#20 又お前かー!!

 情報を収集を兼ねて、待たせてしまったお詫びの、夕食を奢る事にしたエイミとマイク。ギルドの受付と同じフロアに併設されている食事処兼酒場…どちらが主体であるのかは明言を避ける事として、《剛剣》メンバーと移動する。

 各自、適当な食べ物と飲み物を注文して情報交換をしながら夕食を開始した。

 そして、幼女エルフ支部長の部屋の天井が、月に一度以上の頻度で吹き飛ぶ事や、翌朝には、綺麗に元通りに直っている事を知る事となる。たいていの場合、支部長の姿を見て舐めた態度をとる新米や他の地域からやってきた冒険者に対するお仕置きであるという、ある意味、お馴染みな情報も付随しているのだった。


 すっかりと打ち解けて、暢気に食事をしている《剛剣》メンバーとエイミ、マイク。其処へ、幼女エルフ支部長とルーが揃ってやってきた。

「おお。お前さん達も残ってたのかい。大変だったみたいじゃないか」

 《剛剣》メンバーに対して声を掛けるミリエラストラトリス。

「情報交換がてらご馳走になってます。そっちはお説教は終わったんですかい?」

 すっかりと、ルーが何かやらかしてお説教されていたのだと思い込んでいるトッパーズがそう返す。

 あながち、間違ってもいないため、一切の訂正をしようとしないエイミとマイクも、大概ではあるのだが、頭から決めつけているトッパーズも、なかなかに酷い。


「あれー? ルーって、お説教されてたのかな? なんだよ」

「大凡間違ってないんじゃ無いかな?」

「だいたい合ってると思いますよ?」

 こてん、と首を傾げたルーがそう疑問を口にすれば、エイミとマイクが返事を返す。

「だいたい三分の二は説教だった気がするぞ?」

「そー言われると、そーだったかもしれないんだよ」

 ミリエラストラトリスが追撃すれば、ついにはルーもお説教だったと認識してしまう。

《剛剣》メンバーは、あっけに取られてそれで良いのかという視線を投げつつ、一部始終を眺めるのだった。


 ルーとミリエラストラトリスが加わって、更に夕食…なのか宴会なのか解らなくなってきたが…は続けられた。

 そんな中、ふとした疑問をミリエラストラトリスに投げかけるエイミだった。

「朝には直ってるって話だったけどさ。ミリエラちゃん。天井無くなって、夜露で部屋の中濡れちゃわない?」

 すると、

「ん? もう直してきたから、平気だぞ?」

「ミリエラちゃんは時間を巻き戻す魔法が使えるから、とーっても便利なんだよ」

「阿呆ぉ! 世間一般には秘密だっての!! それに、人を道具扱いしてんじゃねえ!」

 此所でも又、ミリエラストラトリスとルーの漫才が繰り広げられるのだった。


「其れ、凄いじゃん!! 見たい! 見せて? 見せて??」

 しかし、今回は エイミの食いつきが凄かった。

「一回だけだぞ?」

 諦めた表情で、手にしていた木製のフォークをパキンと二つに折ってテーブルに置くミリエラストラトリス。

 軽く、その上に片手をかざして意識を集中すると。一瞬、陽炎のようにフォーク周辺がゆがんだように見えた後には、何事も無かったかのように元の姿を取り戻した一本の木製フォークが存在するのだった。

 一斉に、周囲から歓声と拍手が沸き起こった。

「呪文は唱えないんですかい?」

 トッパーズから質問が飛んだ。

「此、一応 秘匿魔法なんだよ。唱えると解析されちまう可能性があるから無詠唱だ」

「そうなんだよ。秘匿魔法だから教えたら駄目な魔法なんだよ」

「お前がバラしたんだろーがよ!!」

 と、又々展開される二人の漫才である。


 一方で、ミリエラストラトリスの魔法を見た後、暫く何やら考え込んでいた人物が一人。

「えーっと。んーと、…こう、かな?」

 おもむろに自分の使っていたフォークを二つに折ってテーブルに置き、その上に手をかざし何やら集中するエイミである。

 ミリエラストラトリスの魔法に比べるとかなり長い時間陽炎のような歪みが継続した後には、元通りの姿を取り戻したフォークが其処にあった。


「おー! エイミ、凄いんだよ!! 此で何か失敗しても元通りに戻して貰えるんだよー!」

 大喜びのルーである。喜ぶのは良いが、失敗する事を前提にする物ではないと思う。

 もちろん、マイクと《剛剣》メンバーも歓声を上げながら全員で拍手をしている。

 ミリエラストラトリスだけが、目を見開いたまま固まっていた。


「どうやって再現した!!? 無詠唱な上、魔方陣も発現しないように展開したんだが?? なあ、どうやった???」

「いや、魔方陣、魔力のみで光ってはいなかったけど見えてたし、魔力の練り方とか流れとか見えるんで、其れを参考にして?」

 ややあって、がっしりと、とても幼女の力とは思えない怪力で両肩を押さえられたエイミが、ミリエラストラトリスの詰問にしどろもどろになって返答する。

「そんな器用な真似、エルダーエルフのわたしにも出来ないんだが? 出来ないんだが??」

「えー? そう言われましても。此の体質になっちゃってから、覚えようと思って見た魔法って、一度見れば全部覚えちゃうんで…」

 エイミの答えにハッとなったミリエラストラトリスが、ガバッと体ごとルーに向き直る。

「又お前かー!!」

 大絶叫だった。


「あらら……。賢者って、意外と厄介な存在なんだね? なんだよ」

 ハアハアと荒い呼吸を繰り返し、大興奮状態のミリエラストラトリスを眺めながら、暢気な感想を漏らすルー。そんなルーを、大量の涙を湛えた大きな目でにらみつけ、次の瞬間 素早くルーを指差すミリエラストラトリス。

「あ痛ー!!」

 突然首を九十度後方にのけぞらし叫びを上げるルー。

 直後に、ドカンという大音響と共に、天井に大穴が開いたのだった。


 そして、一部始終をあっけに取られて眺めていたマイクと《剛剣》メンバー達。天井の穴を眺めた後、ルーとエイミ、ミリエラストラトリスの三人を指差して大喝采。大いに盛り上がっていた。

 実に、平和である…


 その後、こってりとミリエラストラトリスから、くれぐれも時空魔法を一般に公開したり教えたりするんじゃ無いぞ! と、脅迫紛いの説得を受けたエイミ。

「大丈夫! あたしの固有スキルだって言って誤魔化すから!」

 と、全然安心出来そうも無い答えを返したりしていた。

 ミリエラストラトリスが。やばい奴に危険な魔法を教えてしまったと頭を抱えたのは言うまでもない。


 その後、食事会らしきものは日付が変わる前にはお開きとなり、ギルドの客室に泊めて貰ったエイミ達三名。翌朝は、早々に次の目的地を目指して出発する事となる。概ね、エイミがさっさと依頼を片付けてしまいたいという理由から。


 残る二箇所の目的地は、近くにギルドの支部や分所すら置かれていない小さな村が点在する地域であり、討伐後には証明可能な部位を採取して持ち帰る必要があるのだが、

「お肉。お肉。美味しいお肉。待ってろお肉。狩るぞ、お肉。逃すかお肉…」

 すっかりと、ワイバーンを食材としてしか見なくなってしまったエイミである。余すところなく、討伐したワイバーンを持ち帰る事は間違いないので、問題では無いのだろう。

 当然の事として、そんなエイミを呆れ果てた表情で見送るミリエラストラトリスや、ギルド、ソルトル支部の職員一同なのだった。

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