第5話 お空はつづくよどこまでも
一斉に飛び立った魔女の群れは15分もするうちにばらけて夜空の点々になった。
今回のスタート地点である東京は、ビルなどの人口建造物をのぞけば遮るもののない飛びやすい空。
この先の山越えを苦手とする魔女なんかはここで時間を稼いでおこうとスタートダッシュを決めていた。
私はこの日のために母に地元の山で連日トレーニングさせられていたので徐々にスピードを上げていく作戦だ。なので今は空全体に散らばった列の真ん中やや後ろ気味を飛んでいる。
あともうちょっとすれば山越えに自信のない魔女は左手、海側ルートへと向かうだろう。記録重視と山越えが得意な魔女は右の日本アルプス添いほぼ直進ルートへ。
私はもちろん右側だ。
夜じゃなかったらそろそろ見えてくる富士山を写メって英里に送るんだけど、撮ってもたぶん私のスマホではよくわからんナニカになりそうだ。
黙々と飛び続けてそろそろルート分岐点かな、と思ったところで斜め前を飛んでたよっぴーさんがハンドサインで『グッドラック!』と告げてきた。
カメラ片手に持つよっぴーさんは安全策の海側へ行くようだ。元々山は少し苦手と言ってたからその方がいいと思う。
本人も撮れ高的にはアルプスも捨て難いと言ってたけどそれでカメラ壊れたら元も子もないもんね。
「そちらも気をつけて!」
聞こえないとわかりつつ声を出し、大きく手を振って応えながらよっぴーさんとはそこでお別れした。
私が順調に飛べればこの先はよっぴーさんは私の後ろから飛んでくることになるから合流することは多分ないだろう。
今回山越えを選んだのは四割くらいで先頭はもう富士山の横を抜けようとしているのが小さな点として見えた。
すご、と呟きながら視線を手前に戻すと手を振りながら近づいてくる人影が見えた。
「魔麻ちゃ〜ん!良いところに!」
そう言ってすぐそばまで
どうやら今回の大会衣装の色分けはピンクが魔法薬、ブルーが浮遊・飛翔系、グリーンが生産職、イエローが
声をかけてきた魔女、
「杏子さん、どうしたんですか?」
「申し訳ないんだけど栄養剤とか余ってたら分けて貰えないかな?間違えてコレ持って来ちゃって」
しょぼん顔で杏子さんが見せて来たのは歌藤家特製のどんな痛みにも効く鎮痛剤。
まぁあらゆるトラブルに対処するという意味ではこれも持ってて悪いものじゃないけど、途中休憩なし、しかも山越えをするのに栄養剤と間違えて持って来たというのは痛恨のミスすぎる。
「いいですよ〜私持ってるのブロックバータイプの堅焼きクッキーですけど大丈夫ですか?」
最初のひと噛みは根性いるがザックザクの触感とメープル味が癖になる母特製!私は携行栄養食の中ではこれが一番好きなのだ。
でも人によっては喉が渇くというのもあって一応確認のため問いかけてみた。
「いい、いい!全然!っていうかもうなんでも有り難い!!」
ではではと、六袋持ってたうちの二袋を手渡す。一袋四本入りだからゴールまではギリかもしれないけど、こっちも足切りにだけは間に合いたいので途中のダッシュ考えるとこれ以上は減らせないのだ。
「二袋だけですが……」
「いやもう!ほんっとうに助かります!!」
私を拝みながら杏子さんは袋をしっかり受け取り箒にとりつけたホルダーにしまった。
「これ、代わりにってわけじゃないけど良かったら持って行って!多分役に立つから!」
そう言って渡されたのはさっき見せてくれた間違って持って来たという鎮痛剤。
え、待って。待って杏子さん!
「ちょ、それって……!」
私が問いかけるよりも早く、杏子さんは加速してアルプスの風になって行ってしまった。
杏子さん……あなた占い得意でしたよね?
これ、なんかのフラグか?
勘弁してくれ。
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