第6話 フラグ製造機建設予定地はここですか?
たったーたったーフラグたったー♪
思わずリズムをつけてしまった。
杏子さんの不吉な言葉は的中し、あの後すぐ後ろからゼーハー呼吸を乱しながら
「や、やっと追いつい……た」
呼吸の合間に言葉を吐き出しながら魅琴はビシッと私に人先指を突きつけて来た。
「
本人としてはかっこよく宣言したつもりだろうが体力不足か、筋力不足か、箒がフラフラしていて逆に「大丈夫?」と声をかけたくなる感じ。
言ったらまたぎゃんぎゃん怒るだろうから絶対言わないけど。
「っていうかさ、あんた去年海側だったじゃん。なんでこっち来たの?」
東京生まれ東京育ちの魅琴はそもそも長距離の飛行には慣れていない。去年までは箒の乗り方もスピード重視の跨ぐスタイルではなくお優雅な横座りで飛んでいた。
あくまでも義理としてサバトに参加しているだけで足切りの中間地点まで行くだけって感じだったのに今年は最初から箒に股がってたから不思議ではあったのだ。
それだけなら今年は真面目に完走目指すのか〜で済んだのに正直素人にはきつすぎる山側に来るなんて魅琴の実力では自殺行為だ。
さっきの宣言からするに去年の順位が私よりも低かったのが気に入らなかったのかもしれないけど、それなら海側ルートで安定したスピードで飛んで来た方がラストスパートで巻き返せる可能性がなくもなかったのに……まぁ低確率なのは間違いないけど。
これは別に私が自分の実力を買いかぶってるわけではなく、幼い頃から長い休みになれば幼馴染み達と箒に乗って山や海に日帰りで遊びに行ってた積み重ねがあるからで、去年まで横座りスタイルで短距離しか飛んでこなかった魅琴とは地力が違うという事実からそう思うだけだ。
そもそもスタートから別に飛ばしてここまでやって来たわけでもない私に追いつくために既に疲労困憊状態でどうやって勝とうというのか……。
そんなわけで、私としては純粋な気持ちからの質問だったんだけど、魅琴は馬鹿にされたと感じたのだろう。
顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「あなたに勝つために決まってるでしょう!」
叩きつけるように言うと魅琴はふん!と顔を背け私の先を飛び始めた。
が、やっぱり箒は右へ左へとふらふらしている。
山間の風に翻弄されているのだ。
山間飛行の基本である体幹がそもそも鍛えられていないんだから当然だ。それもわからないのにこっちに来るなんて本当に無謀すぎる。
放っておいて先に行っても良いんだけど周りを見回しても他の魔女の姿はどうにも遠い。
ゴールしてからなんかあったと聞くのもさすがに後味悪いし、なによりサバト終了まで光岳まで魅琴が辿り着いてないとかなったら探すのに運営だけでは手が足りないからと参加者は手伝わされる可能性が高い。
そうなると翌日の観光なんて予定はあっさりと吹き飛ぶ。
となればなんとしても魅琴を光岳までは辿り着かせなければ。
そんなことを考えていた瞬間だった。
「キャーッ!」
短い悲鳴を残し魅琴の体は宙を舞っていた。
山にありがちな予告なしの突風に体を持って行かれたのだ。
「まずい!!」
ヤバイヤバイと体を箒に引っ付けるように低くし、スピードを上げ弾丸のように飛んで行く。
これやると魔力ごそっと減るからやりたくないんだよ!
でもそんなこと言ってる場合じゃない。
魅琴の手から箒は完全に離れていてこのままじゃ成す術なく落下してしまう。
魔女の体は一般人に比べたら丈夫ではあるがこの高度で山中落下はさすがに無事では済まない。
「魅琴!!」
短距離ダッシュ飛行で近づきながら叫ぶように名前を呼ぶと、魅琴は停止していた意識がはっきりしていたのだろう、私へと目を向けた。
視線があったことにヨシ!と心の中で頷き手を差し伸べる。
考えてる暇などなかったのだろう。私の手を見て魅琴も咄嗟に手を上へと向け伸ばしてくれた。
ガシッと手首を掴んでスピードを緩める。
「箒、持って!」
言いながら掴んだ手首を引き上げた瞬間だった。
魅琴が小さく叫んだ。
「え?」
見れば私が掴んだ手のほうの肩がなにか不自然な感じに……。
ああ!ヤバイ!焦りすぎて脱臼させちゃった!!
うわーうわーどうしよう。これめっちゃ痛い。
とりまどっかに着地しないと、と周囲を見回すとうっそうと生い茂る木々のなかに隙間があるのが見えた。
「魅琴!ごめん!!」
緊急事態だ、許してくれと脱臼したままの魅琴をぶら下げてその隙間へと飛び込んだ。
下からは言葉にはならない叫び声のようなものが聞こえて来て正直申し訳なかった。
緊急着地したその場所はどうやら山での作業場だったらしく小さな小屋がある広場のようなところだった。
着地は魅琴に負担をかけないようにゆっくりと。けどやっぱり色々と乱暴にしすぎたようで魅琴は脂汗を浮かべながらなにも言えずぐったりとしていた。
「ごめんね!とりあえず肩治すからこれ飲んで!」
ぺたんと地面に座り込んだまま虚ろな目で見上げてくる魅琴の口の中へ、歌藤印の鎮痛剤を一錠押し込む。
喉を鳴らしてなんとか飲み込んだ魅琴の表情がすぐにマシなものに変わる。
それを確認してからもう一錠取り出し、
「これ私は合図したら飲み込んで」
告げてからまた口の中へ入れ肩に手をかける。
魅琴の顔が若干おびえた感じだが諦めてくれとしか言いようがない。
そう、お察しの通り私はこういった治療経験が乏しい。
一応箒乗り始めの頃に空での事故に備えてって、母に強制的に魔女組合主催の講習会に行かされたので知識と若干の経験はある。
まぁうちの家系は魔法薬扱うだけに人体の構造も触れただけで大体理解出来ちゃうから変な風に戻すことはないからそれだけは安心して欲しい。
ただ……痛みをかけずに治す方法を知らないだけだから。
「じゃあ行くよ。はい!」
かけ声にあわせ魅琴が飲み込むタイミングで肩を嵌めた。
案の定、魅琴は一瞬鬼の形相のようになった。けどすぐに痛みはなくなったんだからそんな睨まないで欲しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます