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「また忘れたの? 前にも同じことを言ったでしょ? 何回、繰り返せば気が済むの?」
「何で、約束守れないの? みんなはできているのに、あなただけ何でできないの?」
「どうせ、また口だけ何だろ。お前はいつも途中で投げ出すじゃないか。今回も、どうせ同じだ」
毎日、毎日。どれだけ同じことを繰り返し言われただろうか。
普段忘れやすい性格なのに、こういった嫌なワードだけは記憶に残っている。
知ってるよ。自分だって、忘れたくない。
守りたい気持ちだって、やり遂げたい思いだって持っている。
でも、でも、どうしても、頭の中ではわかっているのに、いつも同じことばかりを繰り返すんだ――
「あ~~~~クソっ! 何だよアイツ! 急に“先生”ヅラしやがって!!」
「ま、まあまあ。落ち着いてください」
「そうだよー。急に大っきい声出さないでよぉ〜」
イライラした気持ちを抑えきれない、ユタカ。
頭をガシガシ掻きむしりながら当たり散らすその行動を見て、タカラは心配そうに声をかけ、アオバは若干呆れ気味の表情を浮かべている。
そして、頭上にはあの球体型の機械がピコピコ音と光を規則的に発していた。
ピピッ。ピピピッ。
「ソクテイカンリョウ。ホンジツノ、ユタカサマノ、シゲキカンカクドハ、“テイレベル”トナッテオリマス」
「そんなの、言われなくてもわかってるっつーの! 見りゃわかんだろーがっ!!」
「機械に当たらないでくださいよ……。彼らは忠実に“仕事”をしているだけなんですから」
「ホントにね〜。それにしても、本当にこの学校にお屋敷の主さんがいるのかなぁ……」
ここは、あのタカラが生み出した学校の一教室。
一階の小学部棟の教室を端から見て回っている最中だ。
自分たち以外の人影が見えないか、あのしおりのように麻生田家当主の持ち物が落ちてないか、隈なく探している。……不本意ではあるが。
自分たちの意見だけを主張し、こちらの言い分も聞かずに先に入ってしまったさくらたち。
仕方なく、残された三人は書斎に残って新たな学校を想像しようとしたが、まったくもって集中などできない。
そのため、ユタカたちも途中で作業を止め、あの学校に再び入り直していたのだった。
――――ただ“楽しいだけの学校”とか、“遊んでいるだけの学校”みたいに適当にパッと完成させるよりも、より慎重に精度の高いものにすべきよ。それが、この国の人たちのためになるんじゃないかしら。
――――悪いけど、これに関しては緊急度が高い方を優先させるべきよ。痕跡を見つけたからには、このチャンスを逃すべきではないわ。だから、今回はこちらの意見に従ってもらうわよ。いいわね。
先ほどのさくらの言葉が、まだ頭の中でぐるぐると駆け巡る。
「あ~~~~マジでムカつく! 全部勝手に決めやがってっ! これまで全員で話し合いしながらやってきたっつーのによ!」
――ガンッ! ガガンッ!
