#23 逃がさん!!
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「古くなったテント、捨てるのも面倒だからインベントリの肥やしになってたけど、初めて役に立ったよ」
そうぼやきながら大量のスープ…? シチューか? 野菜や肉を大量に煮込んだ何かを作っているエイミ。スキルの手助けを受けている以上、味に間違いはないであろう。
現在、既に日が落ちている。火災は全て鎮火していた。燃え尽きたとも言う。ワイバーン他、色々な残骸と、焼け跡の彼是は全て、エイミのインベントリに入っている。周辺を囲っている壁の内側全てが地表から三十センチ程の地面毎。
そして、真っ平らになった直径五百メートル程の空き地の真ん中に、焚き火を囲んで多数のテントが建てられていた。
三人で周辺の調査を行った結果、生存者が発見されたのだった。
エルフ、獣人、ドワーフ、只人、竜人等の若い女性と子供。多数。攫われて、牢に閉じ込められていたのだ。
集落の一端が、急峻な崖に接しており、其処に横穴を掘り、倉庫と監禁用の牢を作って有って、捕らえられた被害者は皆此所に押し込められていた。結果、逆に、ワイバーンの脅威から逃れる事が出来たようである。
そう。此の集落、結構大規模な盗賊団の隠れ集落だった。
更に、ワイバーンの討伐を依頼した最寄りの集落は、倉庫を掘った崖に続く、高さ二百メートル程の山の反対側、山裾をぐるりと歩いてほぼ一日の所にある村だった。最近、山頂付近を巨大な鳥のようなモノが飛んでいる光景がよく見られ、恐怖を感じた村から出された依頼だった。こんな所に盗賊団の根城が存在するなど、当然知るよしもなかった模様。
捕らえられていた人の中に、その村の娘が居た為あっさり判明した実情である。
盗賊団の生き残りは無し。
まあ、オシゴトに出掛けていて難を逃れたモノが居なかった訳でもないとは思われるものの、此の地に止まっていた者は全滅していた。周囲を囲んだ頑丈な壁が災いした模様。空からの襲撃を想定していなかったのが敗因のようである。
食事を終え、囚われていた人たちが寝静まった夜半。夜警用の焚き火に当たりながらルー、エイミ、マイクの三人が話し合っていた。
「一番近いそこそこの規模な街って、ソルトルだよね?」
「ですね。ソルトルの領主様に報告ですねぇ」
「ミリエラちゃん引っ張ってきて任せちゃえば良いんじゃないの? なんだよ」
「「名案だ(です)ね!」」
丸投げする事が決定した模様。被害者である、ミリエラストラトリスに合掌。
その後、夜間の警戒は、十日や二十日、寝なくても平気。と言うルーに任せて就寝したエイミとマイク。
翌朝、エイミが朝食を準備する間に転移でミリエラストラトリスを連れてきたルー。そして、状況を把握すると同時に、大地に両膝、両手の平をぺったりと付けて蹲るミリエラストラトリスが出来上がったのだった。
先ずは、被害者達を、事情を聞く必要もある為に一度ソルトルの街へ移動する事となり、始めに、ルーとミリエラストラトリスが、ソルトルの街へ移送する人たちを連れて転移。
その後、被害者の滞在場所を手配して、領主に事情を説明し、嶺兵を連れて戻ってくる事に。
その間に、エイミがインベントリに収納した瓦礫やワイバーン他の彼是を、元の位置に取り出して確認作業が出来るように修復する。
「ありゃ? ちょっとズレちゃったよ。やり直す?」
「あー。良いんじゃないですか? 十センチ位ですし」
と言った、エイミとマイクの会話があった事は内緒にしておこう。
それにしても、此の賢者。大変に使い勝手が良く、便利である。色々と…
自分たちの役割を果たしたエイミとマイクが待つ事しばし。始めに、マイクとルーが通り抜けた側の門外から、大勢の人が近づいてくる気配が近づいてきた。
