3月30日 ハッシュドビーフ

 眠い。眠過ぎる。

 寝ても寝ても眠い。「春眠暁を覚えず」なんてどころではない。日中の眠気が尋常ではない。夜はむしろ、生来の宵っ張りが顔を出してきて、まぶたは重いのに遅くまで眠れなかったりする。悪循環である。

 あんまりにも眠いので、読もうと思っている諸々も読めてないし、GYAOのウォッチリストも全く消化できていない。


 明日、GYAOが死ぬ。

 まだ今ほどサブスクの類が充実していない頃から、GYAOは様々なものを配信してくれていた。『ファンタスティック・プラネット』『霧につつまれたハリネズミ』『でんでら』『(実写)デビルマン』……そのマニアックなラインナップのおかげで知った作品もある。

 なんといっても、会員登録や課金しなくても観られるものが豊富なのがありがたかった。よろしくない評判ばかり聞こえてきて、そこまで言われるものはいっそ観てみたくなるものの、その為に小銭をドブに捨ててよいものか?みたいな作品には非常にちょうど良い。『(実写)デビルマン』はまさにそれである。

 『(実写)デビルマン』のことを語ると、もはや日記には収まらなくなるほどの様々な要素があの作品にはあるのだが、私は二周くらいまわってあの映画は好きである。演技が初めてなのに主演に抜擢された二人、謎演出の数々、ちょっと何言ってるかわからない台詞回し、やたらと豊富なカメオ出演、アポカリプスデブ。素直に良いところだってある。VFXは当時としてはとても健闘していたし、ボブサップはなかなか良い演技をしていたし、子役の染谷将太はあの映画で一番演技が上手かった。

 忘れられないシーンがあり過ぎる。はっきり言ってクソ映画の代名詞となるほどの珍作ではあるのだが、それもなんだか「これだから実デビはよぅ」と愛おしくなってしまう、妙な魅力があると思うのだ。

 なんとGYAOの『(実写)デビルマン』配信、今日までだそうである。気になってしまった方はこれを機に観てみてはいかがだろうか。

 ただし、それによるいかなる事態にも当方は一切の責任を負わないので、そこはご了承願いたい。


 今日はハッシュドビーフを作った。

 お気に入りのレシピは、市販のデミグラスソースやフォンドボーなどを使わないもの。と言っても、それらを一からつくるわけではなく、家庭料理らしく適度に省略しているので、全く難しくない。

 が、時間は少しかかる。主に飴色玉ねぎをつくるときに。

 私はシャキッとした食感の玉ねぎが苦手である。玉ねぎを美味しく食べられた方が幸せに決まっているのだが、あの匂いと、辛みと、食感。それを感じた瞬間にえづいてしまう。生理的に無理、というやつ。しかし私と玉ねぎが唯一和解できるのが、飴色玉ねぎなのである。

 今日はスーパーで安くなっていた、大きな新玉ねぎを使った。水分の多い新玉ねぎは、飴色玉ねぎに向いていると聞く。繊維を断つようにスライサーで極薄切りにし、バターとしっかり馴染ませてから、じっくり炒める。カラメル色に色づいていく、あの香りは好きだ。メイラード反応は美味しさに直結する。薄切り玉ねぎだったモノが形を無くし、ペースト状の茶色いひとかたまりになれば、ようやく次の作業にとりかかかれる。ここまででまぁ二十分はかかってしまう。

 しかしこの後、小麦粉、ケチャップ、オタフクソースと順に加えて炒めてブイヨンで伸ばせば、ソースの工程はおしまい。

 さて、ここで大事になるのは肉である。取り出しましたるは、冷凍庫に眠っていた「くまもとあか牛」の切り落とし。ふるさと納税の返礼品である。じっくり煮るわけではないレシピなので、臭みがなく、元から柔らかい肉を使うのが良い。

 これを別のフライパンで薄切りマッシュルームと共に焼きつけてから、ソースと馴染ませてひと煮立ち。これで完成である。

 ひとつひとつの工程を丁寧にやれば、これだけでとても美味しいハッシュドビーフになるのだ。

 ソースはじっくり煮込んだかのような深みのある味わい。玉ねぎは甘さと風味だけを残して溶け込んでいる。鍵となるのはオタフクソース。この手のソースは香味野菜を凝縮したものである。ウスターソースなどでも良いらしいが、出身が広島なもので。

 具材はシンプルに肉とマッシュルーム。「くまもとあか牛」はしっかりとサシが入りつつも赤身らしい程よい食感があり、食べ応えたっぷり。噛むほどに口の中へ旨味が広がり、肉質の良さをしっかりと味わえる。そして、その和牛から溶け出した脂をぎゅっと吸ったマッシュルームは、最高の脇役。まろやかでコク深いソースとの一体感は、このマッシュルームの力だろう。


 ちょっと良い薄切り肉があるときの、とっておき。年度末の忙しさもあと一息、ということで、夫の好物を作ってみたのだった。

 明日で三月も終わりだなんて。嘘だろ。

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