#24 もったいないよねー。

 結局、現場捜査はその日だけでは終了出来なかった。と言うより、夜に突入するも、継続中。

 まあ、当然と言えば当然の結果ではあったのだが。何せ、現場がかなり広い上に、建物は悉く燃え尽き、被害者は全てワイバーンのお腹の中。冒険者と衛兵総出でワイバーンを解体し、お腹の中身を引きずり出して仕分けを開始した頃には、既に夕闇が迫ってきていた。現在、かがり火をたいて、絶賛仕分け続行中である。


 因みに、エイミがお昼と夕飯の準備をしたのだが、解体に掛かる前だった昼は大盛況だった食事も、解体し、色々と引きずり出した後は、食欲不振者続出となっていた。一部を除いて。

 一部というのは、解体作業に参加していないエイミ達三名、プラス、ミリエラストラトリス、及び、参加者の中では隊長と、衛兵のベテラン部隊長一名、同班長、二名。


 マイク職員は若干顔色が悪いのを除き、他七名は表面上変化はなかった。衛兵四名は、流石にベテラン揃いで、規模には違いはあれど、このような壮絶な光景にも慣れていた。

 では、エイミは?と言えば、やはり彼女も長い人生経験の中、もっと酷い状況に巡り会う事も何度かあり、結構耐性が有るのだった。

 ルーとミリエラストラトリスに至っては、さらに数倍に及ぶ人生の経験者で有る事から、顔色を変えて…と言う程柔な神経は、既に過去に置き去りである。

 但し、七名が、無神経という訳では、決して無い。被害に遭ったのが盗賊団で、若い女性や子供を捕らえて売り飛ばそうとしていたりという事実がある為、因果応報という意識が強くて、同情する気が無いだけである。

 そして、慣れていない一部冒険者は、数名がテントの中で震えている。


 現在、エイミも既に、ミリエラストラトリスへの文句も苦情も吐き出し尽くしたか、大人しく待機中である。お昼の用意を開始する頃には、めっきり大人しくなっていた。有り体に言って、拗ねるのに飽きた。とも言う。

 決して、只現場を眺めている訳でも無い。水分補給用の飲料を用意したり、食欲が無いとは言ってもエネルギー補給は必要であるから、軽食のような口にしやすいものを用意したり、希望があれば精神耐性を上昇させる魔法を使ったり、とサポート活動に努めている。

 実は、見た目では、只見学中に見えるルーですら、集落を覆う壁の外から侵入しようとする魔物などが寄って来ていないかを索敵し、場合によっては撃退している。ほぼ全く動いているようには見えないだけで。専ら、上空から近付くものを主体に魔術で攻撃して消し去っていた。ひっそりと。


 深夜近くになって、解体が終了、大量の各種パーツが山積みとなった。

 精神的にも、肉体的にも、疲労がピークに達した衛兵達。これ以上作業続行は無理と判断し、今日の作業は終了する事になった。

 エイミの《ボディウオッシュ》で、全員をさっぱりと綺麗にした後、軽く精神強化の魔法を掛けた上で程々の食事をさせ、用意したテントへと押し込んだ。衛兵達が用意したものと、エイミの死蔵品を使っており、一人当たりの専有面積は格段に上昇している。それなりにゆっくり出来るであろう。


 夜間の警戒は、ルーとミリエラストラトリスが受け持った。エイミは仮眠。何かあれば、即応する。尤も、エイミ本人は、ルーとミリエラストラトリスが居て、自分が必要になるような事態は有り得ないだろうなーと、安心しきって爆睡する予定満々で居る。

 そして、マイクや隊長以下、衛兵の幹部も休ませた。

 解体作業を手伝っていないから。と言うのを前面に押し出して。精神ケアやら食事の手配やら、十二分に手助けとなっているはずなのだが。

 なにげに、お人好しな三人であった。


 上空を、いくらかの飛行する魔物が横切ったりはしたものの、過剰戦力が警戒をしているのだから当然の事として、問題になる騒ぎも起こらずに翌朝を迎える。


 日が昇る頃に起き出したエイミが、皆の朝食を纏めて用意する。

 使用している食材は、エイミのインベントリの中から提供されたもの。衛兵や冒険者が持って来た食材は、一般的な兵糧だったり、携帯食だったため、美味しくないと却下された。

