」と告げる。どこがダメなのか、どうすれば良いのか、尋ねても女は答えない。ひたすらにリテイクを求める女。苛立ちを隠せなくなってくる私。その間に時は過ぎ、夜は更けて、朝が来る。データを渡さなければならない工場のようなところから、催促とペナルティの説明で圧をかけられる。もうすぐどうにか微調整が終わる、もうこれ以上は無理、というタイミングで目が覚めた。

 どうやらうなされていたらしく、夫に起こされたようだった。直前まで唸っていたような感覚が喉にある。全身が汗に濡れて不快極まりなかった。夢の中での徹夜とストレスで、全く寝た気がしない。


 そんなこんなで寝覚めは最悪である。体調もよろしくない。頭がふわふわぐるぐるする。

 気絶するように寝て、また夢を見た。


 何か食べた瞬間に、ぽろりと歯が抜けた。口の中にころころと歯が転がる。背筋が冷える。まるで乳歯が生え変わるときのように、痛みは無い。しかし夢の中の私は大人である。恐る恐る吐き出してみると、抜けた歯は、五本ほどだった。うち一本は欠けてもいた。呆然とする。どうにか歯医者へ辿り着く。

「運動不足ですね」と、歯医者は言った。夢の中の世界では、運動不足になると歯の生えている穴が広がってしまうのだと、淡々と説明された。

 運動不足。それならば仕方ない。現状、私は運動不足に違いないのだ。しかしその代償がこれなのか。不規則に歯抜けになってしまった隙間を、穴ぼこになった歯肉を舌でなぞりながら、私は静かに絶望した。


 という恐ろしい夢だった。

 何なのだこれは。周りに歯医者へかかる人が多いからなのか。


 そんな夢から覚めると、夫が帰ってきていた。

 私の気力も食欲も無いため、本日はまたレトルトカレーを食べ比べる日とした。

 私が選んだのは『100時間カレー』。神田カレーグランプリ優勝店シリーズの一つである。東京では何度か店舗で食べた、思い出の味である。その名の通りじっくりと時間をかけて作られたカレーは、濃厚かつまろやか。野菜や果物はすっかり形を無くし、牛肉のフォンがしっかりと溶け込んで、ルゥはとろりと黒に近づく。さらに低音熟成され、スパイスの角が取れ、コクと旨味をぐっと高めたカレーになる。懐かしい美味しさである。

 夫が選んだのは大阪『伽麗伊屋かれいや』の欧風ビーフカレー。一口食べたが、やはり大阪のカレーらしく、口当たりは甘いのだが後味にしっかりとスパイスの辛さが来るタイプ。柔らかな牛肉も入り、スタンダードな美味しさである。


 寝たり起きたり、という日だったので、ほとんど夢日記になってしまった。今夜はもう、疲れる夢は勘弁してほしい。

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