ユタカの怒りは収まらず、教室内に置かれてある机やイス、道具箱などを思いっきり蹴っていった。
これまでは、こんな一方的な進め方はしなかったじゃないか。
最初は教師側の立場で物事を進めようとしているように見えたさくらも、途中からはオレたち目線に立って関わってくれたじゃないか。
それぞれ年齢も考えることも違ったけれど、それでも、お互い意見を出し合い、話し合ってきたじゃないか。
それなのに、何で突然。
何で今更、オレが“最も嫌いなタイプの先生”になっているんだ。
『自分を見てくれない』
『先生の言うことだけが正しいと押しつける』
『こちらの言い分を聞いてくれず、同じことばかり説教する』
これまで、何度も何度も味わってきた苦い経験。
もちろん、自分が原因なことが大半だった。
でも、それでも、わざとじゃない。理由なくそうしているわけじゃない。
何事にも諦めが早いオレ。忘れやすいオレ。
自分でも、わかってる。周りからも散々言われてた。
次は頑張るって言っても、『どうせ口だけだ』って。
やろうと思ってもすぐに諦めることばかりだった。それが“当たり前”だった。
でも、この世界でやってきたこと、仲間全員で作り上げた学校は凄く夢中に取り組めた。
正直、こんなに続くなんて思いもしなかった。
初めてなんだ。初めて、最初から最後までやり遂げることができるんだ。
だから、どうしても完成させたい。あの“願いを叶えてくれる不思議なノート”を。
みんなも、同じ気持ちでいてくれていると思っていたのに――――
「クソっ…………」
「本当に、みなさんどうしてしまったんでしょうね……。さすがに、僕も藤橋先生からあんな風に言われるなんて、何ていうか、ショックでした」
「だよねぇ……。別に、テキトーに学校作ってたわけじゃないのになぁ。もしかして、学校を作るの、やめたくなっちゃったのかな? アタシたち、バラバラになっちゃうの、かな……」
普段は天真爛漫な表情を見せるアオバでさえも、あの時の言葉を思い浮かべるとさすがにショックを隠しきれないでいた。
「そ、そんなことありませんよ! でも、何か焦って言っている感じのようにも見えましたよね。急に意見が変わったというか……」
「うん……。そんな感じだった。アタシだって、あのしおりを見つけた時は他に不思議な道具があると面白いかもーっとか、あのしおりの中の続きも見てみたいなぁーって思ったよ。――でもでもっ! やっぱりノートを完成させたい思いの方が強いし、今まで作ってきた学校は別に変だなんて思ってないよ。一緒にやっててすっごく楽しかったもん! その気持ちは、あの三人も無くしてないと思うんだけどなぁ」
「…………」
タカラとアオバの言葉を聞きながらも、ユタカのもやもやした気持ちはどんどん膨らみ、晴れないままになっていた。
――本当に、何であんなに耳を塞ぐようにこっちの言い分を聞かなくなったんだ?
――なんで、急に変わっちまったんだ?
眉間にしわを寄せたまま、悩み続けるユタカ。
そんな様子を見て、タカラとアオバは声のトーンを上げ、必死にこの空気感を変えようとした。
「ま、まあ、こちらはこちらでやれることをやっていきましょう。とりあえず、“道具探しクエスト”みたいにやってみませんか? ゲーム感覚で探索できれば楽しみながら取り組めると思いますよ」
「あっ、それいいね〜。そうだっ、思いついた! ね、見て見てっ! じゃーんっ! アタシはね、ここにある道具を持てるだけ持っていって、向こうの世界に現れるかどうか実験してみるね! ポケットにもいーっぱい詰め込んだもんねー!」
二人の楽しそうな、温かな言葉。
その思いに、ユタカの棘が刺さった心は、ゆっくりと丸みを帯びていったのだった。
「――――くくっ。ったく、お前らってやつは。はっ、ははっ。…………ん、悪かったな。八つ当たりして。一人で怒ってもどうしようもねーよな。どうしてそうなったのか、ちゃんと話し合わなきゃダメだよな」
ユタカの言葉を聞き、アオバは表情を緩め、タカラはほっと息を撫で下ろす。
そして、頭上には、あの丸い球体の機械がくるくると回っていた。
ピピッ。ピピピッ。
「ソクテイカンリョウ。ゲンザイノ、ユタカサマノ、シゲキカンカクドハ、“コウレベル”トナッテオリマス」
自分たちまで息の詰まる空気感になってはいけない。
一人で抱え込み、一人で暴走しても、何も始まらない。
みんなで協力しないと、進まない。
……もし例え、三人だけになったとしても、自分たちだけはあの『学校作り』を続けるんだ。
その後、普段の状態を取り戻した三人は、校舎の隅から隅まで探索し続け、道具を持ち運んであちらの世界とノートの世界を行き来するなどしてみた。
――――が、人影はおろか、不思議な道具すらも発見することはできなかったのだった。
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