#18 あいたーっ
御免なさい。大遅刻です。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「で、何から説明すれば良いのかな? なんだよ」
「全部で!」
「だから、何からって、取っ掛かりを訊いてるんだよ!?」
と言う、ルーとマイク職員の遣り取りの後、マイク職員だけが置いてけぼり状態なのを解消するべく、説明会へとなだれ込んだのだった。其れよりも、ワイバーン討伐の報告を優先するべきではないかと考えるのはおかしいことだろうか? まあ、この場で、その考えを持つ者が居ないことだけは理解出来るのだが… おそらくは、依頼達成報告や素材納品などの手続きを終えた《剛剣》メンバー達が放置されていることは間違いない。
「じゃあ、先ずミリエラちゃんは、ミリエラストラトリスって言うエルダーエルフさんなんだよ。ハイエルフって呼ぶ人も居るんだよ。昔は極悪聖幼女って呼ばれてた戦う聖女様だったんだよ。って、止めるんだよ! もうエアバレットはいやなんだよ!! 痛いんだから!!!」
「「痛いで済むんかい…てか、済んでたね…」」
ルーの説明に、血管マークをまき散らしたミリエラストラトリスがエアバレットの構えに入れば、慌てて額を両手で隠すルーと、其れを見て呆れるエイミとマイク。
臨戦態勢が解除されて、ルーの説明が再開される。
「大体三万年ほど前に蒔かれた命の種が育って色んな生命が増えたんだ。一万年くらい前に、知性を持つことが出来た九種族の中から三柱の神格を持つエルダー種が選び出されたんだよ」
一度話を切ったタイミングで、ミリエラストラトリスが間の手のように茶々を入れる。
「まあ、大凡寿命自体が無くなっちまった わたしやこいつみたいな種族は、そんときのメンバーのまんまだな」
「「一万年??」」
エイミとマイクが呆然と呟くが、さらっと無視される。
「各種族が健全に発展するように見守ったり祟ったり色々修正してきたんだよ。んで、二千年くらい前に、ステータスシステムってのをみんなで寄り集まって構築したんだよ。…あれ? 誰が言い出しっぺだったっけ??」
「クサナギとインフェリアスだよ。余所から迷い込んできた異世界神の」
疑問に対する回答をミリエラストラトリスから貰えて思い出し、ポンッと掌に反対の手の拳を打ち付けるルー。
「そーだった、そーだった。みんな面白そうって寄って集ってでっち上げたんだよ」
「あれで、管理業務がなければな」
「うんうん。管理。大変だったよねー。なんだよ」
当時を思い出しているらしいミリエラストラトリスのぼやきに乗っかって、腕を組んでうんうんと頷いているルー。
その思い出が良い物ではないらしく、非常に厳しい表情の儘鋭い視線をビシバシ向けられているのだが、全く気にしていない模様。
「千八百年くらい前から、神様、っても、大地母神の小間使いなんだけど、やるのに飽きちゃった奴とか、寿命が千年くらいの種族で、後継者が決まんないとかで、神様が減り始めちゃったんだよ」
「その、飽きちゃった奴らの、神様辞めるお手伝いをしてたのが、他ならぬお前さんな訳なんだがな?」
「そうそう! みんな、とっても感謝してくれたんだよ」
「残った方は地獄だったけどな!」
見事なまでに、物の見方が真反対な二人なのである。
「んで、そろそろ管理業務が絶望的なんでなんとかしないとねって話し合いがあったんだよ」
「その直後に行方をくらましたのがお前さんだよ!」
「そうだっけ??」
ぽややんとした表情の儘、下唇当たりに右手の人差し指を当てて小首を傾げたルー。
「あいたーっ」
とたんに、ルーの額でバチンとでっかい音がした。
続いて、天井から建造物の破壊される音が聞こえてくる。
「二十九柱中の十柱がいなくなったんだぞ!? しかも、神格十柱分持ってるお前が消えて、改めて神格持ちを増やそうにも増やせやしない! どれだけ私らが苦労したと思ってやがるかー!」
ルーを指差し、大絶叫のミリエラストラトリス。激おこだった。
「事故だったんだよ。不可抗力だったんだから勘弁して欲しいんだよ。情状酌量をお願いするんだよ」
おでこを押さえて涙目で訴えるルー。
「よーし。何が有ったのか説明してみろ」
腕を組んで睨み付けたままのたまうミリエラストラトリス。
「当時、ルーが冒険者向けに魔術や魔法を込めた護符を売ってたのは覚えてるんだよ?」
「あー。なんかごそごそやってたな」
当時、情報収集を兼ねた資金稼ぎを行っていた状況から説明を始め、特別注文で封印の護符を作ったことまで話を進める。
「で、最後の一個を作ってる途中で寝落ちしちゃったんだよ。付与が完了する直前だった関係で、手から離れた瞬間に発動しちゃったんだよ。で、つい数日前まで封印されちゃってたんだよ。回避不可能な事故だったんだよ。勘弁して欲しいんだよ」
「紛うことなく自業自得の大失敗じゃないかー! 同情の欠片もなく過失百パーセントの有罪だわーっ!」
叫びと同時にビシバシ発動するエアバレット。
既に、天井があった部分は綺麗な青天井である。
エイミとマイクはソファーに座ったまま、そんな二人をぼんやり眺めていた。もちろん、エイミの防壁魔法で囲まれた状態で。
まあ、幸いなことに、跳弾も流れ弾も何故か全てが天井方向へとすっ飛んでいくために、防壁を展開しなくても被害は無かったと思われるのだが。
そんな青い天井が赤くなり始めた頃、肩で息をするミリエラストラトリスと、おでこ以外はなんとも無事なルーが、漸く戦闘態勢を解除した。まあ、一方的にルーがエアバレットの的になっていただけではあるが。
「頑丈だね」
「頑丈ですな」
エイミとマイクがぽつりと溢す。
二人の台詞が示す対象はルーである。散々エアバレットを食らったおでこはほんのり赤みが差している者の、その他何処にも被害が無い。天井は、屋根毎、無くなったというのに。
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