第3話 年寄りの話は長い

 さて、スタート前の来賓によるスピーチです。

 前年度の成績順に並ばされたままお偉方の話を聞かされているんだけど……。

 なんだこれ!笑ってはいけない魔女耐久レースだったか?!

 いま話をしているのは大会理事の、魔女界でも古老とよばれる眉間に立て皺を数十年刻んで来たような厳格を体現したようなおばあさま魔女なのだが……。

 だ、誰だ!理事にまで大会衣装着せたやつ!!

 おかげで笑っちゃいけないのに会場中に目に見えない草原が見える。

 きっと皆心のなかでwの大草原作り上げてる!

 かくいう私も笑うの堪えすぎて頬と腹が痛い。

 肩が小刻みに揺れてるのは寒さ故ということにしといてくれ。いま春だけど。ほんちゃんサバトは夏至に開かれるのでマラソン大会本戦に向けた予選大会は春に開かれる。予選は別に日付が決められているわけではないけど色々な地域から来ている皆の都合を考えていつも大体土曜日の夜に開かれる。

 おかげでマラソン完飛かんひ後にまた箒に乗って家に帰るなんて過酷なことはせずに一日ゴール近辺で遊んで夜行バスで帰ることが出来る。

 明日は大阪に遊びに行こうかなぁとか思ってる。ゴールが岡山辺りだから朝ご飯に香川でうどん食べてからの大阪観光イエーイ!な計画だ。

 お母さんからも某チーズケーキ買ってきてとお土産代という名の帰りの交通費込み込みのおさつを頂いてきた。

 

 閑話休題。

 

 そんな思考を横に反らさなければ危険な会場でさっきから我慢もせず口元を歪め小声ではあるが笑ってる完全アウトー!なお姉様はおそらく現魔女界で一般人に一番有名な人。魔女あるあるをネタに動画配信者をやってる『酔っぱらい魔女よっびー』さんだ。

 

「ちょっとよっぴーさん、そろそろこらえてくださいよ。巻き添えでケツバットはごめんですからね」

「くっふふっ!トドメ刺しにんといてぇや!笑ってまうやん」

 

 関西ご出身のよっぴーさん。もう何年も東京住みのはずなのに相変わらずの関西弁だ。

 配信者として個性の一環で標準語をわざと使ってないとか言ってたけど、前に同年の魔女に「じゃあ標準語しゃべってみて」とふられて「私だって標準語ぐらい喋れますのよ?」と怪しげなお嬢様言葉になっていたのを私は偶然聞いて知っている。

 

「いやぁそれにしても最高やわ!今回の運営者、あの婆ちゃんの孫なんやけど、知ってた?あいつ婆ちゃんに着せるためにこの服選んだんやって」

「えぇ……それはあまりな性癖」

 

 同じ魔女ながら大丈夫か?と心配するレベル。

 どん引きした私によっぴーさんは「ちゃうちゃう」と手を振る。

 

「あいつあの真面目で堅っ苦しい家のなかではアウトローな方なんよ。まぁちっちゃい頃からあの婆ちゃんに、なにかっちゃぁやり玉にあげられて、ようはしっかりせぇって説教ばっかりだったんだって。んで数年前にも30歳超えても結婚もせずふらふらしてアニメばっかり見てて恥ずかしくないのかって言われてカッチーン!きたんやって。そんで復讐してやる!ってアホなこと考えて婆ちゃんに絶対似合わない格好させて笑ったるぅってわざわざ面倒くさい大会運営に手ぇあげて自分のハマってる魔法少女アニメの衣装を大会衣装に採用したらしいわ」

 

 あっほやろう?と言われて頷くしかなかった。やっぱり運営は馬鹿だった。だが嫌いじゃないその根性。

 

「そんなわけで今回は動画生配信してもええちゅう許可貰えたんや」

 

 言いながらよっぴーさんは愛用のカメラを掲げた。

 

「あ、すみません。私プライヴェート顔出しNGなんで事務所通してもらっていいですか」


 思わず向けられたカメラに手をかざしながら鉄板ネタを披露するとよっぴーさんはナイスリアクション!と笑いながらカメラのレンズを前方へ向け「大丈夫!」と言った。

 

「その辺は運営にも言われとるから私以外の映り込んだ人の顔は全部うちの使い魔ピヨちゃんの顔になるよう細工済みやで」

 

 ピヨちゃんというと動画で下手したらよっぴーさん単独より再生数を稼いでくれるというエミューのことですね。

 エミューの顔した魔法少女……え、大丈夫?魔女界の評判落ちない?魔女ってやっぱ脳みそ湧いてんなとか言われない?あ、今更か。

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