#7 寝よっか?
そして、へんにゃりと萎れるエイミの目の前には、エイミのぼやきに対して、あっさりと解決策を提示するルーがいた。
「ならば、スキル
「何其れ。そんな事、どうやったら出来るの?」
思わず、食事の手を止め、まじまじとルーの顔を見つめるエイミ。確かに、スキルの有効、無効が切り換えられるのならば、そんなに便利な事はない。口にするからには何やらその方法を知っているのではなかろうか? と、期待を込めた視線で先を促す。
「ステータスウインドウ表示して、スキル設定の画面を弄れば一発なんだよ?」
「すてーた…す?」
コテン。と首を傾げて、聞き慣れない言葉を復唱しようとし、失敗するエイミだった。知ってるでしょ? って表情で、ふつーだよ? って感じで答えが返ってきたが、その様な手段、見た事も訊いた事もない。きょとん、とした顔を返すルーに、一体何を言ってるんだ? こいつは! と、身を乗り出して掴み掛かる。しかし、のらりくらりと躱されて、ついにルーの身体を捕まえる事は出来ないのだった。
先に、食事を済ましてしまおう。と考えを改め、大人しく座り直して、食事を再開する二人。見事なまでに、息がぴったりである。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そして、食事を終えた二人。
「で? すたてすなんちゃらだっけ? って、何? 一切合切、キリキリ吐き出して??」
「なんか、ルーが悪者みたいなんだけど? なんでそんな扱い? なんだよ??」
ジトっとした視線を向けて問い詰める気満々のエイミと、その視線の不穏さに戦くルー。と言う構図が出来上がっていた。
「とりあえず、自分自身を鑑定するつもりになって『ステータスウインドウ展開』って唱えてみるといいんだよ」
「すてぇたすういんどぅてんかい? …って、おわぁ!!?」
言われるままに言葉を繰り返すエイミ。直後、目の前に半透明の板状のナニカが現れた事に驚いて、両手を振り上げながら叫び声を上げた。
「画面の文字、読める? なんだよ」
「文字…? あ。なんか書いてある。
エイミ。 女。三百四十九歳。(身体年齢二十一歳)
種族 多分、人?。普人族。
職業 賢者。戦士。闘士。狩人。忍者。魔術師。精霊術師。風水士。回復士。治癒士。探索士。採掘士。細工士。鍛冶士。調合士。建築士。木工士。土木士。錬金術師。死霊術師。闇魔術師。
魔術属性 火。水。土。樹。風。金。光。闇。空間。時間。天候。精霊。
「だから、エイミのステータス。なんだよ?」
何か一杯書いてあるよ? と、ルーの顔を見るエイミ。だからエイミの
「あたしの知らない職業やスキルがいっぱいあるよ? 習得出来る可能性があると表示されるのかな?」
「いや、既にエイミが持ってる職とスキルなんだよ?」
意味が判らないよ? と再度ルーへと視線を向けたエイミ。ルーの返事は変わらなかった。
「いやいやいやいやいや。ないないないないない。あたし、魔術師以外の職業取ってないし、属性だって火と風と水と空間位しか習ってないよ?」
右手を顔の前に、首と同時に左右に激しく振りながら否定するエイミ。何度も瞬いてエイミを見つめた後、彼女の額に嵌まるサークレットを指差しつつ、ゆっくりと説明を始めるルー。
「エイミは賢者になっちゃってるんだよ? ルーの作った賢者のサークレットに適合しちゃってるから。まあ、まさかあのサークレットに適合出来る人が居るなんて、予想だにしなかったから、心底驚いたんだけど。賢者って、あらゆる職業やスキルに精通してて、全ての魔術属性を使える人の事なんだよ? だから、エイミのステータスって、まるで職業やスキルのカタログ状態になっちゃっててもおかしくないんだよ。エイミって、大抵の事なら自分で出来るなーって思った事、無いかな? なんだよ」
