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「あっ! みんな〜! 会いたかったよぉーー!」

「アオバちゃん!」

「おっ? りょうたも元気そうだな。何か、前より良い顔つきに見えるぜ」

「えっ、そ、そう、かな?」

「藤橋先生も、ご無事で何よりです」

「才津くんも。みんな、心配かけてごめんなさいね」


 片岡が付けた『足跡マーカー』の矢印を辿りながらそれぞれが帰り道へ足を運ぶと、『希求筆記帳』の最初の見開きページに辿り着いた。

 そしてそこで、ついに六人は再開することができたのだった。

 一時はどうなることかと思ったが、お互いの無事な顔を見ることができ、安堵の空気が広がる。

 アオバなんかは全員に勢いよく抱きつくなど、普段以上にはしゃいでいるように見えた。


「アオバ〜! 嬉しいのはわかるけど、ちょっと落ち着けって!」

「え〜? だって、みんなが消えなくて良かったんだもん! あのね! あのね! りょうたくんが考えた世界って凄いのっ! 思ってることが吹き出しになって出てくるんだよ!」

「だ〜か〜ら〜! 一気にしゃべったってわかんねーって!」


 いつもの大騒ぎをする二人を見て、他の四人は顔を見合わせながら笑みをこぼした。


「あの二人を見ていると、“帰ってきた”って思うわね」

「……うん!」

「本当に。自暴自棄になっていた自分が恥ずかしいわ」

「そんなことありませんよ。でも、本当にホッとしました。片岡さんからは、このノートの世界には消える液体が広がっている可能性があると聞いていたので、もし全てのページにそれが広がっていたらどうしようかと思っていましたから」


 渡り歩いてきたページの中には、あの白い液体が大きな湖のように広がっている箇所もあったため、一歩間違えば自分もどうなっていたかわからない。

 とにかく全員が無事にここまで辿り着けたので、後はゴールを目指すだけだ。

 目の前にある帰り道の『足跡マーカー』により、外の世界へつながるゴール地点まで道標は作られていた。

 あそこまで行けば、片岡が待つあの世界へ戻ることができる。


 あと、もう少し。


 タカラはそう思って『足跡マーカー』へ足裏を重ねながら歩こうとすると、数十歩先に途中で枝分かれしている箇所が出てきていることに気がついた。

 それは、『足跡マーカー』とは違う、黒く丸みを帯びた小さな足跡。

 しかもその足跡の側には何かの欠片までボロボロと一緒に落ちており、それは遠くの方にかすかに見える、真っ黒いトンネルのような空間まで続いていた。


「これは……」

「あのネコさんの足跡かなぁ〜? りょうたくん、どう思う?」

「う、うん。ぼ、ぼくも、ネコさんのだと思う」


 先ほどまではユタカとじゃれ合っていたのに、いつの間にかタカラの横にしゃがみ込んでその黒い小さな足跡を調べるアオバ。

 りょうたもアオバの側にちょこんと座り、一緒に調査を開始する。

 人型の足跡のようで、ネコの肉球の形も含まれている不思議な足跡。

 真剣な表情でその足跡を念入りにチェックしている二人を見て、あさひはふふっと笑いながら腰を降ろした。


「どうかしら、何か発見できそう? ちびっ子探偵さんたち」

「アタシの推理では、ネコさんはあっちにいる!」

「うん!」

「そんなの、見りゃわかるだろーがっ! 推理でも何でもねえぞ!?」

「……鷺巣くんは、ツッコミ役で忙しいわね」

「ま、まあまあ。僕もそう思います。で、このボロボロとした欠片は恐らくこの世界の、学校が描かれていたページの切れ端でしょうね」


 ボロボロに細かく千切られた、学校の欠片。

 これもまた、あの『足跡マーカー』と同じように何処かへとつながる道標になっていた。


「さてっと。こっからどうする? もうゴールは目の前だけど、オレはやっぱ腹の虫が収まらねーんだよな〜〜」


 ツッコミを終えたユタカはタカラの肩へ頭を乗せ、わざとらしく大きなため息をつく。

 重ったるいユタカの頭を退け、タカラはやれやれと首を振った。


「貴方の言いたいことはわかりますよ。『あのネコを追いかけよう!』ですよね? 気持ちはわかりますが、あの先に見える暗闇の空間には近づかない方がいいですよ。何があるかわからないじゃないですか」

「でもオレは、あのネコをとっ捕まえたいんだ! だって、せっかく作った学校をめちゃくちゃにされて、すっげームカついてんだぜ!?」

「アタシも、それ賛成〜!」

「ぼ、僕も!」

「ええっ!? 貴方たちもですか!? でも、この崩れかかったノートの世界に長く居続けるのは流石に危ないですって。ねえ、明戸先輩?」

「そうよ。片岡さんからは『ページが完全に消されてしまうと、ノートの内側に入っている人は元の世界に戻れなくなる』って言われてたんでしょ? あのネコさんを捕まる時間なんかあるかしら?」


 ユタカの提案にノリノリのアオバとりょうたとは対照的に、タカラとあさひは真逆の反応を見せる。

 そして、五人の視線は無意識に一人の人物へと集まった。


「藤橋先生は、どう思います?」

「えっ? 私? 私は…………」


 急に意見を求められて、戸惑う素振りを見せるさくら。

 現状は、三対二。しかし、ユタカは心の中で『ちぇっ』と呟いた。

 恐らくさくらは、“大人な対応”ってやつでタカラたち側の意見にまわるのだろう。

 そうすると三対三になり、意見が決まらずタイムオーバー。帰らざるを得なくなるってとこか。

 くっそ。この世界をめちゃくちゃにしたあのネコを捕まえてやりたかったのによ。

 そんなイライラした思いを頭の中で浮かべていると、不意にさくらの透き通った声がユタカの耳を駆け抜けていった。


「私は、あのネコさんを捕まえる方に一票入れるわ」

「ええっ!? ウソー!? ホントー!? やったぁ!」

「わぁっ!」

「ほ、本気ですか?」

「まさか……。藤橋先生だったら、絶対に『さっさと帰るわよ』って言うと思ってたのに」


 驚きの表情を見せる四人。そして、それ以上にユタカはさくらの言葉に目を丸くする。

 そんなユタカの様子を見て、さくらは面白そうにウインクをして見せた。


「……ハハッ。よっしゃ! 決まりだなっ! あのイタズラネコを追いかけるぞ!」

「ちょ、ちょっと待ってください! やっぱり、あの真っ黒な空間に入るのは危ないのでは――」

「あ、あれ……」


 ユタカを止めようとするタカラの脇で、りょうたがゆっくりと指を差す。


 ――――シャクシャク、シャク。カリッカリッ。

 

 指を差された方角へ視線を向けると、あの真っ黒な空間の入り口付近に、ベチャベチャと音を鳴らしながら低温ボイスを奏でる生き物が、呑気に何かを食べているのが見えたのだった。


 

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