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 探索を始めてから数時間後、三人は強い光に放たれ、いつもの書斎へと戻ってきた。

 校舎内を歩き回って探し続けたため足はクタクタになっており、さらにあのノートの世界から持ち帰れる道具があるか調べる実験もしたため、身体の疲労感は普段の倍以上に感じられた。


「結局、なーんにも見つかんなかったね……」


 上体を起こし、ポツリと呟くアオバ。

 さすがの天真爛漫娘も、あまりの疲れにエネルギーが枯渇しているようだった。

 タカラとユタカも、全身に回る疲労感と徒労感からなかなか立ち上がれず、座り込んだままになっている。

 今はちょうどお昼時だろうか。

 空腹感よりも疲労感の方が上回っているため食欲は湧いていないのだが、せっかく片岡が作ってくれたものを無駄にするわけにはいかない。


「とりあえず、昼食にしましょう。少し休憩した方がよさそうですし」

「だな。午後は、オレたちだけでも学校作りの準備をしとこーぜ。……まあ、あいつらが帰って来たら話し合いをしなきゃならねーけどな」

「そうね。ちょうど、私たちも提案したいことがあったのよ」


 背後から聞こえる、突然の声。

 急に言われた言葉にギョッとして振り向くと、こちらを待ち構えていたかのように、あの三人が書斎の扉に背中をもたれかれるように立っていた。

 疲労感だろうか。それとも緊張感だろうか。

 気まずさとためらいが混じり合った表情を浮かべ、自分たちとは視線を合わせように見える。


「な、何だよ。戻ってきてたんなら声かけてくれりゃあいいのに」

「ごめんなさいね。少し前にここへ戻ってきたらあなたたちの姿が見えなかったから、てっきり大広間へ行っていると思ったのよ。でも、どこにもいないし、屋敷中を探しても見当たらなかったから、もしかしてあなたたちもノートの中に入ったのかと思って書斎に戻ってきたの」

「で? どうだったんだよ。何か見つかったのか? ちなみに、こっちは何も見つけられなかったぜ」


 ユタカのやや棘のある言葉に、一瞬視線を合わせたさくらだったが、すぐに気まずそうに顔を背けた。


「……なかったわ。何度も校舎内を見てまわったけれど、何も見つけられなかった」

「ほらな。やっぱ、時間の無駄だったじゃねーか。じゃあ、これで探索は終了ってことで。昼飯食ったら、残りの学校作りを再開しよーぜ」


 ユタカは勝ち誇ったようにそう言うと、大広間へ向かうために立ち上がった。

 しかし、さくら、そしてあさひとりょうたは扉の前を塞ぐように両手を広げ、懇願するかのように訴えた。


「ま、待ってっ! あの学校にはなくても、もしかしたら他に作った学校に痕跡があるかもしれないわ! だ、だから、もう少しだけ調べさせてほしいの!」

「私もそう思うの! 他のページの中に行ってみる価値はあるんじゃないかしら」

「お、お願い……」

「まだそんなこと言ってんのかよ!? いい加減にしろよな!」

「そうですよ。流石に、これ以上の時間のロスはどうかと思いますよ?」

「アタシ、お腹減っちゃったぁ〜。ねぇ、カレー食べようよー」


 さくらたち三人の言葉に、ユタカだけではなく、タカラとアオバもイライラ度が増してきた。

 何で、この三人はこんなにもこだわっているのだろう。

 やはり、あのノートを完成させる気などないということか。


 せっかく話し合いの場を持とうとしたのに、互いに主張を譲らず、特に、ユタカとさくら、タカラとあさひの口論はどんどんヒートアップしている。

 りょうたはその情景に耐えられなくなったのか、今にも泣きそうな表情を浮かべて書斎の扉前に座り込んでしまった。

 そして、アオバはくるりと背を向け、あの『希求筆記帳』が置いてある木製の大きなブックスタンドへと向かっていった。

 言い争う声から離れるために。


「はぁ…………。もう、どうしたらいいの? お腹だって空いてるのに――って、…………えっ?」 


 アオバはイライラした気持ちと空腹を紛らわせようと、最初に自分で思い描いた学校のページをめくってみた。

 しかし――――――――



「き、消えてる……。ええっ!? な、何で!? アタシの作った学校が、ページが消されてるんだけどっ!?」


 アオバの悲鳴にも似た叫び声に気づき、ユタカとタカラは口論を止めて慌てて近寄って来る。

 アオバは衝撃のあまり立っていられることができなかったのか、床にぺたりと座り込んでしまった。


「アオバさん、どうしたんですかっ!?」

「消えてるって、どういうことだよっ!?」

「消えてるの……。全部、じゃないんだけど、せっかく作った学校が……消え、てる…………」


 震えるように、『希求筆記帳』を指差すアオバ。

 指し示す方向を見ると、アオバが最初に作った『すべての時間が休み時間の学校』のページは、乱雑に斜めがけしたような消し方をされていた。

 さくらたち三人も、同じように部分的に消されたページを見て、顔面蒼白になっている。


「何てこと……」

「せ、先生! このページだけじゃありません! 他のページも同じような消され方をしています!」

「何ですって!?」

「ぼ、ぼくの作った学校も、き、消えてる……」


 あさひの驚きの報告を聞いて全員で全てのページをめくってみると、確かにこれまで完成させた学校のほとんどが部分的に消され、しかも、よく見るとその範囲はじわじわと広がっているようにさえ見えた。

 あまりのショックに言葉が出てこない六人だったが、ユタカはハッと顔を上げ、そしてさくらへ睨みつけるような視線を送った。


「……アンタが消したんだろ」

「なっ!? 急に何を言い出すの!? 馬鹿なこと言わないで!」

「学校作りをやりたくないからって、このノートを完成させたくないからって、消したんだろ! このお屋敷のご主人を探すとか何とか言って、オレたちがあのノートにいる間に消したんじゃないのか!?」

「濡れ衣よ! 私じゃないわ!」

「そうよ! 片岡さんだって言ってたじゃないっ! 一度ノートに書いたら消せないって!」

「じゃあ、何で消えてるんだよ!?」

「知らないわよ!」

「皆さん、お、落ち着いてください!」

「う、うわあああーーん!」

「も、もうどうなってるの!? わけわかんないよーーーー!」


 怒号、悲鳴、叫声。

 書斎の中は、言葉にならない音が幾重にも弾け飛び、渦巻いた状態になっていた。






「うるさいニッ。図書室では、静かにする決まりなんだニッ」


 そんな雑音とは正反対の、遠くまで響き渡るハスキーな声が、書斎の空から降り注いできた。

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