#5 あたしの人生、謎過ぎる
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真っ暗な、比較的広々とした洞窟の壁際近くで、地面に置かれた一片の紙片が突如輝きを発した。其の儘紙片は燃え尽き、紙片の有った場所を中心に直径二メートル程の魔法陣が生成され、三メートル程の光の柱が立ち上り、一瞬の後にはすっと消え去って行く。
「
輝きが収まると同時に声が響き、眩しくは無い程度の光を放つ球体が空中に浮かび、辺りを照らし出す。
その光に照らされたのは、エイミだ。登山前に、帰りの手間を省き、時間を短縮する為に、人の来ない洞窟の奥に結界を布陣して、帰還用の転移魔方陣を仕込んで於いた様だ。
「まあ、ちょっと納得いかない部分もあったけど、実入りは最高だったから良しとしよう。さて片付けを…」
ニコニコとした表情で、洞窟の壁面に貼り付けられた、結界用魔方陣の書かれた紙片に手を伸ばすエイミ。
唐突に、先ほど光の柱が立ち上った当たりで、先刻と同様な魔方陣が鋭い光を発した。
「えええぇぇ!!?」
「成功したんだよ!!」
驚いて叫びを上げたエイミの前に姿を現したのは、ルーだった。
「エイミの使った魔方陣、コピーして追いかけたんだよ。思った通り、同じ所に移動したんだよー。大成功なんだよ」
諸手を掲げて大はしゃぎのルー。
「そんなわけあるかーい!!」
エイミの大絶叫に、踊っていたルーの動きがピタリと停止した後、ぐりん。っと顔だけがエイミの方へと向けられる。
「今の転移魔法、あたしのオリジナルー!! 普通、一瞬見ただけで真似出来るような簡単な魔方陣じゃ無いの!! あたしが十年も掛けて開発した魔方陣をーっ! しかも、陣展開用の護符も無しで、到着地点に魔方陣が発現するはず、無いじゃない!! 何してくれちゃってるのさーっ!!!」
ルーの両肩をがしっと掴んで、前後左右にがっくんがっくん揺さぶりつつ叫びを上げ続けるエイミ。この時代、転移の魔方陣を制作出来るものなど、世界中探しても片手で余る程度しか居ない。世間に公表すれば、宮廷魔法師への扉が、間違いなく開かれることだろう。まあ、懐柔とか囲い込みとか穏便な場合だが。悪くすれば、拉致監禁の挙げ句、隷属魔法で使い潰されかねない案件である。その昔、苦労して開発した自作の転移魔方陣を、世間にばれない様ひっそりと活用しているエイミとしては、まあ、その気持ちも、判らんことも無いような気がする。少しだけ。
「中級魔法程度の規模だったし、一辺見れば覚えられるんだよ? 直ぐ展開出来たんだよ。ちょっと変な記述があって、発動が面倒だったけど、修正掛けたら何とか為ったんだよ?」
さらりと答えるルー。其れが何か? と、小首をこてんと傾ける仕草が、なかなかにあざとく見える。なんでー? と言う、間の抜けた表情で良かった。此で、どや顔でも決めていたら、イラッとする感情が倍増しになっていたかもしれない。いや、間違いない。
「あたしの十年が…一目で真似されて…悲しい。とっても悲しいよー」
蹲って、うおぉーん。と、声を上げて泣き始めるエイミ。その姿に、流石にバツが悪くなったのか、ホッペをポリポリ指先で掻き掻きしつつ、どうしよう? と、困り顔で考え込むルー。
エイミの号泣が、めそめそへと落ち着いてきたところを見計らって、ルーが説得を始める。
「精霊の契約が成立しちゃってるから、ルーが追いかけようとしなかったら、多分、エイミの転移魔法、失敗させられてたんだよ? ルーが、エイミの魔方陣真似して展開出来たから、妨害されずにここまで転移出来たんだと思うんだよ。下手をすると、変な空間に閉じ込められた可能性もあるんだから、此所は契約に認められたと受け入れて、今後は一緒に行動するのがきっと自然な行為なんだよ?」
「全身全霊を掛けてお断り申し上げるわーっ!」
「もー。エイミったら照れ屋さん、なんだよ。もう一夜を共にした仲なんだから、そんなに照れなくっても良いんだよ?」
「その、激しく誤解を誘発しそうな言動、是非ともお控え戴けるかな!? うわーん。変な妖怪とか、貧乏神とかに取り憑かれた気分だよー!!」
「妖怪の親分さんも、ルーの源典たる存在も、神様って呼ばれた種族に間違いは無いんだよ。そんな訳で、取り憑いちゃった以上ずっと一緒だから、よろしくな? なんだよ」
所謂、物の怪、妖怪などを神として奉り、災いが降り掛からぬ様鎮めたことを指していると思われるが、些か乱暴な纏め方で一括りにしてしまうルーである。いや、自分もその中に含んでいる様なのだが、良いのか? 其れで…
「
ルーの、取り憑いた宣言を聞いて、再び喚き始めたエイミが落ち着くまでに、それから二時間ほどの時間経過を必要とした。その間、何処からか取り出してはぽいぽいと辺り一面に色んな道具を投げ散らかして暴れても居る。非常に厄介、且つ、危険な女である。
その間、エイミの背中をポンポンしたり、飛んでくる色々から逃げ回ったり、頭をなでなでしたり、床に転がって指差し爆笑したりと、大層忙しい様子のルーだったが、ゼーゼーと、荒い呼吸を繰り返し、ようやく叫びを上げることを止めたエイミに向かってこう告げた。
「そろそろ、近くの町か村に向かう方が良いと思うんだよ。あと一時間もすれば日が落ちて暗くなるんだよ?」
「あ、そうね。じゃあ移動開始しようかしらね」
あっさりと意見を受け入れて、出発の為に、喚き散らしながらあちこちに投げ飛ばした、自らの荷物を拾い集め始めるエイミ。
二メートル近い杖であったり、直径三十センチの鍋やフライパンであったり、ナイフや包丁。まな板に寝袋。テントに簡易ベッド。果ては仮設トイレまで、何処に仕舞い込めるスペースがあるんだい? と、問い詰めたくなるような分量のあれやこれやを、何処かへと納め終わったエイミに向かってルーが問い掛ける。
いや、それ以前に、其れ、全部暴れながら投げ散らしたのか? エイミ。謎な怪力を保有している模様。
「其れって、
「んー? そうね、此の世界じゃ無い世界を切り取って収納場所を確保してるのよ。
ごく普通に返事が返ってくる。先ほどまでの大騒ぎは、一体何だったのであろうか、と問い詰めたくなる落ち着き振りだ。
「為るほど。で、エイミってさ。ワーッて騒いだらストレス吹き飛んじゃうタイプな人、なんだよ?」
「そーそー。何時までも拘ったって良いことないって散々学習したよ!。その場で発散しちゃえば後を引かなくていいよね!」
けろっとした顔で答えるエイミ。
「という事で、ルーが仲間に加わったんだよ」
「いいね! 最近ソロ活動も飽きてたし、ルーって距離感がなんか相性良いから、楽しくやれそう。一緒にあちこちしましょ?」
「よろしく! なんだよ」
「此方こそ」
掌同士を、ぱんっ。と打ち合わせ、洞窟の出口へ向かって、移動を開始する。一見二十歳、身長百六十センチの人族(呪われ中)魔術師っぽい賢者、女生と、一見十二、三歳。身長百三十センチの龍神族少女、に見える長命種族。身長差三十センチ、文字通りの凸凹コンビが此所に爆誕した。
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