気を利かせたエイミが門を開ければ、ルーとミリエラストラトリス、十五名程の冒険者達と同数位の衛兵が到着したところであった。
「うぉ?」
ミリエラストラトリスから、変な声が出た。その視線は、門の内側へと固定されている。
何かあっただろうか? と、エイミが門の中、集落の残骸へとふり返るが、さして驚くべきものは無いように思えた。暫く考えて、そう言えば、此の光景をミリエラストラトリスが目にするのは、初めてだったな。と思い出す。
今朝方、強制的に拉致してきた際には、被害者達の精神的な苦痛軽減の為、全てを一時保管していた光景しか見せていなかったと気付いたのだ。
「原状復帰しておいたよ。ミリエラちゃん。犯人はあそこで首が泣き別れちゃったワイバーン」
そう言って、寝こけていたところをルーにあっさりとギロチン処理されたワイバーンの死骸を指差すエイミ。
「あたし達がしたのは、ワイバーンの討伐と捉えられてた人たちの救出だけ。後は元のまんまだから宜しくね?」
そう言いながら、ルーとマイクを促して、門から出て行こうとするエイミ。そして、そうはさせるか! と、エイミのローブを掴んで引き戻そうと踏ん張るミリエラストラトリス。
「其れで帰れる訳ないだろ!? 付き合え! 逃がさん!!」
「えー!? 良いじゃん、離してよ。あたし達が居たって何にも変わんないよ!」
「変わるわ! 専らわたしの心の安寧が!!」
大声で騒ぎ合うミリエラストラトリスとエイミだった。
結局、言い争いに負けたのはエイミだった。
現在、ブツブツと文句や苦情を垂れ流しつつ、捜査本部として建てられた天幕の中で、ミリエラストラトリスやルー、マイクと共に椅子に座って、専ら言葉であだけて居る。
まあ、不機嫌極まりないのはエイミだけである。マイクはギルド職員として、其の儘帰る訳にも行かないだろうなと覚悟は終了していたし、ルーは、ほけーっと作業を眺めている。様に見える。と言うか、その様にしか見えない。ちっこい身体の子供にしか見えないルーとミリエラストラトリスは、専ら癒し担当で良いのかもしれない。本人の心情は知らないが。
調査の責任者は、衛兵の隊長で、貴族籍の壮年の男性だった。本来は、かなりの地位と権力を持つはずではあるのだが、ルーとミリエラストラトリスの正体を聞かされた上、一部で大層有名な《炎獄の魔女》であるエイミを紹介されて以降、めっきりと萎縮してしまっている。
まあ、ミリエラストラトリスに関しては、元々自分の街のギルド支部長であるから、有る程度の正体は知っていたようではあるが、十三神に比肩する神族というのは初耳だった模様。ルーの説明をする序でに暴露したらしい。色々と、面倒だったからとは、本人の談。
実は此の隊長。演劇や書物に著されて結構有名になっている《炎獄の魔女》の大ファンだったりするのだが、実際に目にした現物とのギャップに驚いて、すっかりと意気消沈していたりもする。まあ、物語の中では大層格好良く活躍しているのだから、そんなイメージが固まってしまっていても無理はない。何より、百年以上前の伝説の人物だったはずなので。
美人であるのは確かで有った。しかし、性格的に、こう、なんというか、別人だった。更に強さに至っては、ワイバーンを雑魚扱いしている事からも、大概である。物語の中ですら、苦戦していたはずだったのに。
苦戦し、追い込まれ、機転を利かせて運を味方に打ち倒す。と言うのがお定まりのパターンであった筈である。決して接敵するまでもなく、遠距離から一撃で墜としたりしてはいけないのだ。若しくは、会敵した瞬間に叩き潰すものでも無い。ストーリーの都合というものもあるけれど。
なんというか、イメージも憧れも何もかもが音を立てて崩れ去っていくのだ。ガラガラと、どころでは無い大音響と共に。
哀れな被害者に、そっと合掌しておこう。
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