#8 あたしじゃ無いんだ!!?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「やったー! 下手になってるよー!!」
等と、普通は喜びと共に発する事が無い台詞を吐きながら、諸手を挙げた状態ではしゃいでいるのは、エイミである。
昨夜…嫌、本日未明まで、宿のベッドに腰掛けたまま、あぁでも無いこうでも無いと、散々ステータスウインドウの弄り方をルーから聞き倒していたのだが、眠気に負けて空が白む前に寝落ちした後、もうすぐ昼食時、と言う時刻になって漸く部屋を後にして、冒険者ギルドへと顔を出し、ルーのギルド員登録と、探索からの帰還、並びに冒険者活動再開の報告を済ませた後、朝食は諦めて、遅めの昼食を取るために、何故か近くの森までやって来た挙げ句、うさぎと鳥を数羽ずつ捕獲して、調理して漸く食事を開始した直後の出来事である。
要するに、此まで、調理スキルの影響で、どんなに手を抜いて調理しても、高級料理店並みの食事に仕上がってしまっていた物が、漸く、スキルがレベルアップして以来、望み続けていた庶民の味で調理できるようになった事に、対する物であるらしい。
一方で、ルーはと言えば、出来上がった料理を一口囓った直後、げんなりとした表情を隠そうともせずに、自らの分だけ味付けを整え直し、気に入った物が出来上がった所で、一人、黙々と平らげている所である。要するに、お好みに合わなかったという事の様だ。何気に、ルーの調理能力は高い物であるらしい。彼女の生活空間に、調理に関する物が何も無かった件について、謎が深まった瞬間だ。自炊しろよ。と、忠告したい。
そんな、本人達以外からすれば、残念な事、この上ない様な昼食風景の後、何処から取り出したのか、携帯型のハンモックに並んで揺られる、ルーとエイミの姿があった。
「ねぇ。一つ不思議に思う事があるんだけどさ…」
寝そべったまま、ステータスウインドウを弄っていたエイミが声を発する。
「ギルドや教会でステータスチェックした時ってさー。あたしが自分で取得した職業とスキル構成しか表示されなかったし、なんか変な事になってるスキルレベルとかも表示されなかったのはなんでなのかなーって、不思議なんだー」
ルーの返事も待たずに、自分の疑問をぶちまけるエイミ。
「其れは、隠蔽機能が作用しているからなんだよ。急激にステータス内容が変動した時には、周囲にその変化を悟られない様にする方が安全だからって、かつての神様の一人が盛り込んだ機能なんだよ」
返答は貰えた物の、内容が飲み込めないエイミは、ぽかんとした表情の儘ルーを見つめる。
「えーっとね? 長くなっても良いのかな? なんだよ?」
なんと言って説明しようと考えつつも、時間が掛かりそうな事だけは間違いなさそうだと判断したルーは、エイミに対してそう確認の言葉を投げかける。その質問に頷いたエイミを、確認したルーの説明が始まった。
曰く、
○ ステータスシステムという物が現実の物となったのは、ルーがアルフェラントリスの瞳を売り始めるよりも数百年前の時代である事。
○ 運用が始まって直ぐ、希に発生する特別なレアスキルを獲得する者であるとか、スキルの伸びが、他者と比べて著しく早い者が現れる。
○ スキルの成長を確認して、他人にその事実が知られた際に、悪意を持った相手から、欺されて不利益な契約等を締結してしまい、一方的に搾取される者が現れてしまった。
○ ステータスシステムを現実の物と設定した神界のクサナギ神が不誠実な者達に神罰を与えると共に、急激な成長や、珍しいスキルをえた者のスキルチェックに際しては、その事実は隠蔽され、本人の判断で公開するか否かを決定する事が出来る様に修正を入れた。
○ その際に追加で装備されたステータスウインドウが、何故か忘れ去られたらしい現在に於いても、自動的に急成長したエイミのステータスを隠蔽しているため、スキルチェックでは表示される事が無かった。
と、言う事で有った。
何故、要約した説明を紹介したのかと言えば、エイミの現在の姿を見て貰えば理解出来るのでは無いだろうか。
張り切って説明を始めたルーの話は、微に入り、細に入り、と、当時の状況を紹介し、社会情勢を解説し、どのような経緯で制定が始まったのかといった背景や、関係した神や当時の世界を纏めていた代表者間で交わされた話の一部始終に至るまでに至っており、辺りはとっくに闇に包まれた時刻と為って、魂が抜けきった様にうつろな笑みで頷き続ける機械の様に成り果てた状態で、ハンモックに揺られているエイミの姿があるのだから。
おそらくは、簡単に纏めた内容位は、エイミにもぼんやりと把握出来ている、かもしれない。明日の朝まで覚えていられるのかについては、定かでは無いとして。
まあ、なんか、良さそうなシステム作ってみたけど、悪用する奴がいたから改良したよ。便利でしょ? という事で、良いんじゃないかと思われる。この位の内容ならば、明日のエイミも、覚えているんじゃ無いだろうか。
更に加えて大分時間が経過し、漸くエイミが我に返ったタイミングと、壊れ掛かったエイミを放置したまま、夕飯の食材を集めるために周辺をうろついていたルーが戻ってきたのは、ほぼ同時刻であった。
適当に狩ってきたうさぎやら野鳥やら採取してきた山菜や果物などをインベントリから放り出しつつエイミに向かってルーが話しかける。
「夕飯、これだけあれば足りると思うんだよ。今度は調理スキル、四分の一で良いから有効にして調理してください。なんだよ」
昼間の御飯が、よほどお気に召さなかった模様。
「判ったー。何時の間に夜になってたんだろう? 不思議だねー?」
頷きつつも、首を傾げるという器用な真似をしてみせるエイミ。ステータスウインドウの設定を変更して、ちゃっちゃと調理を始めたその手つきは、流石の一言であった。調理スキル、凄い。
「あたしじゃ無いんだ!!?」
「…何を言ってるの? そして、誰に向かって叫んだの? なんだよ?」
「え!? わかんない。けど、無性に叫びたくなった!!」
と言う、意味不明な会話を交わしつつ、かなり遅めの夕飯は、その準備が出来上がって行った。
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