 尤も、エイミの持つ、カンストした調理スキルを持ってすれば、問題なく調理できるはずではあるのだが、余計な手間や時間が掛かってしまうため、それなら自分の在庫から、生の儘で保有している食材を提供した方が手っ取り早かっただけのことではある。

 こだわる一方で、余計に掛かってしまう手間や苦労は惜しむのがエイミの標準クオリティだった。


 食事が終われば、一部、メンタル的に不適当な者を除いてパズル大会が開催される。ひたすら精神を削られる作業である。

 尤も、特徴的なパーツが多かったり、ほとんどが丸呑み状態で部品分けされていなかったりしたことも有り、お昼を迎える頃にはほとんど片が付いていた。

 担当した者は皆、顔色が最悪ではあったのだが。

 そんな担当者に向けて、ルーが精神を強化し、安定させる魔法を放つ一方で、相変わらずなエイミが昼食を準備していた。


 幾分落ち着いた作業者達をエイミが綺麗にし、昼食となる。

 その後、鑑定魔法を使える衛兵隊員総出で確認作業。

 エイミやルーも参加しようかと申し出たものの、衛兵隊の仕事であり、部外者への依頼は禁止なのが規則だから、と言って隊長から固辞された。

 調査結果を纏めてみれば、やはり、予想通り、割と有名な盗賊団の幹部メンバーがほぼ全員確認できていた。

 パーツは、全部で百三十三人分。想定されている盗賊団の総数に二十名ほど足りないが、おそらくは、何かしらの仕事に出掛けて難を逃れたのであろうと推測される。


 因みに、各パーツが誰のもので、その人物がどういった素性なのか、に付いては、魔法で簡単に判明している。鑑定魔法を掛ければ一発だ。生物に対しての鑑定は、その対象の魔法耐性に応じて鑑定魔法の習熟度が必要になるのであるが、生命活動が停止してしまえば、魔法を使えるようになったばかりの初心者であっても詳しく解析出来る。魔法に対する耐性が消滅するので、当然の結果ではある。

 結果、三人分の奴隷、おそらくは雑用係以外は全て盗賊団のメンバーで有る事が確認出来ている。


 又、当分の間は、残された盗賊団メンバーが戻ってくる可能性を考えて、それなりの規模で駐留する兵士を手配するのだそうだ。これは、衛兵では無く、領兵団が担当するとのこと。


 後は、焼け跡から回収できる物を回収し、崖に掘られた倉庫の確認をすれば、衛兵達は開放されるらしい。

 街の警護が主な仕事である彼らを、長期間拘束できないのは言うまでもない事で、長引きそうで有れば、領兵と早々に入れ替える予定であったという。移動の準備をして待機を命じられているはずなので、街に戻れば直ぐに交代できるとの事だった。


 そして、一連の検証と確認作業は、食後の小休止を終えた後、日が沈む前には終了したのだった。


 魔法とは、初級レベルの場合、何かと制約があるものの、効力が発揮できる場面に置いては、大変便利なものである。習得できる者が少ない事が惜しまれる能力である。

 因みに、鑑定魔法を行使したのは、衛兵の部隊長と班長の三名、及び、捜査担当の一般兵が四名。魔術師や魔法師などの職に就いていない事からも判る通り、攻撃などが出来る程魔力を持つ者は居ない為、確認が終わった時には、すっかり魔力を枯渇させてしまって動けなくなっていた。


 そんな訳もあって、もう一泊して一夜明けた翌朝。朝食を摂り終えた現在、エイミは大量のゴミを、大きな穴を掘ったその中で焼却していた。

 言うまでもなく、立体ジグソーパズルとなった盗賊団のパーツとか、ワイバーンの素材にならない部位とか、燃え残った小屋の破片とかである。要するに、出発前の後片付けである。


「ワイバーンのお肉。燃やしちゃって良かったんだよ?」

「もったいないよねー。でもさ、汚染されちゃっていそうで食べる気しないんだもん」

 指を咥えたルーの問い掛けに、非常に残念そうな表情を見せた後、忌々しそうに燃え尽きる直前のパズルのピースに視線を送るエイミ。

「納得したんだよ」

 腕を組んで、大きく頷くルーである。


 言っている事は判らないでは無いが、二人とも大概酷い。

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