第4話 スタート!

「えーでは続きましてルール説明を行います」

 

 長い長い婆ちゃまによる笑ってはいけない耐久レースが終わり、運営から改めてのルール説明がある。

 特に改訂されたところはないらしく、いつも通りドーピングあり、代理飛行即失格、長野の光岳まで三時間以内に辿り着けなければ足切りでやっぱり失格。ちなみに私は母から足切りにあったら即帰宅を命じられてて貰ったお金も返さなきゃなので最低そのラインはクリアしなければならないのだ!

 逆を言えば光岳までは全力で頑張ってあとは余力でゴールまで向かえば良いということ。

 とはいえ、ゴールも飛行機の運行が始まる時間までに着かなければ途中リタイアにされてしまうので平均時速70キロくらいで飛ばないと結構ギリだ。

 先頭の連中は時速100キロあたり前で飛ぶんだから信じらんないわ。恐るべき魔力と筋力!

 だからこそ翔は私の倍以上のご飯食べるのにあんなに細く……っ!

 う、うらやましくなんか……あるけど!私はそのうち頑張ってリバウンドしない健康にもいいダイエット薬作るから!

 それをいうと母は、

 

「夢を高く持つのは悪いことじゃないわよ。それ本当に出来たら一生遊んで暮らせるだろうし」

 

 と一見応援する言葉を口にしながら鼻で笑ってた。

 そりゃそんなのが簡単に作れるのなら今頃母や他の魔法薬作ってる魔女が大々的に売り出してるよね。知ってる。でも人は夢見る生物なんだよ。魔女だけど。

 そんなことを考えている間にルール説明も終わり、前方から順々にグラスが配られていく。いよいよスタートだ。

 

「皆さん手元にグラスは行き渡りましたか?では」

 

 大会委員長がかけ声と共に杖を振ると手にしたグラスに葡萄ジュースが満たされていく。これもねぇ、昔はワインだったんだって。一応こだわりとしてワイン用の葡萄を使って作られたジュースらしいんだけど。

 日本国憲法では飲酒運転は自転車であっても禁止されてるからね。箒もまたしかりというわけ。

 だもんでサバト参加している成人年齢の魔女なんかはゴールしてからの打ち上げが本番、箒マラソンは酒を美味しく飲むための準備運動と言って憚らない。

 むろん私の横でカメラ片手にグラスを掲げるよっぴーさんはその筆頭だ。

 

「我ら同志と素晴らしき夜に、乾杯!」

「かんぱーい!」

 

 ごくごくっぷっはー!

 

 一気に飲み切り、グラスをパッと手放す。

 大会委員長が同じようにグラスを手放し、地面に触れグラスが砕け散ったその瞬間、マラソン大会はスタートした。

 

 正直このわかりにくいスタートはどうかと思うが伝統を多少なりとも残さないと、ということらしい。

 昔はグラス割ったりせず乾杯の後は無礼講の宴だったらしいのでもう全然違うじゃんと言いたいが様式美が大切らしい。

 そんなわけで、次々と出発して行く箒の群れのひとつになりながら私は心の中で手を合わせる。

 運営者の皆様、グラスの後片づけご苦労様です。

 これがあるから皆運営サイドに入りたがらないんだよなぁ。

 私が万が一運営に携わることになったら絶対にグラスはプラスチックに替えてやる。

 いや、それよりマラソン大会を廃止すべきか?

 でも新しい催し考えるのも面倒だよなぁ。

 なんてことを考えながら高く高くと飛んで行く。

 ま、とりあえずは完飛かんひ頑張ってくか!

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