カマルムク
「何が起きている!?」
カマルムクは敵の左翼を迂回しようとした先行部隊の動きが突然止まり、勢いを殺せずにぶつかった後続部隊と玉突きの混乱を起こしたことに困惑の声を上げた。
「何かの罠のようです! 敵が逆襲してきています!」
親衛の一人が悲鳴染みた声で状況を報告する。カマルムクは槍と盾の壁のような敵の陣列が「マラバシュターン!」の
「下がれ、下がれ! 距離を取って射かけながら態勢を立て直す!」
「
大慌てに指示を飛ばすカマルムクに別の親衛が声を上げた。
「こちらの左翼の様子が!」
目を移せば左翼を任せたムカリの将旗が妙な動きを見せていた。何かに押されるように中央のボロルタイの将旗へと近づいている。そしてこれに呼応するように敵の右翼からも「マラバシュターン!」の喊声が聞こえてきた。右翼と同様に、敵の何らかの策で混乱を起こしていることは明らかだった。この右翼と左翼の混乱に、間に挟まれた中央にも動揺が広がっている。カマルムクは「なぜ?」という思いとともに、この劣勢から漂い出す敗北の気配にぞくりと身を震わせた。
ガルマル人は力を尊ぶ。勝者は讃えられてすべてを手にし、敗者は蔑まれてすべてを失う。すべてを失うのだ。ガルマルの一部族の首長の子に生まれ、
「まだだ、まだ……!」
自身が追い詰められていることに気づいたカマルムクは、必死に挽回の方策がないか頭を巡らせた。
そのときカマルムクの視界に、黄金の日輪の意匠を赤い戦塵の中に翻すバシュタイル軍の大将旗の姿が映った。
「皇帝を討てば――」
すべては覆る。
「ボロルタイには左翼を支えさせろ! 右翼は二手に分かれて拘置と迂回で前に出てきた敵を乱せ! その間隙を私が突く!」
想定外の劣勢による動揺の中で忘れていたことをカマルムクは思い出した。自分がこのサルテパトという僻地の荒野にまでやって来たのは皇帝を討つためだ。その首が勝利の証であるためだ。勝つ。勝つのだ。皇帝を討ち取れば勝てるのだ。この劣勢を覆し、勝者として
カマルムク
カマルムクは鷹のような目で、この亀裂を捉えて叫んだ。
「
「
行く手に見えるのは、皇帝の存在を示す黄金に輝く日輪の大将旗。
「
カマルムクはそこに勝利があると確信して、そう力強く
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