ルーの話を聞いて、左の掌に右手を拳にして、ポンッと乗っけるエイミ。
「ある! とーっても思い当たる事がいっぱいあるよ! どーりで、必要かなーって思った魔法がポンポン使える様になるし、作りたいと思った道具なんかもあっさり作れちゃうん訳だ。便利だね!」
あっさりと納得していた。素直にしても、程がある性格をしている模様。此まで、色々と大丈夫だったのかと、心底心配になってくる。詐欺的な意味とか、詐欺的な案件とか、詐欺的な契約とか…。
「エイミってー…、色々と平気だったのかな? 簡単に欺される予感しかないんだけど。なんだよ?」
「今の、嘘だった!?」
半眼になって、大丈夫なのかこいつ。と言う表情で呟くルーの声を聞いて、欺されたのか? と叫ぶエイミ。やはり、ルーも心配になった模様。熟々周囲が気を揉む羽目に陥らされる、非常にヨイ性格をしていらっしゃる。
「いや、ステータスウインドウの件はホント。なんだよ。只、欺されやすそうな性格だなーって思っただけなんだよ。此まで欺された経験、豊富にあったりしない? なんだよ?」
「んー、無いかなー」
ルーの質問に思い当たる過去がないらしく、腕を組んだ状態から右手人差し指を唇に当て、首毎左右に振り振りしながら天井を見上げつつ、挙げ句、さして考えた様子もなく、あっさりと答えを返すエイミ。幸運の女神にどっぷりと愛されまくった人生を送ってきた模様。…いや、呪われアイテムによって不老となっている以上、大して幸運とは言えないはず。中々に難しい問題なのかもしれない。まあ、本人次第と言ってしまえば其れまでではあるし、どうやら本人はラッキーだったとしか認識していない様ではあるが。寧ろ、欺された事に気付いていない可能性が濃厚ではないかという疑いが…。本人は気にしていない様なので、此の問題は放置しておく事とするのが、最上解と思われる。
「んで、だいーぶ話が寄り道しちゃった気がするんだけど、なんだよ。取り合えず、そのスキル欄の料理に触ってみるといいんだよ?」
「触る…? あー。触れるんだねー。へー。ホー。は~。あ! なんか、書いてある内容が変わった」
恐る恐る、ウインドウに指を近づけ、言われたとおりに、料理の項目に触れてみれば、きちんと触った感触が返ってきた事に驚いて、しきりに感心を繰り返すエイミ。直後、ウインドウに表示されていた内容が、書き換わった事に再度驚く。
「其処に、有効・無効。って項目があると思うんだよ? 無効に触れば、スキルが発動しなくなるんだよ。必要になったら、又有効に戻せばいいんだよ?」
「其れだけ?」
あまりの簡単さに思わず問い返すエイミに、こっくりと頷きを持って答えるルー。
「あははははー。面白いー。ね、さっきの画面に戻るのはどうするの?」
「左上にある左向きの矢印に触るんだよ」
「ほうほう」
初めて見た不思議なウインドウ表示を、すっかり気に入った様子のエイミ。色々と弄りたくなった様で、使い方をルーに尋ねては弄り倒し始める。
「有効、無効だけじゃなくて、スキルレベルが低い状態にする事は出来ないの?」
「白くて太めの横棒が一本見えると思うんだよ? カンストしてるって言ってたから、多分、右の端っこに下向きの三角がある筈なんだよ。その棒がレベルゲージって言って、スキルのレベルを表してるんだよ。左端が初期状態で、下向きの三角が現在のレベルなんだよ。その範囲内なら、指で、好きなとこまで上げたり下げたり出来るんだよ」
といった感じのやり取りが、その後、エイミの興味が尽きるまで続いたのである。
「ふわぁぁ… 寝っむ… 寝よっか?」
「賛成。なんだよ…」
訂正。エイミが眠気に逆らえなくなるまで続いたのだった。
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