#25 あ~。すっきりした!

 エイミの大火力であっさりと灰になった穴の中の彼是を其の儘に、穴を埋め戻し、ソルトルの街へと帰還する。

 現場へと衛兵達を連れてくる際には、現場が何処かを確認する為に、星降りの湖まで転移して、そこから徒歩で移動したのだが、帰りは直接街の入り口へと移動する。

 ルーの転移魔法で、全員を一度に運んでしまえば、衛兵の隊長が、直ぐに領主の元へと連絡に走る。


 残ったメンバーは、一度衛兵の本部へと移動して、押収してきた彼是を、所有者が分かるもの、そうでないもの、違法な物など、区分けしながら並べていく。

 重量物や大きな物はエイミがインベントリに入れてきたので当然、彼女とルー、責任者としてミリエラストラトリスも一緒に移動である。オマケ、と言う訳では無いが、マイク職員もそれに習う。その他の冒険者は此所で解散となった。翌日には、ギルドの受付で報酬が支払われる事になる。


 その後、領主邸から担当の役人がやって来て、衛兵本部の応接室で概要の説明を求められる。此には、ミリエラストラトリスとマイクが対応となった。


 エイミとルーは、最大の功労者であるはずだというのに、その外見からか、一瞥されただけで声を掛けられる事すら無かった。二人にとっては、絶賛、渡りに船の状態である。見た目、と言うのはとても大切だという良い実例と言えるかもしれない。どちらの意味で、とは明言しない事として…

 結果、此は楽ちん、とばかりに、そそくさとマイク、ミリエラストラトリス両名をを置き去りにして、さっさと衛兵の本部建物から退出する二人なのであった。恨みがましい視線を向ける、マイクとミリエラストラトリスの表情が印象的だった。


 マイクは職員である為ギルド職員の制服を着用しており当然として、又、ミリエラストラトリスは、長くこの街のギルド支部長であり、当然役人との面識もある、一番幼く見えようとも、逃れる術は無いのである。


 暫く、ソルトルの町中をぶらつき、目減りした食料品や消耗品を補填する。後は、宿を決めて二部屋を確保。冒険者ギルドにマイク宛の言付けを残し、とりあえず夕方まで休む事にして宿に引きこもるエイミとルー。

 確保した二部屋の内、一部屋はマイク用に空けておく。

 そして、身体を魔法で綺麗にしてからベッドに直行して、其の儘爆睡を開始した。



 ほぼ、三時間程寝て起き出せば、時刻は夕刻。日没の三十分程前で有る。

 夕飯までには未だ時間が有るので、もう少し街をぶらつこうかと、二人揃って宿を出る事に。

 受付で、外出すると声を掛ければ、冒険者ギルドに来て欲しいとの言づてを受け取る。

 了承してお礼を返し、ギルドへと足を向ける二人であった。


 到着するなり受付嬢に連行された支部長室には、執務机に伏せたまま動かないミリエラストラトリスと、応接用のソファーでぐったりとしているマイク職員がいた。

「失礼しましたー」

「した~」

 くるりと向きを反転し、其の儘フェードアウトしようと退出するエイミとルー。案内してきた受付嬢は、当然のごとく慌てて其れを阻止しようと進路を塞ぐ。

 そして、

「フェードアウト禁止!!」

 ガバッと起き上がって叫ぶミリエラストラトリス。

 ルーとエイミが慌てて走り出そうとした時には、いつの間に接近していたのか、二人の腰に両の腕を夫々巻き付けたマイク職員が低く響く。

「逃がしません」

 あえなく逃走に失敗したのであった。


 諦めたルーとエイミが応接セットへと腰を下ろす。対面にミリエラストラトリスが、入口側にはマイク職員が。

 そして、案内を務めた職員は、出入り口の扉前に陣取った。簡易な椅子を持って来て。


「悪いね、シャルディー。特別手当、弾むから」

「問題有りません」

 ミリエラストラトリスが案内を務めた受付嬢。シャルディーと言うらしい。に声を掛ければ、満面の笑みでうなずきを返す。

 多少のやっかい事など気にならない程度には、手当が良い物であるようだ。突然の臨時収入が大層嬉しい模様。


「じゃあ、残り二件分の依頼書、出して」

 そう切り出したミリエラストラトリスに、此は案外解放が早そうだ、と緊張を和らげるエイミ。素直に依頼書をテーブルへと取り出す。

 其れを手元に引き寄せたミリエラストラトリスが、にっこりと、極上の笑み・・・・・を貼り付けた・・・・・・能面・・の表情で宣った。

「其れじゃあ、報告した内容の確認から始めようか…」

 エイミとルーは、恐怖と緊張から、全身をプルプルと震わせながら、おとなしく頷く事しか出来なかった。つい今し方下した自分の判断の甘さを痛感しながら。


「あ~。すっきりした! じゃあ、此で依頼完了だね。ご苦労さん」

 その言葉と同時に、ようやく解放されるらしい。と、全身に入っていた力を、幾分緩めるエイミとルー。

 極上の笑みでサインを入れた依頼書を差し出してくるミリエラストラトリス。対するエイミは、すっかりと消耗しきってしまい、血の気の引いたその顔は、心底げっそりとした表情になっている。

 もちろん、隣のルーも同様だった。

 一方、マイク職員は、これまたすっきりとした上機嫌な表情を保っていた。顔色は悪かったが、此は慣れない仕事や余計な気苦労が続いた為だと思われる。

 そして、シャルディー職員は、椅子に座って扉に器用に寄りかかったまま眠っていた。幸せそうな寝顔であった。



 窓の外は、清々しい早朝の町並みが拡がっていた。


 そう。あの後、領主館の役人に対して行った説明の確認から始まって、其れがどれほど面倒な内容だったかへと話が変化し、その後、ソルトル支部を纏める苦労やら、外見から来るトラブルの悩みやら、統括本部長に就任していた時代のあれやこれやに飛び火して、当時の同僚に対する痛烈な恨み言やら掛けられた迷惑話、この支部の支部長に異動する切っ掛けやらその間の苦労話に最近の成績不調の愚痴やら嘆き、と、散々に聞かされ続けた挙げ句、ようやく依頼書にサインをしたのがつい先刻。


 その間、ずっとあの極上の笑みを貼り付けた能面な表情の儘で語り続けていた。

 実に十三時間を越えていた。


 溜め込んでいた物が一気に噴出したのは間違いないと思われる。

 極上の笑みに変わったのは、サインを入れ終わった瞬間であったのだ。すっかり吐き出せた模様。偶にはガス抜きは必要であると思われる。相手をする立場に立った者の感想はこの際考えない物とする。


 ようやく解放された二人と、ようやく肩の荷が下ろせた一人は目覚めたシャルディー職員の満面の笑顔に見送られ、昨夜泊まるはずだった宿へと移動し、一泊延長の手続きをした後、二部屋に別れて其の儘ベッドに突撃し、その日の夕暮れまで目覚める事は無かったのだった。

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