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『ページを完全に消されると、ノートの内側に入っている人間は元の世界へ戻って来られなくなる』
『こちらの世界では“消滅”してしまう』
片岡の長い長い説明の最後に飛び出した、衝撃的な内容。
それまで言われたことを必死に頭のメモ帳に書き込んでいたのに、最後の一言で全てふっ飛ばされてしまった。
「ちょ、ちょっと待って下さい! いつものように、あのノートに入っても戻って来られるってことじゃないってことですか!?」
「…………はっ? “消滅”って何だよ。意味わかんねーんだけど」
「き、消えちゃうってこと……? もう、りょうたくんたちに、会えなくなるってこと……?」
「ええ……。現に今も、部分的に消されている箇所が少しずつではありますが、広がってきているはずです。あのネコが使っていた不思議な消す道具を、皆様はご覧になられましたでしょうか?」
片岡に聞かれ、同時にコクリと首を縦に振る三人。
ネコが半ズボンの後ろポケットから取り出していた、あの消しゴムのような道具のことだろう。
「あれは、『
「じゃ、じゃあ、別にあの三人が消されるというわけでは……」
「いえ。あの『希求筆記帳』の中に入ってしまった以上、それは“ノートに記されたもの”と見なされてしまいます。ましてや、あのお三方は、“消したい”という何らかの思いが強く残っているようでしたので、ネコはそれを消滅対象と認識していると考えられます」
「そんな…………」
消えてしまう?
あの三人が?
いさかいはあったけれど、これまで一緒に協力していた仲間が、いなくなってしまうなんて……。
――――ダンッ!
荒々しく叩きつける音とともに、背もたれに細かい彫刻が施されたダイニングチェアがバタリと倒される。
怒りに震えるユタカが、勢いよく立ち上がったからだ。
「……ざっけんなよ。そんなこと、そんなことさせるわけねーだろっ! 大事な仲間なんだぞ!?」
張り裂けるような叫びが大広間に全体に響き渡り、その振動が身体の奥まで伝わってくる。
何であの時、伸ばされた手を取ることができなかったのだろう。
何であの時、『消した』と疑ってしまったのだろう。
あの学校作りを続けたいと、終わらせたくないと、誰よりも願っていたのは、アイツだったのに。
ユタカの強い叫びに、タカラとアオバも立ち上がり、大きく頷いた。
「その通りです! このまま何もしないわけにはいきません。探しましょう。僕たち三人で見つけ出して、こちらの世界へ戻って来られるようにするんです!」
「うん! 見つけよう! みんなでぜーったい、帰ってこようね! 六人全員じゃないと、あのノートは完成させられないもんねっ!」
「片岡さん、頼む! オレたちはあいつらを、大事な仲間を失いたく無いんだ。どうしたらいい? 力を貸してくれっ!」
「………わたくしの言うことを信じられるというのですか? わたくしのことをお疑いなのではないのですか? もしかすると、皆様を騙しているかもしれないのですよ?」
試すように皆に問いかける片岡。
しかし、三人にとっては片岡を疑うよりも先に、『仲間を助けたい』という思いが前面に現れていたのだった。
「もう、やる前から『どうせ無理』って諦めたくねーんだ。そりゃあ、片岡さんは怪しさ満載だけど、それを言ったらあのネコだって怪しさだらけだもんな。今は時間がねーし、疑うなんて後でもできるだろ。今は、やれることを先にやる!」
「そうですよ。それに、今まで何もできないと思っていた自分が、この世界でこんなにも“主役”としていろいろなことを実現できたのですから、それだけでもありがたいと思っていますよ」
「そうだよー! 学校作り、すっごく楽しかったもんっ! もっといろんな人にもやってみて欲しいなぁ〜」
「…………ふふっ。やはり、皆様をここへお招きしたのは正解でしたね。実は、まだ思考活力エネルギーが溜まっていないと思われたあのお三方は、こちらへお招きしても今回のミッションには関わることすら難しいのではないかと懸念しておりました。『そんなことやっても意味がない』とか何とか言って拒否されると。しかし、結果としては、六人全員でわたくしが思いもしなかった楽しめる学校をいろいろと描いて下さいました。痛感しました。想像は一人で出来ますが、同じ思いを抱えた仲間がいることで、こんなにも無限の可能性を広げられるのだと」
そう言うと、片岡はパッと両手を広げ、三人の前へ見慣れた物を差し出した。
そう、あの『希求筆記帳』である。
「さあ、どうぞ。皆様、このノートの中に入り、閉じ込められたあのお三方を取り戻してきてください。わたくしは、ページが消えないようにこちら側から全力でサポートいたします」
「えっ!? い、いつの間に!?」
「手品かよ! ってか、このノート、あの書斎じゃねーと使えないんじゃねーのか!?」
「ああ、確かにそういう設定でしたね。失念しておりました」
「ええ……? まったく。どこからが本当で、どこからか嘘なのかこんがらがってきましたよ。まあ、この不思議なノートを使えるだけでも非現実的ですから、何でもありなんでしょうけど」
「ふふっ。どうかお許しを。さあ、またジワジワと消える範囲が広がってきたようです。お急ぎ下さい」
そう言うと、片岡は『希求筆記帳』を大きく広げ、まだ消えていないページを指差した。
「ここからどうぞ。お三方を探しやすいように“目印”は付けておきましたので、それを辿っていただければと思います。ただし、残された時間はあまりありませんので、各自分かれての探索になるとは思いますが」
「別々ですか……。少し心配ですが、仕方ありませんね。アオバさん、大丈夫ですか?」
「オッケー! バッチリ任せて!」
「何で、そんな軽いんだよっ! もっと、慎重に――――」
「あっ、片岡さん! 余ったカレー、捨てないでね。りょうたくんたちが帰ってきたらお腹減ってると思うから、すぐに食べられるよう準備しておいてね〜!」
「ア〜オ〜バ〜! お前は、もうちょい緊張感を持てっ!」
どんな時でも天真爛漫な様子のアオバに対し、ガクッと肩の力が抜けるユタカ。
そんないつもの様子を見て、片岡とタカラはクスクスと笑みを浮かべた。
「ふふふっ。大丈夫ですよ。まだ大量に残っておりますからね」
「相変わらずですね。でも、こんな時でも変わらないやり取りが見れて、僕も少し緊張感がほぐれました」
「しかし、さすがに作り過ぎたようで、六人全員が召し上がっても残ってしまうかもしれませんね」
「別に、オレは毎日カレーでもいいぜ。一日置いたカレーも旨えし」
「僕は、毎日は流石に……。じゃあ、残ったカレーをリメイクするのはどうですか? 余り物リメイクも、結構美味しいですよ」
「余り物リメイク……?」
初めて聞くワードに、首を傾げる片岡。
何でも知っていて、何でも出来そうに見える執事のはずだが、一般的な料理に関する知識はすぽっと抜けているようだ。
「あ、アタシ知ってるっ! カレーうどんに、カレーピラフ。カレーパンもいいかも! 食べた〜い!」
「それいいなっ! 旨そ〜!」
「ナイスアイディアです。アオバさん」
「なるほど。料理とは、奥深いものなのですね。大変、興味深いです。余り物リメイク、調べてご用意しておきますね」
にっこりと笑みを浮かべる片岡。
そんな片岡に三人は大きく手を振り、元気いっぱいに言葉を交わしてからノートの世界へと入って行ったのだった。
「「「いってきます!」」」
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