第7話 見た目はジェンガなクッキー
短く小さな白い光を三回と、間をあけて先程よりは大きめの赤色の光を一回。先に打ち出した方がSOSであとのが怪我人が一人いるという信号。
「これ渡しとくから痛み出て来たらまた飲んで」
残りの鎮痛剤が入った袋を渡して、役割は終わったとレースに戻るべく箒に股がろうとしたらスカートの端を弱い力で引かれた。
「え?」
思わず振り返ると上目遣いで瞳をうるうるさせた魅琴の姿があった。
普段から悪態をつかれてる私ですら一瞬庇護欲をかきたてられたその表情はさすが魅了系魔女というか……ズルい!
例えて言うなら首を傾げて「行っちゃうの?」と問いかける小型犬のようなその表情。わざとだ!わざとだとわかってるのに私はそれを振り払って飛び立つことは出来なかった。
箒を降ろすと魅琴はホッとした表情を浮かべるが、すぐに自分の行動を思い返してか「んんッ」と空咳をしながらツンとした表情を取り繕う。
いや、てか今さっきのわざとだと思ってたけど実は無自覚だった?
なんだよ、そんなに私に傍に居て欲しかったのかい?子猫ちゃん。
なんて、自分の中のイタリア男がアホなことを言う。
ああ、やばい。まだ魅了魔法かかってんのか?
正気に戻らないと、と携行食を取り出す。
「あんたも食べる?」
箒から落ちる前もフラフラしてたし、さっきの脱臼でも体力を削られただろうと堅焼きクッキーの入った袋を開け問いかける。が、魅琴は戸惑ったような表情のまま視線を左右に動かす。
食べといた方がいいと思うんだけど、いらないんならしょうがないと一本取り出してガリッと一口噛み砕く。
と、その瞬間「あっ」と小さな声が上がる。
ぼーりぼーり。
続けて二口目を噛んでから声のした方、魅琴を見るとわずかに手を挙げかけた状態で顔をほんのり赤く染めながら止まっていた。
無言のまま見つめあい。
三口目を噛み砕いてから無言のまま、もう一度クッキーのはいった袋を魅琴に差し出した。
「あ、ありがとう」
恥ずかしそうにやや俯きながら魅琴はクッキーを一本袋から取り出した。
残りのクッキーを咀嚼しつつ魅琴を横目で見ていると、案の定というか一口目が齧れなくて悪戦苦闘してた。
このクッキーはお上品ぶってると噛み砕けなんだよねぇ。感覚としては肉厚なステーキにかぶりつく感じで!
一口目が食べられればコツが掴めるとは思うんだけど。
結局私が三本食べる間にようやく一本食べきれたって感じで……。
いじわるじゃなかったんだよ。ただ私がコレ好きなだけで。
そんなことを思いながら視線を泳がせるが、魅琴は文句を口にすることなく「ごちそうさま」と小さな声で言った。
「どういたしまして」
さてと、とりあえずこれからどうしよう。
チラッと時間を見ると足切りまでもう間がない。
もう光岳も見える位置だから飛ばせば間に合いそうだけど……。
クッキーを食べて少しは落ち着いたようだけど魅琴はまだちょっとだけ不安そうな表情を見せている。
放っておいても誰に責められるわけもないけど。だって既に私に出来ることはちゃんとした。けどこのまま飛び立ったら後味悪い思いをしそうな……。
そんな風に悩んでいる時だった。
「おーい、大丈夫か?」
「
なんでこんなとこに?もっと先を行ってるはずだよね?
「どうしたって、さっきの救助信号打ったの
おお!わが心の友よ!なんてお前は良いヤツなんだ!
心配して来てくれるなんて良いとこあるぅ。
まぁ今回怪我したのは私じゃないんだけど。
「私は大丈夫。怪我したのはこっち」
私の視線を辿り、魅琴を見つけた亜留斗の顔が怪訝に歪む。
「なんでお前がこんなとこに居るんだ?」
だよねー!やっぱりそう思うよねぇ!
ってことで、かくかくしかじかと簡潔にこの状況に至った説明をしたら亜留斗は思いっきり呆れ果てたって表情で大きなため息を吐き出した。
わかるわ。完全同意。
むしろよくぞ私の心情を的確に表してくれたよ、亜留斗!
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