#17 又お前か!!
そして昼過ぎ、ソルトルの町に到着した一行。久しぶりに見た無傷の行商人達に、驚いた表情の門番達に迎え入れられた。
護衛してきた商人達から、依頼完了のサインを貰い、其の儘ソルトルの冒険者ギルドへと向かった。
ギルドの受付で、アルフの支部から来た職員であることを示す身分証を提示して、このギルドの責任者への面会を要請するマイク職員。
《剛剣》のメンバーは、隣の受付で 依頼終了の手続きをする者と、買い取り窓口で 持ち帰ったワイバーンの素材を売却する者に分かれて手続き中である。因みに、買い取り窓口から何か叫び声が上がった様だが、エイミもルーもマイクすら興味を示すことはなかった。…いや、マイク職員。後ろ頭にでっかい汗が浮かんでいる様に見えるのは、気のせい…と言うことにしておこう。
そして、今。冒険者ギルドソルトル支部の支部長執務室にて、支部長であるところのミリエラストラトリスと言う名のエルフ幼女と面談中である。訂正。笑顔のルーがミリエラトリスに襟首を掴まれたまま、つるし上げられているところである。
経過を説明すると、支部長室入り口でドアをノックしながら身分と名前を告げるマイク職員。入室の許可が下りて、マイクを先頭に、エイミ、ルーの順で入室する三人。後三枚ほどの書類にサインをするので、傍のソファーで待って欲しいと告げる支部長。入室してからずっと、支部長を眺めていたルーが、おもむろに左掌を右の拳で叩き、声を上げる。
「ミリエラちゃんなんだよ、おひさー。って、未だに幼女エルフやってるんだよ?」
右手を高く掲げてにこやかに宣ったルーと、吐き出された言葉の意味を理解しかねて固まった残る三人。
次の瞬間。超短距離転移魔法で、執務机の前からルーの目の前に瞬間移動すると同時に、ルーの襟首を掴み其の儘つるし上げの態勢で怒鳴りつけるように言葉を吐き出す支部長。
「この極悪無駄性能超絶身勝手役立たずドラゴンが! 今まで何処に隠れていやがったかー!?」
で、膠着中。と言う状況である。
どうやら、ルーのお知り合いだった模様。世の中、広いようで狭いのである。
「お知り合い…なのです…か?」
ややあって、漸く言葉を絞り出すマイク職員。
同時に、ルーをつるし上げる幼女エルフの右腕をタップするルー。顔が真っ赤になってとっても苦しそうな様子である。首が絞まっているので、当然と言えば当然。そんな赤い顔のルーが、今度は青ざめ始めた頃になって、漸く放り投げるように開放するミリエラストラトリスだ。
「あー、苦しかった。相変わらずルーには容赦ないんだよ、ミリエラちゃんは。千五百年振りなのに」
喉元をさすさすしながら文句をたれるルー。
そんなルーに視線さえ向けず、指をパチリと鳴らすミリエラストラトリス。
「あ痛!!」
ばっちーんと言う音と共に頭部をのけぞらせるルー。直後に、天井にドカンッと穴が開く。どうやら、魔術のエアバレット。空気を固めて打ち出す攻撃魔術。空気を固めて飛ばすため、ほとんど視認できない超絶厄介な魔術、を、ルーの額にぶち当てた模様。
「痛ったーい。首捻っちゃったんだよ? 酷くない??」
少々赤くなったおでこを押さえて騒ぐルー。首を捻ったといっていたような気がするんだが? 押さえるの、そっち?
天井の穴からは、青い空が見えていた。跳ね返った後ですら建物の天井から屋根をぶち抜く威力のエアバレットを食らって、其れで済むのか? ルー・ルーファリアム。
そして、置いてきぼりとなったエイミとマイクの二人は、やがて、諦めた表情で、黙ってソファーに並んで腰を下ろす。
エアバレットをぶち当てて満足したらしいミリエラストラトリスも、執務机に戻って、やりかけの作業を再開した。何事もなかったかのように…。
そんな支部長の姿を眺めていたエイミだったが、急ぎ分の書類を片付けて一息ついたその姿を見て、ポンッと手を打ち合わせる。
「あ!! 思い出した! 昔、ギルド本部で三人いる統括本部長やってた人の中の一人だ!!! なんでこんな辺鄙な支部の所長??」
なかなかに失礼なことを宣った。
「あ? あんな疲れる仕事なんか、何十年もやってられないわ! って言うか、あそこにいたの、二百年くらい前だったと思うんだが?」
同類じゃないよね? と目を細め睨むような視線をエイミに向けるミリエラストラトリス。
「えーっと、その二百年くらい前にギルド本部で魔物図鑑の編集に参加してました」
エイミの答えに、一層鋭さを増すミリエラストラトリスの視線。
そして、エイミを指差して叫んだ。
「炎獄の魔女か!!」
「人違いです!!」
その叫びを上回る大きな声で否定の言葉を吐き出したエイミの顔は真っ赤であった。
「その反応、本人ですって言ってるじゃないか」
鼻で笑って指摘する支部長。
「忘れて下さい、って言うか、忘れろ! でないと、最大級を一発叩き込む!」
宣言すると同時に莫大な魔力を込めた術を練り上げるエイミ。発車寸前でホールド中、僅かに 二、三秒の出来事である。
「これはなかなか…なんだよ」
エイミの突飛さに馴染んだはずのルーですら、でっかい汗を滴らせるほどの圧だった。
「言わない。判ったからその魔術、
流石に、支部長も机に手を着いて頭を下げる。
何せ、その一発でこの小さな町は地上から姿を消してしまうのだから。発動した後に、其処に残されるのは、直径十数キロのクレーターだけであろう事が予測できたのだ。
「相変わらずでたらめだな、君は… それにしても、未だに不老不死の呪いが解けてないんだな?」
「残念な事に未だに。でも、犯人は見つけたよ」
ミリエラストラトリスの問いに、隣のルーを指さしながら答えを返すエイミ。その指し示す先へと視線を向ける支部長。
「又お前か!!」
「軽~いジョークだったんだよ? まさか適合者が出るなんて思わなかったんだよ!」
「あんたは、ジョークで死ぬまで魔力を吸い上げるような魔道具を作ったのかい!」
ルーを睨み付けて叫ぶ支部長に慌てて答えるルー。その答えの不穏当さに叫びを上げて詰め寄るエイミであった。下手をすれば、適合しなくて死んでいたかもしれないとなれば、当然の反応だった。
「適合しない人が着けても、そもそも発動すらしないんだよ。説明書きの文章自体がジョークなんだよ。ルーは無罪なんだよ」
「「何処をどう考えても有罪だよ」」
二人から詰め寄られ、頭を抱えて身体を小さくするルー。カオスな空間が出来上がった。
其処へ、一人、蚊帳の外に居たマイク職員から声が掛かった。
「すいませんが、お三方。会話は一般人の私にも解る国の言語でお願いします」
「「「共通語だよ(なんだよ)!??」」」
残念ながら、カオスな空間に、混沌が更に追加されただけであった。
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