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急に素っ頓狂な声を上げるアオバに反応し、他のメンバーも何だ何だと皆近寄ってくる。
マスターの私物が置いてある棚の下にまで手を伸ばして探索活動をしていたアオバは、やけに古めかしい一冊のスクラップブックを見つけ出していた。
「お、おいっ! お前何やってんだよ!? 勝手に触ったらマズイって! さすがに怒られるぞ!」
「まったく。相変わらずの無鉄砲ですね。貴方は」
「だって! だって! アタシ、マスターが『片岡さん』だって証拠を見つけたいんだもん! あんなにそっくりで、ここはこんなに“あの
アオバ自身も、勝手に人の物を漁ることはいけないことだとわかっている。
でも。でも。どうしても。
“あの時”の、不思議で素敵な出来事を体験させてくれた片岡に対して、心からお礼を言いたかったのだ。
「そう……だったのね。ごめんね。アオバちゃんの気持ちに気づかなくて。そうね。思い出してみれば、私もちゃんと『片岡さん』にお礼を言ってなかったわ」
「そうね。その気持ちはとても大事なことね。でもね、やっぱり勝手に他人の物を触るのは良くないことよ、泉さん」
「はぁ……い。ごめんなさい」
「そ、それで、アオバちゃんは何を、見つけたの?」
少ししょげているアオバを気遣いながら、りょうたは発見物について尋ねてみた。
すると、アオバはパッと表情を変え、見つけ出したスクラップブックを広げ始める。
「あのね、アタシ、あの奥の棚の下からこんなの見つけちゃった!」
広げられた古めかしいスクラップブックの表紙は茶色みの部分が多かったが、中身を見ると切り取られた新聞記事の保存状態は良好そうに見える。
広げられた記事の一部を見ると、そこには教育に関する大論争が起こったという内容がデカデカと載せられていた。
『
『
『
「陸奥木戸……薫鷹? って、えっ!?」
「陸奥木戸って、あのお屋敷の主さんだよな!?」
「そーなの! アタシ、この名前を見てビックリしちゃった!」
「え、ええ……。たしか養子に入って『麻生田』という名字になったという話だったわよね。でも、まさか総理大臣だったなんて……」
「そーりだいじん、って、すごくエライ人、だよね?」
「そうですね。でも、記事を読むと何だか大変な目に合ってたみたいですね。それにしても、こんなに有名な人のお屋敷にいたんですね、僕たち。何ていうか、驚きです」
あまりに想定外な事実を知り、困惑を隠せない六人。
太く大きな文字で新聞の一面を飾っているこの記事からするに、当時では非常にインパクトのある出来事だったのだろう。
しかし、これはいったい、いつ頃の時代の話なのだろうか。
日付が表記されている箇所はスクラップされていないようなので、いつこの記事が書かれたのか正確な日時は不明だ。
しかも、同学年より知識豊富なタカラや高校生のあさひはおろか、成人のさくらでさえ、『陸奥木戸』という総理大臣がいたという記憶はなく、ましてや記事に書いてある内容は初めて読むものばかりだった。
「こんなことがあったなんて、全然知らなかったわ。文字の全てにルビが振ってあるから読みやすいけれど、今の新聞でルビ振りはほとんどないわよね? かなり昔の記事なのかしら……?」
「私もです。『陸奥木戸薫鷹』っていう総理大臣がいたかなんて、習った記憶はないのですが」
「へー。オレなんか、歴史の授業はほとんど寝てたし、そもそもどんな時代もさっぱりだ。それにしても、“学校を潰す”か。俺たちも同じこと考えたよな〜。ちょっと意味合いは違うかもしれねーけど。やっぱ、強制されるより自分で決められる方がいいよな」
「ですね。自分で学びたいこと、やりたいことを自由に考えるのは楽しかったですよね」
「う、うん! また、作りたい!」
「だよね〜! あー、またあの『不思議なノート』を使いたいなぁ……――って、ん? んん?」
夢のようなあの日の出来事を思い出していたアオバだったが、スクラップされている記事に混ざって、見覚えのある藍色の紙が挟まっていることに気がついた。
麻生田家執事
片岡 時紬(かたおか ときつむ)
漢字の上ではなく、横並びに振り仮名が書かれた見覚えのある表記。
それは金色の箔で氏名が書かれている、一枚の名刺だった。
「あー! これ、“あの時”にもらったやつ!」
「――っ!? お屋敷で最初に『片岡さん』に会った時に渡されたやつじゃねーか!」
「ほ、ホントだ!」
「僕も見覚えあります。こちらの世界に戻ってきた時には消えてしまったようなので手元にはありませんが、でも確かに同じ物だと思います」
「ええ。でも、何故これがこんなところに?」
「これがあるってことは、やっぱり……。いえ、名刺があるからと言って断定はできないわね。もう何がどうやっているのか、
思いも寄らない物の発見に、全員が名刺を触りながら首を傾げ、考え込む。
すると、またもやアオバは何かの違和感を感じたようで、ううんと眉間にシワを寄せながら名刺に目を近づけた。
「あ、あれ? あれれ……?」
「アオバさん、どうしました? また何か見つけたのですか?」
「え……? ううん、えっとね。アタシ、漢字が苦手だから、いつもひらがなのところを見ちゃうクセがあるの。だから、この名刺も新聞もひらがなのところだけを読んでたんだけど、そうしたら何かこの部分が…………って、あっ!? あああーーーー!」
首を四十五度に傾けたアオバは、急に素っ頓狂な声を出し、太く大きな文字で書かれた新聞記事を指差した。
「こ、これ!?」
「ど、どうしたの? アオバちゃん」
「な、何?」
「凄い声でビックリしたわよ。少し落ち着いて」
「うるせぇよ。隣には他のお客さんもいるんだから、静かにしようぜ。で? この記事がどうしたって……」
「こ、これ! これ見てよー! ここ! ここっ!」
アオバが両手を使い、先ほど見つけた名刺と新聞記事に出てくる『陸奥木戸薫鷹』の名前に指を当てる。
しかし、一人混乱しているアオバ以外の五人は、指をさされた箇所にどんな意図があるのか飲み込むことが出来ず、戸惑うばかりだった。
「いや、だから、この人はあのお屋敷の主さんで総理大臣だったってことだろ? もし、今の時代の人じゃないのなら、オレたちは“タイムスリップ”したってことになるな!」
「いや、まさかそんな……」
「そうじゃなくて! ほらっ! ここのひらがなで名前が書いてあるところ! 反対から読んでみてよ!」
反対? 反対に読むと……――――――あっ!?
温かな居場所の中で、大きなどよめきと驚嘆の声が交差する。
その呼応に合わせるかのように、ホワイトボードに書かれた柔らかな文字も、踊るようにキラキラと輝き放っていた。
〈ききゅうひっきちょうのつかいかた〉
①大きなブックスタンドにおく。
②なにもかいてない、白いページをひらく。
③白いページに、右手をおく。
④やりたいことを、あたまの中でつよくおもう。
〈そのた〉
・ねがいをかなえる、ふしぎなノート。のこりページは、まだたくさん。
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