#21 神か!?

 意気揚々、出発したエイミ一行だが、数キロ程移動した後、ルーの転移魔法起動直後に馬車の車軸が折れてしまい、立ち往生をしていた。

 理由は、移動距離を稼ぐために、人気が無くなった当たりでルーの転移魔法で移動したまでは良かったのだが、出現した場所の海抜高度が千五百年の間に大分沈下していたらしく、地表から二メートル近く上空に出現してしまったためである。

 その場に止まる事は不可能であるため、当然の事として落下した訳で、その際に車軸が破損してしまったのだった。


 馬も一緒に落下しており、足を怪我したものの、生き物であるために治癒魔法が有効である。直ぐにルーが治療した。

 しかし、馬車のような非生物に治療魔法は無効である。さてどうしたものかと頭を抱えるルートエイミ。そんな二人を半眼になって眺めるマイク職員。

 やがて、

「昨日覚えたばかりの便利魔法は使わないんですか?」

 やれやれと言った表情で頭を左右に振りつつ溜息を溢し、エイミに問い掛ける。

「おぉ!! すっかり思考の圏外に飛び去ってたよ! 時間戻せば良いんじゃん!!」

「神か!? なんだよ!」

「いや、神様はあなたでしょうに…」

 と言う、エイミとルーの漫才が展開された後、無事修復を完了させる。


 仕切り直して、再出発である。

「今回は魔法で対処可能な状況でしたから良いのですが、逆に標高が高くなっていたり、数十メートル以上沈下していたりした場合どうされるおつもりで?」

 移動を再開早々に、落下による恐怖体験から、すっかり警戒してしまったマイク職員がルーに訊ねる。

「んー?? エイミ、どうしたら良いんだよ?」

 ルーには解決策を考えようという発想がそもそも無いらしく、其の儘エイミへと質問を丸投げした。

「一回ルーだけで転移して確認してくれば良いんじゃない? ルーなら、多少埋まったり落っこちたりしても平気でしょ?」

 聞かれたエイミが大して深く考えもせずに答える。当然のように、割と、いや、かなり大雑把な解決策では有った。

「了解なんだよ。次移動する時には、確認してからにするんだよ」

 そもそも危機感が存在しないのか、気にするような事では無いのか、色々と不明ながら、あっさりとその案を採用するルーである。

 …大丈夫なのか? 本当に??


「この辺りが目撃情報のあった地域なんですが、見当たりませんね」

 やがて、事故現場から一キロばかり進んだ当たりで、辺りを見回して何やら確かめていたマイク職員がそう告げた。

「待ってれば、出てくるんじゃないのかななんだよ?」

 暢気なルーの答えが返る。

「あー…今日も帰るのは無理なのかー」

 全然的外れなぼやきが、エイミから漏れる。

「其れじゃぁ、待ってる間に質問しても良いですか?」

 マイク職員がやや姿勢を正して問い掛ける。

「どうぞー。なんだよ」

「何でも聞いてー。答えられない事には答えないけど、其れで良ければ」

 あっさりとしたルーと、身も蓋もないエイミの答えが返ってくる。まあ、これだけあっさり了解がでれば(回答が貰えるとは限らないらしいが)、いっそ、どんな質問でも気が楽かもしれない。


「ルーさんは支部長と面談した際に竜人、ドラゴノイドと仰っていたような気がするんですが、龍神の方のエルダードラゴンで合ってますか?」

「あれ? 最初から龍神って言ってたよね?」

「言ってた言ってた。あー。共通語だと発音がほぼ一緒だわ。誤解したまま話が進んじゃったのかな?」

 マイクの質問に答えを返すルーとエイミ。内容があまりにもなのだが、ふつーに会話になっていたのは間違いない。

 左手の掌に右手の拳を打ち下ろすマイク職員。当時の会話を思い返して、若干の違和感があった事と、今その違和感が解消された事に合点がいった模様。


「えーともう一つ。神様って、こんなふつーに一般人に混じってるものなんです?」

「そうみたいだね」

「昔からこんな感じなんだよ? 神様って言ったって、食べて眠って生活してるんだから当然なんだよ。単に寿命が極端に長かったり無くなっちゃったりしてて、ちょっと異常な威力の魔法が使えたりする程度の違いでしかないんだよ?」

「あ! 来た!!」

 二つ目のマイクからの疑問に、エイミとルーから非常に適当な回答があった直後、エイミが鋭い声を掛けた。質問タイムが終了したようである。

 ワイバーンがやって来た。とも言う。


「今回はルー、やってみる?」

「遠慮するんだよ。下手な採取の仕方じゃエイミからお小言待ったなしなんだよ」

「は? ははは…」

 手番をルーに譲ろうとしたエイミにルーが答える。ついに、ワイバーンの討伐と言う、最高クラスだった難易度のはずが、採取にまで大暴落してしまっている。マイク職員からは、乾いた笑い声が小さく漏れていた。


「んじゃ、バレル長めに展開してー、収束率上げて、直径は三ミリで良いかな? 距離もあるんでインフラレッドの短波長で励起開始…発射」

 何やら口の中で唱えつつ魔術を展開して発動したエイミ。

 パン! と言う乾いた音が発せられると同時に、大きく、強く羽ばたきつつ急速に接近していたワイバーンが、突如、その動きを止めると、全身から力が抜けて、その勢いの儘、エイミ達の方へと、斜めに墜落してくる。


「えあくっしょん」

 ぼふん! という音と共に、エイミ達の前方二十メートル位の当たり、地上から一メートル位のところで空中で一度弾んだ後に静止する、撃ち落とされたらしいワイバーン。

「収納してクッション解除」

 エイミの言葉に合わせ、ワイバーンの巨体が姿を消した。


「マイク君。終わったよ。次へ行こう。次!」

 ワイバーンがほぼほぼ無傷でまるごと手に入った事が嬉しい様で、非常にハイテンションになったエイミの台詞に、色々と質問したいのを飲み込んで出発の準備を整えるマイクだった。


 二匹目のワイバーンについては、非常にあっさりと討伐が完了した。尤も、その直前に一悶着有ったわけではあるのだが、移動が再開して少し時間が経過した頃、駄目かもなー、と言う表情をしつつ、質問を投げてみるマイク職員。

「今の魔術、一体どういうものなんですか? 破裂音がしたと思ったらワイバーンが落ちてきたように見えたんですが…何か飛ばしたようにも見えませんでしたし、エアバレットの強力なもの?」

「んー。ものすごーく単純に言って、綺麗に揃えた光を思い切り集めて固めて槍みたいにして打ち出した。かな?」

「光? 非情に強い光で失明したとか、火傷をしたとかいう話は聞いた事がありますが? え? ワイバーンを一撃?? しかも無傷?? えぇえ???」

 余計に混乱したマイク職員に合掌。

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