3月23日 ガパオライス

 外は雨。

 朝から猛烈な眠気と、頭の鉢をぎゅうぎゅう締め付けられるような痛みに苛まれている。おそらくは天気痛。私は三半規管とかそのあたりがちょっと駄目になっていたりするもので。

 こうなるともう、なんにもできない。ベッドの上でただうぞうぞと身をよじる、私は芋虫。


 都会の空は狭い、と人は言う。

 山陰の空は低い、と私は思う。

 ここには高い建物がほとんど無く、空を塞ぐものが無い。だから実際、広くは見える。けれどそれが抜けるような青色をしていることは極めて稀である。

 晴れているように見えても、いつでも雨を降らす用意はできているのだ、とでも言うように空は白く濁っていて、結構な頻度で通り雨にあう。今日みたいなしっかりとした雨の日は、水墨画の「たらしこみ」のようにぼんやりとした灰色が一面に広がり、雨雲の輪郭も曖昧になる。

 透けたところのない空は、天井と変わらない。山陰に来てそれを思い知った。

 きっと山の天気がそうさせているのだろうと思う。街中でも海のそばでも、いつだって山の姿が目に入る土地である。

 四方からは山が、上からは空が迫って、私は押しつぶされそうになっている。


 こんな日の夕飯は、ミールキットを使う。

 料理するのは嫌いじゃないが、買い物や献立を考えるのは億劫だ。冷蔵庫の余り物から適当に作る、という高度スキルも私には無いので、使い切りの材料や調味料が揃って届くミールキットは大変にありがたい存在である。

 野菜を切って、鶏肉を焼いて、全部炒め合わせたらおしまい。ナンプラー入りソースとフレッシュバジルで、手軽に本格的なガパオライスになる。

 キット外から目玉焼きだけ加えた。多めの油の中に卵を落として、強火で揚げ焼きにしていく。フライパンの中で広がる白身をスプーンで寄せ、熱い油をすくって上からもかけてやる。白身がブツブツと音を立てて泡立ち、その端がこんがりと色付いてきたらひっくり返してひと呼吸、再度裏返してすぐに取り出す。

 私の好きな、両面焼きのフライドエッグ。白身はカリカリに香ばしく、黄身はとろりと流れる半熟。調べてみるとこのタイプは“オーバーイージー”というらしい。焼きそばなどにも乗っけると美味しいやつ。

 少しクセのあるガパオのソースともまろやかに調和する目玉焼き。なんにもできない日だったけれど、これが美味しくできたから良しとしよう。良しとしてほしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る