第17話 ラァナ村、弟弟子と黒い鳥②

 空には橙色と紫色が入り混じり、鳥たちの黒い影が集団で飛び立っていく。


「やっと、歩ける‼」

 

 ユリアはうーんと腕を頭上高く伸ばして、凝り固まってしまった背筋を伸ばす。

 昼食時の休憩として、一度下りただけで、早朝からこの時間までずっと車上の人だったのだ。


「本当、清々しいね」

 

 隣に立つ壁のようなライナルトも、顔を空に向け大きく息を吸い込んだ。

 ラァナ村はユリアが思っていた以上に広大な村だった。

 村の周囲には石の壁が築かれ、村の中央に目を向ければ、鐘楼の尖がった黒い屋根が見える。ユリアたちが下ろしてもらったのは、門扉を通り、見渡すばかりの田畑を抜けた先にある、商店通りだった。


「さてと、まずは今夜の宿泊先を探そうか。今から新婚家庭にお邪魔するのもなんだし……ユリアちゃんのお兄さんを探すにも夜になったら難しいだろうからね」

 

 ライナルトは、ユリアの背を軽く押して進むよう促す。

 いきなり触れられたユリアはぎょとして、真横に立つライナルトを仰ぎ見た。

 子ども扱いしないでと言おうとして、言葉を飲み込む。

 角が立つ言い方は良くない。そう思い直し、コホンと咳払いしてから、


「私、子供じゃないんだから、押されなくても自分で歩ける」

 

 むくれたように言うと、ライナルトは目を見開いたあと、すぐその目を細めて、くつくつと面白そうに笑った。


「な、何⁉」


「あ、いや、そんな顔するとますます子供みたいで」


「そ、そんな顔⁉」

 

 ユリアは目を剥いて、ライナルトを凝視する。

 すると、ライナルトは自分の頬を人差し指で二度とんとんと叩く。

 ユリアが怪訝な顔で首をひねると、ライナルトは自分の頬に当てていた指を、そのまま腕を伸ばして、ユリアの頬へとくっつけた。

 驚いて見返せば、ライナルトは目尻を下げて笑う。


「頬が膨らんでた」

 

 言われてユリアは、自分は頬を膨らめていることに気がつき、唖然とする。

 子供扱いしないでと欲しいと言いながら、まるで幼子のように拗ねている自分が、ひどく滑稽で恥ずかしかった。ユリアは両手で頬を挟み込み、空気を抜くように押し潰す。それから、まだこちらを見下ろしているライナルトをきっと睨みつけた。


「お、女の子のほっぺに、気安く触んないでよね!」

 

 できる限りの虚勢を張ると、ライナルトははっとして真顔に戻る。


「ごめん、配慮に欠けてた。今後は気を付けるよ」

 

 ライナルトは踵を打ちつけるようにくっつけ、背筋を伸ばすと、こちらが恐縮してしまうくらいの折り目正しい仕草で頭を下げた。


「やめて。大袈裟」

 

 ユリアは内心、胸が痛むのを感じながら、顔を背けた。

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