第2話 幼馴染み集合

 大会本部前は笑い声と怒鳴り声が入り交じる生き地獄だった。

 

「ぎゃははははーー!!ぐ、ごふっ、ぐふふ、あーはっはっは」

 

 かくいう私も腹を抱えて笑っていた。

 というのも目の前には私が着ているものと色違いのフリルとリボンが緑色の魔法少女衣装を身につけた筋骨隆々の幼馴染みが居たからだ。

 ちなみにその子はマッチョな女子じゃない。男子だ。

 最初にウィッチという言葉を魔女と訳した翻訳者が居たせいで誤解され、日本では魔女は女性だけだと思われているが魔女ウィッチには男も含まれる。

 幼馴染みはマンドラゴラ農園の跡継ぎということもあり、日常生活で鍛えられた筋肉が可愛らしい魔法少女衣装から状態だ。これを見て笑わずにいられようか。

 笑いすぎで腸がねじ切れそうだ。

 あー最高!大会運営者、家での発言は取り消すわ。お前ら天才!


「ひー!たまらんwwww SNSにあげるときはモザイクかけるから写真撮らせて!」

「アホか!んな危険発言するやつに撮らせる馬鹿かいないだろ!てか笑いすぎだ!!」


 顔を真っ赤にして怒る亜留斗アルトには申し訳ないがこれは一生笑える鉄板のネタだ。

 必死の思いでスマホを取り出すが画面が震えて写真が撮れない。

 あ、しまった。笑い過ぎで息詰まらせてゲホゲホやってる間にスマホ取り上げられた。


「ちょ、ふふ、か、返し、ぐふっ」


 睨みつけてくる表情がまたフリフリ衣装と合ってなくて無限に笑える。

 そんなことを思いながら咳き込みつつ笑っていたら遠慮がちに声をかけられた。

 

「亜瑠斗くん、魔麻ちゃん久しぶり」

 

 懐かしい声に顔をあげるとそこにはアニメから飛び出してきたようなキラキラ可憐な魔法少女がいた。

 思わず笑いがスンと引っ込む。

 というのも彼もまた男の魔女だからだ。

 亜瑠斗は似合わない故に思いっきり笑えたが美少女こと幼馴染みの翔が相手では笑うことなんて出来ない。だって私より似合ってんだもん。

 え、マジか。私より腰細くないか?

 思わずガシッと両手で腰を掴んでしまう。

 

「え、ちょ、ちょっと魔麻ちゃん?!」

 

 高くもなく低くもないイケメンパウダー含有の声が戸惑いを伝えてくるがちょっと待ってくれ、いま計測中だから。

 

「マジか……!」

 

 マジで私より細かった!

 身長は私よりも少しだけど高い。ということを考えるとどう考えても翔の体重は私よりも軽いということか?

 

「え、大丈夫?翔内蔵と脂肪入ってる?生きてる?」

「大げさだな。ちょっと今日のために体絞ってきただけだよ」

 

 その台詞に思い出す。そうだった。翔の家系は浮遊魔法のスペシャリスト。この魔法の箒マラソン大会レコードも持つガチ勢だった。

 確かにこの感触は骨と皮というより筋肉。

 改めて腰回りをもみもみしてると「あぁら皆様」と聞きたくもなかった声が聞こえて来た。

 

で集まってどうなさったの?」

 

 鼻にかかる高慢ちきなこの喋り方は姿を見て確認するまでもない高見沢 魅琴みこと

 何故か昔から事あるごとに私に嫌味ったらしく絡んでくる日本魔女界屈指のお嬢様だ。

 魅了魔法に優れた家系で、その力を使って代々時の権力者に取り入って家を大きくしてきたとか……。

 本当か嘘かはわからないがあの傾国の九尾の狐、玉藻前たまものまえのモデルになった人物が先祖に居るとかなんとか。

 まぁつまりド庶民な我が家とは対極な人物なわけだけど、なら関わらんといてくれと私は思ってスルーしてるのに毎回毎回向こうから突進してくる。

 母親同士は別段仲が悪いわけではないようなので家同士の確執があるわけでもなさそうなのに未だに突っかかってくる理由がわかんなくてモヤモヤするんだよ。

 で、今回も出会い頭失礼発言をぶちかましてくれたわけだが。

 

「あ、魅琴ちゃん久しぶり。男三人じゃなくて魔麻ちゃんもいるんだよ」

 

 私と魅琴が険悪だということをわかっている翔がすかさずフォローを入れてくれるが、

 

「あら、ごめんなさい。とっても立派な僧帽筋が見えたからてっきり男性かと」

 

 魅琴は全然申し訳なくなんて思ってもいないという口調でふっと鼻で笑いながら言ってきた。

 わーるかったな!母の手伝いでカヌーのオールみたいなでっかい木べらで大釜の撹拌させられてんだ!そりゃ肩の筋肉鍛えられるわよ。おうおう入学早々ソフトボール部からピッチャーにと勧誘受けた私の肩になにか文句があんのか?!魔法薬屋の娘舐めんなよ!!

 

「あはははー!そんなつけまつげバチバチにしてるから視野が狭くなってんじゃないの?」

 

 心の声は口にせず、笑顔満開で当たり障りのない言葉で返す。当たり障りないんだよ!私の中では!!

 私は翔のように大人の対応なんて無理ー!短気で結構コケコッコー。

 魅琴の手の中にある箒の柄がみしりと音を立てた気がするが、きっと気のせいだ。

 

「あーもうお前ら……ほんっと相変わらずだな。ところで受付はもう済ませたのか?締め切りまであと10分だぞ」

「マジでか?!」

 

 亜留斗の声に私は受付にダッシュした。

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