6月11日 カナの刺身と梅酒ななかんば、モンテクリスト
映画『犬王』を観た。
流麗なアニメーションと、リズミカルな台詞、役者の熱演、それぞれ素晴らしかった。だが観終わってみると、どうにも私は、かなり疲弊してしまったのだった。
物語の要素は好きなものばかりだ。供物・犠牲、出会うべくして出会う二人の少年、どうしようもなく惹きつけられる芸とその熱狂、忘れられた者たち、その救済。
申楽にロックを合わせるのも嫌いじゃない。「変わり琵琶」で片付けすぎてて笑ってしまうところはあるけれども。洋楽をあまり聴いてこなかったが、この作品内の曲も悪くないと思うし、アヴちゃんの歌唱力も演技力も凄まじかった。
しかし私はたぶん、「映画」が観たかったのだ。野外音楽フェスではなく。
私がフェス的なものに馴染みが無さ過ぎるのもきっと影響している。試みは面白いと思うのだけれど、私はあのオーディエンスになれなかった。劇場で観ればまた違う感想になったかもしれない。当時のポップスターとその弾圧、と考えるとロックをあのように使うのはわかる。わかるがしかし、それが上手く行っているかというと、バランスは歪だと思う。
アヴちゃんの歌は強いのだけれど、曲そのものや映像のパワーは振り返ってみるとそこまででは無く、「そうなっとるやろがい」で済ませられるほどの説得力には足りていないと感じる。上手いが、強くはない。ルーツ無しに芸が生まれ、進化していくのにも違和感が最後まで拭えなかった。また、犬王の歌声は物語を聞き取るにはクセが強く、やはり歌詞字幕は欲しかった。そこがわかればまだ、自分の気持ちを乗せられたかもしれない。
前半部、壇ノ浦から厳島辺りの聞き馴染んだ方言の響きや、
友魚がずっと性的魅力に溢れていたのは本当に良かった。
なんとなくだが、原作を読む方が私には向いているのかもしれない。
そんなこともあり、視聴後の感想戦ではあまり喋らず、静かに酒を飲んでいた。
先日買った、『ななかんば 梅酒』である。
1712年から奥出雲にある酒蔵、
その『七冠馬』の純米酒に島根県産の梅を漬けたのが、『ななかんば 梅酒』。日本酒ベースらしくさらりとした飲み口で、梅の甘酸っぱさがしっかりと立つ。味わいはなかなか軽やかである。
これをロックで飲みつつ、肴にはカナの刺身を。カナとは何ぞや、と思って調べてみると、高級魚ハタのことを山陰でこう呼ぶらしい。昨日はそれが、小さなパックではあるが298円。やはり山陰は魚介に強い。
透き通った白身はぷりぷりとした歯応えがしっかりとあり、噛むほどに甘い。パックに添えられた『木桶魂』という醤油は松江のもので、仕込む際の塩水の替わりに、木桶にて熟成し絞った生揚げ醤油を加え、合計3年以上熟成された再仕込み醤油。大変にまろやかで甘みの強いこの醤油とわさびを少し付けると、カナの旨味がいっそう引き立ち、口いっぱいに広がっていく。実にうまい。
楽しげなたくさんの人の声を聴きながら舌鼓を打つうちに、夜は更けていった。
明けて本日。
昨日の食パンの残りを、モンテクリストにする。
簡単に言ってしまえば、ハムとチーズを挟んだフレンチトーストサンドで、カナダ発祥の料理である。何故巌窟王の名が付いたのかは、いくら調べてもはっきりとしない。
クロックムッシュなどと混同されやすいが、あちらはフランス発祥で、卵液には漬けず、ベシャメルソースを乗せる。これを目玉焼きに変えるとクロックマダムになる、という具合。
いつもは六枚もしくは八枚切りの食パンを三枚使うのだが、五枚切りで売られていたので、二枚で。私は色々なレシピの良いとこどりをして作っている。
食パンの内側にはマヨネーズを薄く広げ、二枚のハムを半分に切り、直線がパンの辺に沿うように並べる。スライスチーズの一枚は菱形に見えるように乗せ、もう一枚は四等分してから四隅に置く。こうすると具のないところが無くなるのである。チーズの上には塩少々と黒胡椒をしっかりと振り、マヨネーズとチーズが接するように食パンでサンドする。これを対角線上で切っておく。
卵に牛乳とハチミツを加えてよく溶いた卵液をバットに広げ、サンドの全面をしっかりと浸す。最初に一度全体に絡めてから各面を浸して行くと、数分で卵液を吸いきってくれる。断面も忘れてはいけない。
フライパンにはバターを広げ、泡立ってきたら弱火でじっくりと焼く。これも全面焼くのが良い。断面から始め、広い両面、耳の側面とトングで転がしていき、綺麗な焼き目がついたら出来上がり。
焼き立てはバターが香ばしく、ジューシーなハムにとろりと溶けたチーズ、華やかでスパイシーな黒胡椒、ほのかに甘い卵が滲みてふんわりと柔らかなパン、それらが一体となるのがたまらない。『ル・パンデモニウム』の食パンが元々みっしりとしている分、卵液を含みやすいのも良かった。
二日目の食パンを使うとき、しばしばつくるお気に入りのブランチである。今日も実に美味しかった。
さて、こうして日記を書きながら眺めていた我が夫の『ソフィーのアトリエ』も、間もなくエンディングのようである。夕飯は家にあるものでどうにかする予定である。
家から出ない日曜日もまた素晴らしい。
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